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望まぬ2度目の人生を。〜前世の記憶と痛みを抱いて、それでも俺は生きていく〜  作者: 灰とダイヤモンド
第四章後編 共に生きる未来を望む

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交渉

砦の外、設営されたテント。

中央のテーブルに、ジーナがゆっくりと腰を下ろす。

隣にハルクが座った。


少し離れた位置。マルティン、エルネスト、ヘリムが控える。

さらに後方。グレイス、ティアナ、リベラが立つ。

護衛として、静かに見守る形だ。


向かいの席――ギルバート。

その両脇に灰狼の傭兵が二人。


「――では、始めましょうか」


ジーナが口火を切る。

ギルバートが頷き、テーブルに手を置いた。


「まず、我々の目的を――」

「この付近をティガル族の領地として認めさせること。そのために、アルゼン兄様の管轄から外す必要がある。でしょ?」


淡々と告げるジーナ。

ギルバートは表情を変えず、小さく息を吐いた。


「……アイオンから聞きましたか」

「ええ」


静かに微笑むジーナ。


「火薬の原材料が山岳地帯で発見された。それを独占するために、ティガル族を介した取引ルートを確保したい。……ここまでは聞いたわ」


ギルバートが頷く。


「――その通り。かしこまった口調もここまでにしておく」

「そっちの方がやりやすいわ」


苦笑するギルバート。

そっと腕を組み、ジーナを見据える。


「――で?王女殿下はどう判断する?あんたが王を真剣に目指すってんなら、第一王子の失脚は必要な事だろ?材料はある。ティガル族の証言を聞けるのはうちのヘミングとアイオンだが、アイオンは政争に巻き込まれるのはごめんだと考えてる。そうなれば、ヘミングを頼るしかない」


背筋を伸ばし、真っ直ぐにギルバートを見据えるジーナ。


「協力はするわ。ただし、私にも条件があるの」


ギルバートが眉を上げる。


「……条件?」

「ええ」


淡々と続ける。


「バザーム砦を私の管轄下に置く。アルゼン兄様の失態は追及せず、貸しを作る形で権限を譲渡させるわ」


考える素振りを見せるギルバート。

ハルクも、少し慌てたような視線をジーナに向ける。


「……それは、どういう意味だ?」

「そのままの意味よ」


補足するジーナ。


「アルゼン兄様は、ティガル族を拘束し、人体実験の道具にしていた。それは事実。……でも、公に追求しても誤魔化す手段なんていくらでもある。なんせ、あっちは次期国王に最も近い存在で、大多数の貴族を抱えているし……《《真の支配者》》教皇べゼブがいる」


ため息混じりに続ける。


「……だって、兄様達が指示したという決定的な証拠はないんですもの。砦長か副官が生きていれば芽はあったかもしれないけどね」


腕を組み、考え込むギルバート。


「……なるほど。第二王子側がこの情報を得ても、有効利用はできない……だが、これだけの騒ぎが起こってしまったんだ、曰く付きの土地になるのは避けられない。そこであなたの出番――」

「私の直轄領地とするわ。その上で、ティガル族に山岳地帯を正式に渡す」


告げるジーナ。


「ただし、名目上は【ローズレッド王国の保護下にある自治領】という形にする。完全な独立ではなく、王国の一部として扱う。それなら、王国もなにも言ってはこない。私がこの砦を整備し、交流地点にするわ」

「……それで?俺達灰狼のメリットは?」


問うギルバート。

静かに微笑むジーナ。


「あなた達と、専属契約を結びたい」


テント内の空気が変わった。


「……専属、だと?」


身を乗り出すギルバート。


「ええ。灰狼傭兵団と私の間で、長期的な契約を結ぶ。あなた達は私の依頼を優先的に受ける。その代わり――」


指を一本立てる。


「火薬の取引ルートを保証する。ティガル族を介した合法的な取引として、王国が認める形にするわ」


両脇の傭兵たちが、僅かに身を乗り出す。

ギルバート自身も、目を見開いた。


「……それは、つまり――」

「正式な独占権よ」


はっきりと告げるジーナ。


「火薬の原材料採取と取引。それを灰狼が独占できるように、私が保証するわ」


沈黙が落ちる。

深く考え込むギルバート。


(……これは)


予想以上の好条件だ。

山岳地帯をティガル族に。

火薬の独占権。

そして、王女との専属契約。


(……団長が聞いたら、飛びつくだろうな)


