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望まぬ2度目の人生を。〜前世の記憶と痛みを抱いて、それでも俺は生きていく〜  作者: 灰とダイヤモンド
第四章後編 共に生きる未来を望む

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第四章最終話 次の旅へ

朝。


アイオンは、冒険者ギルドへと向かっていた。

貧民街で一夜を過ごし、体は冷え切っている。

だが気にはならなかった。


メリッサへの報告を済ませ、さっさと王都を出る。


相変わらず目的もなく威圧するように立ち並ぶ兵士達を横目に、アイオンは歩く。


やがて冒険者ギルドが見えてくる。

だが――


(……あれ?いない)


前に来た時は、ここにも兵士が立っていた。

だが、誰もいない。


不審に思いながら、中へ入る。


「……」


静まり返っていた。

それはおそらくいつもの事だろうが、受付にも誰もいない。


「……店休日か?」


そんなものがあるのか?

しかし、王都のギルドならありえるのかも。


誰かを呼び出す鈴でもあればいいのだが、それも見当たらない。


(……それならそれでいいか)


メリッサへの報告をしなければ、依頼料が入らないかもしれない。


依頼主のジーナが報告すればいいし、個人的にメリッサと関わる気ももうない。


世話になったのは事実なので、最後に挨拶くらいはしたかったが……


「よぉ、アイオン」


奥から、声がした。

振り向くとグレイスが歩いてくる。


「グレイスさん。誰もいませんが、なにかあったんですかね?」


アイオンが尋ねる。

グレイスは、深く息を吐いた。


「俺もわからん。昨日の夜まではなにもなかったはずなんだがな」


首を振る。


「だが、関係者は皆出払ってる。奥にもいない」

「誰も?」


「ああ。元々、ここは少人数で足りてる。指名依頼か秘匿依頼しかないからな。しかし、一人もいないというのは初めてだ」


グレイスが、暗い目をする。


「……ギルドにとってマズイことが起こったんだろうな。ギレン――ここの管理者とは昨日の夜話したんだが、なんの素振りも見せてなかった。おそらく早朝になにかがあったんだろう」


グレイスが、腕を組む。

そして、話を変えて尋ねる。


「で、お前はどうしたんだ?」

「メリッサさんに会いに来たんですけど……都合が悪かったみたいですね」


アイオンが、肩をすくめる。


「それならそれで構いませんが。では」

「……もう王都から出るのか?」


立ち去ろうとするアイオンに、グレイスが眉をひそめる。


「まだ雪が降るぞ。魔物や賊は問題なくても、自然は脅威だぞ」

「田舎の村育ちなんでわかってますよ」


アイオンが、小さく笑う。


「でも、王都にいるより安全です。……寒いのには慣れてますから」

「……そうか」


グレイスが、納得したように頷く。


「まぁ、元気にやれよ。お前には期待してるんだ」

「期待って、やめてくださいよ。できる事をしていくだけです」


グレイスがほくそ笑む。


「だからだよ。それが一番、大事な事だからな」

「……皆、勝手に俺の事を高く見積もる。もう沢山ですよ」


アイオンのため息に、グレイスはやはり笑った。


二人は、しばらく談笑していた。

雪の話、旅の話、冒険者の話。


不意に、ギルドの扉が開いた。

足音。

一人の人物が、入ってくる。


長髪。

派手な装飾のマント。

そして――腰には、刀が見えた。


その姿を見て、グレイスの表情が変わった。


「……」


無言のまま、アイオンの前に立つ。

意図的に、視界を遮るように。


(……?)


