二人で描いていく
同窓会の帰り道、二人は並んで歩いていた。
高校の頃と同じ道ではない。
駅までの道も、街の景色も、あの頃とはすっかり変わっている。
それでも、隣を歩く人だけは、どこか懐かしかった。
「今日、楽しかったな」
亮が言う。
「うん」
智樹は少しだけ笑った。
昔の話をして、笑って。
あの頃には知らなかったことを、今になって知った。
あの頃、二人の間にあったものを知っている同級生が、今の二人を見て安心したように笑っていたことも、なぜか心に残っていた。
きっと、時間だけが二人をここまで連れてきたわけではない。
あのとき言えなかったことを、今度は少しずつ言葉にした。
怖くなったときには、黙って離れる代わりに、立ち止まった。
相手の気持ちを勝手に決めつけず、わからないことは、わからないまま尋ねるようになった。
そして何より。
好きだと思う気持ちを、もう隠さなくてよくなった。
仕事では、今でも二人はそれぞれの立場で向き合っている。
智樹がデザインを考え、亮が全体をまとめる。
意見が合わないこともあるし、仕事のことで言い合いになることだってある。
それでも、以前のように、どちらかが何も言わずに離れてしまうことはなくなった。
「智樹」
「ん?」
「今度の休み、どこか行く?」
「急だな」
「だめ?」
「……別に」
そう答えながら、智樹は少し笑った。
亮も笑う。
そんなやり取りが、今は自然だった。
ふと、智樹は鞄の中に手を入れた。
指先に、あの黒いペンケースが触れる。
中には、いつものシャープペンシルと鉛筆、それから消しゴムが入っている。
「なに?」
亮が覗き込む。
「なんでもない」
智樹はそう言って、歩きながらペンケースの中身を確かめた。
高校の頃は、隠すために使っていた。
今は、隠す必要がない。
帰ったら、また描こうと思った。
今日見た亮の横顔を。
笑っている顔を。
少し照れたように目を細める顔を。
たぶん、これからも何度も描く。
同じ顔をしているようで、そのたびに少しずつ違う。
季節が変われば、表情も変わる。
歳を重ねれば、知らない顔も増えていく。
そのたびに、また知っていけばいい。
「智樹?」
「うん?」
「なんか、嬉しそう」
「……そう?」
「うん」
智樹は答えず、少しだけ前を向いた。
隣には亮がいる。
それだけのことが、昔とは違う意味を持っている。
かつては、好きだと思ったことさえ、なかったことにしようとした。
傷つかないために、忘れたふりをした。
けれど、忘れたわけではなかった。
ただ、続きを描くことが怖かったのだ。
今は違う。
まだ知らないこともある。
これから先、迷うこともきっとある。
それでも、もう一人で答えを決めなくていい。
歩幅が少しずれれば、待てばいい。
言葉が足りなければ、もう一度話せばいい。
そうして二人で、少しずつ続きを作っていけばいい。
駅の灯りが見えてきた。
亮が何気なく隣に並び直す。
その肩が、ほんの少し触れた。
智樹は離れなかった。
そして、歩きながら思う。
あの日、途中で途切れてしまったと思っていたものは、本当は終わっていなかったのかもしれない。
ただ、二人とも続きを知らなかっただけだ。
今なら、少しずつ描いていける。
急がなくてもいい。
何度でも、確かめながら。
智樹は隣を歩く亮を見た。
亮もこちらを見て、笑った。
その笑顔を見ながら、智樹は静かに思う。
――あの日の続きは、これからも二人で描いていけばいい。
そう思えたことが、何より嬉しかった。




