言葉に切り裂かれた子供 その3
「へえ、それでお前は燦士郎の身体の傷に驚いちゃって声を上げたワケね。そんで僕に風呂桶を投げたワケか。あの美しいフォームで。」
僕は未だに痛む顔を抑え、柿本の部屋で風呂から上がってアイスを食べている彼女と話していた。
燦士郎もリビングの方で柿本と同じアイスを大人しく食べている。
ちなみに僕の分はない。
「でもどうしましょう鎌田君。彼に事情を聞くべきかしら?あの量の傷が身体にあるのははっきり言って──いや、はっきり言わなくとも分かるくらいに異常よ。異常すぎるほどに異常。もしかしたら、苛烈な虐待とかを受けているのかもしれないわ・・・・。でもそれだとしたら本人には聞きにくいし・・・。」
柿本は心底困惑しているような表情で言った。
その気遣いの1割でも僕に割けないのかね。
「でもまあ、"異常"とか"奇妙"には決まって憑神が関わっているしな・・・。それなら解決しないわけにもいかないだろ。本人に聞くしかないんじゃねえの?──いやしかし、直接聞くのは憚られることではあるんだけれどさ。でもあいつは賢そうだぜ。憑神は心に住み着いているわけだから、あまりストレスを与えたり刺激するのはまずいけど、遠回しにそれとなく聞いてみれば、少なくとも癇癪を起こすとかは無いだろう。聞けなければ、まあそれまでで仕方ないんだけど。」
僕は当然のことを当然のように述べる。残念ながらどうやらこれが一介の高校生の限界のようだ。
「それにしても、お前子供には本当に優しいよな。なんでだ?」
「可愛らしいじゃない、癒されるわ。鎌田君みたいな捻くれ者を極めた人間には分からないでしょうね。それともロリは嫌いかしら?」
「子供をそんな目で見るな!一番捻くれ者を極めているのは僕じゃなくてお前だ!」
まったく、なんなんだよ。
そもそも燦士郎はロリじゃなくてショタの類だろうが。
いや、意外にも柿本はショタコンなのか?
マジで?
「冗談よ。昔の自分を見ているようで落ち着くから、と言えばいいのかしらね。まだ何にも憑かれていないし、何も失っていなかった頃の自分を──。」
ああ。
そういう見方か。
こいつも案外、色々と考えていたりするわけだ。
「案外とは何よ。」
「じゃあ訂正しよう、『意外』。」
「遺骸とは何よ。」
「漢字がちげえよ、子供好きを名乗るやつがさらっと恐ろしいことを言ってんじゃねえ。」
「そうそう、うっかりしていたわ。これじゃあ鎌田君を指すことになっちゃうわね。──にしても、あなたは子供じゃないのだから、別に関係ないじゃない。案外だの意外だの言っておいて、心外の極みだわ。」
「遺骸と言ってしまえば僕は死んだことがないというのは嘘になるから、いや、別に遺されたわけでもないけれど・・・・なんつーか、そのギャグはイマイチ洒落になってねえぞ。心外だのなんだの言ってないで、それよりも燦士郎の心配をしろや。」
「あと何かにつけて僕を罵倒しようとするのをやめろ。傷つくぞ。普通に凹む。出すぎた杭は打たれるなんてよく言うが、僕は出すぎてもいないのに打たれすぎた哀れな杭だ。」
謝罪を要求しよう。
ついでに金も。
今月は金欠だ。
「自分でそういうことを言えてしまうところが出しゃばりすぎと言っているのよ。鎌田君はいくら撃っても撃ち足りない──いえ違ったわ、いくら打たれても打たれ足りない杭よ。」
「おいちょっと待て!?一瞬お前、自分の嗜虐心というかドS欲求を満たそうとしてなかったか!?僕をその標的にしようとしなかったか!?つーか読者さんも僕も誤字に気づいてるからな、杭は打たれるもんであって撃たれるもんじゃねーんだよ!さりげなく打撃より酷いダメージを与えようとするな!!」
「制裁よ。といっても、どうせ再生するんだしいいじゃない?」
「言葉で遊ぶな。漢字を逆から読んで再生にしようとか、浅はかにもほどがある。水溜まりより浅い思慮が丸見えだ。つーか僕はもう人間なんだから、よほどのことがなければ再生なんてしねえよ。」
「浅い思慮とは何よ。私は海よりも深い慈愛の心の持ち主だわ。」
「そういう見え透いた嘘をつくところが浅いっつってんだ。──ったく、お前の初期キャラはどこへ行ったんだよ。お前、僕の憑神を『人喰い』と呼ぶのを躊躇って、無理に換言してくれたようなシーンがあったろ。」
「記憶にないわ。」
「文字に起こされてんだよ。」
「でもこんなの誰も読んでいないのだから、それが他人様の目につくことはないわよ。」
「ぐっ・・・・・。」
楽しすぎる会話をしていた。
しかし僕達は次第に燦士郎が心配になってきて、とうとう意を決して柿本が燦士郎に話を聞きに行った。子供の警戒心を解くのは、彼女ならば朝飯前だろう。
けれども、柿本が苦虫を噛み潰したような表情をして部屋に戻るのに、およそ1時間程度しかかからなかったように思う──。