その人物はグレイスに気づき、声をかける。


「あー……グレイス?だったか?よぉ」


軽い調子。


「……ああ」


グレイスは短く答え、続けて尋ねた。


「なぜここに?」


男は首を傾げる。


「依頼があるって聞いたから来ただけだよ」


興味なさげな声。


「しかし、誰もいないのか?いつもなら、出迎えの一人や二人はいるはずだが」


「……いない。奥にもな」

「……面倒だな」


肩をすくめる。


「まぁいい。奥で待つか……お前も来いよ。話そうぜ」


その時、男の視線がグレイスの背後へと向いた。

アイオンと、目が合う。


「……ん?」


男が興味を示す。

そしてアイオンの腰に差された刀を見る。


「おやおや?」


軽く、笑った。


「珍しいな、刀使いか!どこで手に入れた?」


一歩、距離を詰める。

グレイスがわずかに身構えるが――止めきれない。


「可愛い顔して、男か?俺に憧れてるのか?」


男が、冗談めかした調子で言う。


「いえ、別に――」


アイオンが淡々と返そうとした、その瞬間。


「そうだ」


グレイスが、割って入った。


「珍しくもないだろ。最強の冒険者に憧れる奴なんて、腐るほどいる」


男の視線を、遮るように。


「まぁ、そうだな。しかし、武器まで真似るとなると大変だったろ?刀はレア物だからな〜」


男は満足げに頷く。


「頑張れよ、少年。俺みたいになるのは無理だろうが、目標は高くもて!じゃあグレイス、奥で待ってる」


軽く手を振り、奥へと消えていった。



グレイスが、深く息を吐いた。


「……行ったか」

「あの人は?」


アイオンが尋ねる。


「“瞬迅”だ」


静かな声。


「名前くらいは知っているだろ。冒険者ギルドの最強格だ」

「あの人が……なぜ、あんな事を?」


アイオンは眉をひそめる。

なぜ割って入ったのか。

なぜ、視界を遮ったのか。


「……お前のためだ」


グレイスは、真っ直ぐに見据えた。


「あいつには、関わらない方がいい。――特にお前は」


そこには、はっきりとした警告があった。


「なら、そうします。別に興味もありませんし」


アイオンはそれ以上を聞かず、頷く。

グレイスが、軽く肩を叩いた。


「理由も聞かずに納得するとはな。やはり、いつか大物になる」

「面倒な事を増やしたくないだけですよ……」


アイオンは頭を下げる。


「では、またどこかで。お世話になりました」

「ああ。達者でな」


グレイスは、その背を見送った。


(あの一瞬なら、顔を覚えられる事もないだろう。潰されるには、あまりにも惜しい……)


閉まる扉を見つめながら、思いを巡らせる。



冷たい風が、頬を撫でた。

雪が、再び降り始めている。


(あれが“瞬迅”か……)


細身の体格。

刀という武器。

そしておそらく、高速戦闘の使い手。


自分の戦闘スタイルは瞬迅を連想させるそうなので、おそらくそうなんだろう。


だが、グレイスはなぜあんな態度を?


(……関わるな、か。どういう意味だ?)


グレイスの警告が、胸に残る。


(もう王都は出る。関係ないか)


アイオンは、フォスター家へと向かった。



フォスター公爵邸。


雪が降り積もる中、アイオンは門の前に立った。

門番が、慣れた表情で近づいてくる。


「ようこそ! お待ちしてました!」

「荷物を取りに来ました。カストルさんに伝えてもらえますか」


アイオンは手短に要件を告げる。

この門番とも多少の会話を交わす間柄ではあったが、今日はそれ以上を望まなかった。


門番は、少し寂しそうに頷く。


「……少々お待ちを」


やがて門が開く。


「どうぞ、中へ」


アイオンは敷地内へ足を踏み入れた。

だが――


(……なんだか、慌ただしいな)


