プロローグ 確認
室内は薄暗かった。
窓は小さく、昼だというのに光はほとんど差し込まない。
燭台の火だけが揺れ、そのたびに壁に映る影が歪んだ。
テーブルを挟み、少年は椅子に腰を下ろしていた。
向かいには若い女がいる。
年齢は少年と大きく変わらないだろう。
まだ少女と呼べる年頃だ。
だが、纏う空気は世間一般のそれとは別だった。
背筋は真っ直ぐに伸び、両手は静かにテーブルの上に置かれている。
隙のない所作。
育ちの良さを感じさせる一方で、それだけでは説明できない圧がある。
――言いしれぬ凄み。
この部屋の主は、おそらく彼女だった。
壁際には数人の男たちが立っている。
誰も口を開かない。
ただ値踏みするような目で少年を見ている。
そしてテーブルの端には、案内役だった男が小さく立っていた。
「話は理解してくれたな?」
女が口を開いた。
静かだが、よく通る声。
「多少は」
少年は答える。
「それで、返事は? できればすぐに知りたい。仲間と相談してもらっても構わないが――」
「ご安心を。もう決まってますので」
女の眉がわずかに動いた。
遮られたことへの不快感からか。
それとも――淡い期待か。
対する少年は顔色ひとつ変えない。
そして静かに告げる。
「ギルドを通して依頼を出してください。冒険者への依頼として正式な手順を。そうでないなら応じられません」
室内の空気がわずかに揺れた。
壁際の男たちが視線を交わす。
しかし女だけは表情を変えなかった。
「ギルドを通せば……互いに困る。それは理解しているんだろうな?」
「俺は困りませんよ」
少年は淡々と答えた。
「それに……そちらの体面の話なら、今さらでしょう?」
女の目がわずかに細まる。
「外部に頼る必要がある時点で、相手は察していますよ。あなた方に、戦力がないなんてことはね」
沈黙が落ちた。
女はじっと少年を見ている。
試すように。測るように。
少年もまた視線を外さなかった。
――だが、そのやり取りの意味を理解できなかった者もいた。
沈黙を破ったのは壁際の男だった。
小柄な男が一歩前へ出る。
乱暴にテーブルへ両手を叩きつけた。
鈍い音が響き、燭台の火が揺れる。
「……ナメた口叩きやがって」
男が身を乗り出し、少年の横顔に顔を近づける。
「お前、ここがどこかわかってんのか?」
酒と煙草の臭いが鼻につく距離。
「俺たちが何者か知ってて言ってんのか? あぁ!?」
しかし少年は動かなかった。
男を見ることすらしない。
視線は最初から変わらない。
向かいの女だけを見ていた。
静かに。
真っ直ぐに。
まるで最初から、この場で話す価値があるのは彼女一人だと言わんばかりに。
男の顔が引きつった。
「……ナメすぎだろ、ガキ」
腰のナイフへ手が伸びる。
その瞬間。
「――いいんですね?」
少年が口を開いた。
静かで、感情が見えない。
だが、それだけに重い。
男の動きが止まる。
「臭い息をかけられようが、脅されようが……まだ、あなた達は俺の敵じゃない」
その言葉もまた、男ではなく女へ向けられていた。
「でも」
少年の視線は一度も逸れない。
「それを抜いたら――俺は、俺を守るための行動をします」
空気が変わった。
肌を刺すような緊張が室内を満たす。
それは男へ向けられたものではない。
この場の決定権を持つ女へ向けられたものだった。
抜かせるのか。止めるのか。
選べと告げている。
感情的な威圧ではない。
ただ事実を告げるだけの殺気。
だからこそ――重かった。
「てめぇ……上等じゃねぇか!」
男の怒気が強まる。
だが少年の視線は微動だにしない。
まるで男の存在そのものが意識の外にあるかのように。
女は黙って少年を見つめていた。
その目は、値踏みする目から変わっていた。
興味か。警戒か。
あるいは、評価か。
「てめぇの力なんているかよ! 宗教国家のクソ冒険者なんかのよ!!」
男は勢いよくナイフを――。
少しでも気に入りましたらブクマ、リアクションよろしくお願いします
感想もお待ちしてますm(_ _)m