いや、飛びつくどころか――これ以上の着地点はない。


ギルバートは灰狼傭兵団の副団長に過ぎない。

最終的な決定権は、団長にある。


だが――


(これを断る理由がない。むしろ、断ったら俺が団長に殴られる)


小さく笑うギルバート。


「……王女殿下」

「何?」

「一つ、聞きたい」


鋭くジーナを見据える目。


「なぜ、そこまでする?」


「協力者が欲しいだけなら、ここまで譲歩する必要はない。火薬の独占権まで与えるとなれば、王国にとって大きな損失になる。いずれ有効性がこちらにも伝われば、大きな武器になるからな」


静かに微笑むジーナ。


「損失?いいえ、投資よ」

「……投資?」

「そう。未来への投資」


真っ直ぐにギルバートを見据える。


「私はこの国の玉座を目指している。そのためには、力が必要。味方が必要。あなた達灰狼は、その第一歩よ。あなた達が大きくなれば――私の戦力の中核を任せられる」


目を細めるギルバート。


「……いずれ、灰狼を飲み込むと?」

「ええ」


迷いなく答えるジーナ。


「でも今じゃない。……今はあなた達の方が圧倒的に上だから。でも火薬の量産体系が済み、あなた達が大きくなるまでには――私も力をつけている。それに、そっちの方がいいんじゃない?」


試すように、微笑む。


「なんせ盤石な支配体系を築いてる王国に、いずれ反乱を起こすのよ?継承順位最下位の第三王女がね。その中核を担うのは、元はただの傭兵団よ?――間違いなく、歴史に残るわよ」


確かな決意が、その目にあった。

少しの間、ジーナを見つめるギルバート。

やがて、小さく笑う。


「……そりゃあ、おもしろいね」


隣の傭兵が呟く。


「本気だな、この嬢ちゃん」

「ああ。……それに、先の話は不確定だ。量産体系が整った時に、王女殿下の力がなかったらどうにでもなる話だしな」


身を乗り出すギルバート。


「だが、王女殿下。一つ確認させてくれ」

「何?」

「――汚れ仕事も厭わないか?俺達は綺麗事だけの世界に生きちゃいない。ましてこの国だ、王を目指すともなれば、切り捨てなきゃならないことも増えてくる。俺達は勝手に判断してその障害を取り除くことだってあるかもしれん。それでも抱える気はあるのかい?」


テント内の空気が張り詰める。


僅かに身構えるハルク。

緊張した面持ちのマルティン、エルネスト、ヘリム。


だが――

表情を変えないジーナ。


「当然よ」


静かに、だがはっきりと告げる。


「綺麗事だけで王になれるなら、誰も苦労しない。必要なら汚れた道も歩く。それが王を目指す者の覚悟よ」


僅かに見開かれるギルバートの目。


「……」


沈黙が落ちる。

やがて――大きく笑うギルバート。


「はははっ!いいね、その覚悟!」


傭兵たちも笑う。


「気に入ったぜ」

「俺もだ」


笑いを収め、真剣な表情でジーナを見据えるギルバート。


「わかった。乗ろう、その話に」


微笑むジーナ。


「ありがとう」

「ただし――」


指を立てるギルバート。


「俺は副団長だ。最終的な決定は団長に仰がないといけない」

「わかってるわ。団長の承認が必要なのは当然よ」


頷くジーナ。

腕を組むギルバート。


「まずは必ずこの地の権利を得てくれ。そして、ティガル族との交渉もな。そっちはヘミングを通訳に貸し出せるが、権利は王女殿下が勝ち取らなきゃならない」


小さく笑うジーナ。


「第一関門が一番大事ね」

「ああ。それができなきゃ――ただの妄想話だ」


頷くギルバート。

交渉は滞りなく終わった。



テントの隅に座り、深く息を吐くジーナ。


(……第一歩、ね)


胸の奥で、何かが動き出したような感覚。


汚れた道を歩く覚悟。

それを口にした時、自分でも驚いた。


(本当に、これで良いの?)


迷いが、胸に渦巻く。

だが――


(……やるしかない)


もう、引き返せない。

決めたのだ。


王を目指すと。


マルティンとヘリムが近づいてくる。


「大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫よ」


笑顔を作るジーナ。


「これからよ。本当の戦いは」


そう告げて、窓の外を見つめた。

白い雪が、静かに降り続けていた。

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