使用人たちが忙しなく行き交っている。

いつもの静けさとは、明らかに違っていた。


玄関口に、カストルが立っていた。


「アイオンさん……」


その表情には、疲労が滲んでいる。


「お待ちしておりました」

「荷物と、リズに別れを告げに来ただけです。すぐに済みます。お手数をおかけして、申し訳ありません」


必要最低限の言葉だけを返す。

社交辞令のようでいて、それ以上踏み込まない態度だった。


カストルは一瞬、言葉を探すように視線を伏せる。


「……旦那様は来客対応中です。アイオンさんにお会いする時間は、恐らく取れないかと」


言葉を選ぶような言い方だった。


「そうですか」


短く答える。


「構いません。会いに来たのは、リズですから」


その声は、淡々としていた。

カストルはわずかに表情を曇らせたが、何も言わない。


「……リズ様はお部屋にいらっしゃいます。ご案内します」

「お願いします」


二人は廊下を進む。

響くのは、静かな足音だけだった。


やがて、使われていた部屋の前に着く。

カストルがノックする。


「リズ様、アイオンさんがお見えです」

「アイオン!」


扉が勢いよく開き、リズが飛び出してきた。


「アイオン! アイオン!」


腰にしがみつく。


「やぁ、リズ」


優しく頭を撫でる。


「会いたかった! 昨日、ずっと待ってたのに……寝ちゃって……」


涙を浮かべた瞳。


「ごめんね。予定より早く戻ってきたんだ」

「ううん! 会えたから、いいの!」


リズが笑う。

カストルが、そっと一礼した。


「では、失礼いたします」


静かに立ち去る。



部屋の中。

二人は向かい合って座っていた。


「……アイオン、もう行っちゃうの?」


寂しさを隠さない声。


「うん」


小さく頷く。


「でも、いつかまた会える」

「……本当?」

「本当だよ」


微笑む。


「リズがここで元気に過ごしていれば、きっと。また会える。俺は旅をするけど、最後はこの国の……俺が育った村に帰るつもりだから」

「アイオンの村……?」

「オルババ村っていうんだ」


穏やかに告げる。


「田舎で、王都みたいに珍しいものはないけど……家族がいる。妹とも約束してる」

「妹……」


リズの目が、少し輝く。


「今は九歳。リズより、少しお姉さんだ」

「……会いたい!」


その笑顔に、アイオンは小指を差し出した。


「じゃあ、約束。リズが元気になったら、村に来て。俺の妹と、友達になってあげて」

「……うん!」


小指が絡む。


「約束!」


二人は笑い合った。


やがて、リズが立ち上がる。


「あのね、アイオン」


部屋の隅から、何かを持ってくる。


「これ……できたの」


手作りのマフラーだった。

編み目は不揃いで、ところどころほつれている。

それでも、確かな想いがこもっている。


「……ありがとう」


受け取り、首に巻く。


「……どう?」


不安そうな声。


「すごく、暖かいよ」

「……よかった」


リズは笑った。

だが、その瞳には涙が浮かんでいる。


しばらく、会えなくなる。

自分を救ってくれた、大切な人と。


「リズ……」

「……大丈夫」


震える声で、必死に堪える。


「また、会えるもん……」

「……うん」


しゃがみ込み、目線を合わせる。


「またね」


頭を撫でる。


「……うん」


力強く頷いた。

そして笑顔を作る。


「アイオン……大好き」

「ありがとう」


最後に抱きしめ、立ち上がる。


「じゃあね、リズ」

「……うん。また、ね」


手を振り合い、部屋を出た。


扉が閉まったのを確かめてから

リズは声を押し殺して泣いた。



廊下で、カストルが待っていた。


「……お荷物はこちらに。勝手ながら整理させていただきました」

「部屋になかったのでなぜかと思いましたが……ありがとうございます」


受け取る。


「……アイオンさん」


カストルが口を開く。


「旦那様は……あなたに何かを求めたわけではありません。ただ、答えが欲しかったのだと思います」


「……俺にも、なにもわかりませんよ」


静かに、強く否定する。


「できることなら、笑って終わりたかった。世話にもなりましたし、信頼できる大人に出会えたと思えたから」

「……」


借りていた手帳を差し出す。


「ですが、ここまでです」


冷たい声だった。

カストルは深く頭を下げる。


「……それはお持ちになってください。王都から出るのにも、必要ですので。――お気をつけて」

「……はい。お世話になりました」


アイオンはそれだけ告げ、歩き出す。

振り返らず、玄関を出た。


雪が、静かに降っている。


窓辺で、リズが小さく手を振っていた。

懸命に。


アイオンも手を振り返し、門をくぐる。


「……アイオンさん」


門番の声。


「はい?」

「……お元気で」


「ありがとうございます」


頭を下げる。


「お世話になりました」


門番も深く頭を下げた。


フォスター家が、背後に遠ざかっていく。

リズの笑顔が、胸に残る。


(……また、会おう)


そう心に呟き、前を向いた。

雪は、降り続けていた。



王都の門が、見えてきた。

白く染まった街道を、アイオンは一人歩く。


リズから貰ったマフラーが、首元を温めてくれる。


(……やっと、出られる)


息詰まる王都。

貴族の思惑。

ギルドの腐敗。

女神教の偽善。


言い様のない苛立ちすべてから、解放される。


「止まれ」


門の兵士が声をかけてくる。


「通行証は?」


アイオンは、フォスター家の紋章入り小冊子を見せる。


兵士はそれを確認し、短く頷いた。


「……行け」


門が、開く。

アイオンは一歩、踏み出す。


王都の外へ。

そして、振り返った。


高くそびえる城壁。

その向こうに、虚構の都がある。

金と権力に塗れた、偽りの場所。


(……サヨナラだ)


小さく呟き、前を向く。

雪の中を、歩き出した。


目指すのは、ククルス自由経済国家。

ヘルケイル山がある国。


正確な場所は、わからない。

だが、とりあえず次の村か街を目指す。

そこで情報を集めればいい。


(……あてはないけど)


足を進める。


(進むしかない)


雪が、静かに降る。

足跡が、白い道に残される。


やがてそれも、新しい雪に覆われて消えていった。

アイオンはただ、前を向いて歩いた。


一人で。

だが、孤独ではなかった。


リズの笑顔。

ラガの言葉。

アルテアの決意。


すべてが、胸の中にある。


(……必要なのは地図だな)


雪の中を、歩き続けた。

王都が、遠く霞んでいく。


虚構の都に別れを告げて――

アイオンは、新たな旅へと踏み出した。

少しでも気に入りましたらブクマ、リアクションよろしくお願いします

感想もお待ちしてますm(_ _)m

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