第56話 咎人たちの罪を暴く反撃の炎
数万人のリスナーが固唾をのんで見守る中、運命の夜がやってきた。
配信が開始される数分前、すでに数万人のアクセスが集中していた待機所は、これから何が始まるのかという緊張感と興奮で、爆発的な勢いを見せていた。画面の向こう側で、人々は次々とチャットを流し合っている。
・レイナちゃんの告発ってなんだろうな?
・いよいよ始まるぞ……!
・なんか最近の炎上案件と関係あるのか?
・カリスマネットシンガーが顔出しとか興味しかない
・空って名前の人を救うって告知があったけど……
・まさか例のレイプ告発の件か?
・裏がありそうな雰囲気だったしな
・待機!
・頼むから良いニュースであってくれ
・歴史的瞬間を見逃すなよ
カウントダウンがゼロを示し、画面がパッと切り替わった。
そこに映し出されたのは、これまでのミステリアスなベールを完全に脱ぎ捨てた、逢沢玲那の姿だった。
整いすぎた端正な顔立ち、透き通るような肌、そしてカメラを見据える強い意志を宿した瞳──その圧倒的な美しさは、画面越しであっても見る者の心を一瞬で奪うほどだった。
・すげえ美少女!
・え、マジで顔出ししたの……?
・これだけのビジュアル、芸能人にも余裕でなれるだろ
・美しすぎて言葉が出ない
・歌声だけじゃなく顔まで完璧とか神様不公平すぎんか
・やばい、これはガチのやつだ……
静まり返った配信ルームの中で、玲那さんはゆっくりと、はっきりとした声でマイクに向かって語り始めた。
「皆さん、今日は私の呼びかけに集まってくれて、本当にありがとうございます」
玲那さんの声は、少しの震えもなく、凛とした美しさを帯びていた。
「今日集まってもらったのは、私から皆さんにお伝えしたい、どうしても見てもらわなければならない真実があるからです。それは、今ネットで謂れのない罪を着せられ、心無い誹謗中傷に晒されている、私の大切な人──遠坂空君の無実を晴らすため、そして、彼を陥れた者たちの正体を暴くための証人になってほしいからです」
・遠坂空ってあれだろ、例のレイプ告発で炎上してる……
・え? 冤罪なのか?
・マジかよ、詳しく聞かせてくれ!
コメント欄が一気にざわめく。その反応を引くことなく見据えながら、玲那さんは画面の向こうの人々に告げた。
「よく見てください。これが、彼らを罠に嵌め、嘘の告発を仕立て上げた真の罪人たちの、醜い裏の顔です」
玲那さんが手元のタブレットを操作すると、配信画面が切り替わり、その映像が再生された。
それは、あの時校舎裏で繰り広げられた、藤嶺徹と赤羽架純と俺との生々しいやり取りを捉えた隠し撮り映像だった。
「何の用だ、藤嶺。お前たちがまた何か企んでいるのは分かっているが、無駄な真似はやめておけ」
「相変わらず生意気な口を利くわね、空君。でも、それも今日で最後よ。あんたがどれだけ世間で持ち上げられようと、母親の小説でいい気になっていようと、ここから先は地獄の底まで落ちてもらうんだから」
「そうだ。お前は最近、警察やらネットやらで俺たちを追い詰めているつもりでいるみたいだがな……甘いんだよ。世間の風向きが変わったくらいで、俺たちがこのまま大人しく敗北すると思ったか? 今度のは、前回の『未遂』なんてもんじゃないぜ、遠坂。ネットに、完全なフェイクの『告発動画』をばらまくのさ。内容はこうだ──『遠坂空に、人目のつかないところで何度もレイプされた』ってな。被害者の女の子たちは顔を隠し、声を加工して出演させる。もちろん、すべて俺たちが裏で雇ったサクラや、クスリで脅した連中を使った完全な演出だけどな」
「お前たち……そこまでして、自分たちの罪を隠したいのか」
「すべてはお前のせいだ! お前が余計な反抗をせずに大人しく犯罪者として周りから虐げられていれば、こんな面倒なことにはならなかったんだよ! だからこそ……今すぐここで土下座して、『これまでのレイプ未遂事件は世間で噂されているような冤罪なんかではなく、すべて事実です』と自分の口で認めて謝罪しろ。そして、それを自ら公表するなら……まあ、見逃してやってもいいぞ? どうだ?」
「……それが、お前たちの最後の足掻きか」
「なんだと……?」
「逆だ、藤嶺。次はお前らが、完全に破滅する番だ。その汚い悪あがきが、お前たち自身の首を絞める最後の一歩になることに、まだ気づいていないらしいな」
「なっ……! 强がりを言ってんじゃねえぞ、クズが! 後悔してももう遅いぞ! 明日になれば、お前がどんな顔をしてネットの海で溺れ死ぬか、特等席で見といてやるよ!」
「せいぜい悪夢でも見ることだね、空君。もう、誰もあんたを救えないんだから!」
映像の中で、藤嶺と赤羽が吐き捨てた醜悪な言葉の数々が、何万人ものリスナーの耳にダイレクトに流れ込んだ。
実はこの映像、あの時、事前に俺の連絡を受けて駆けつけていた新聞部の凛ちゃんが、影からこっそりと高性能カメラで撮影し、音声と映像を完璧に記録していたものだった。
・ドクズじゃん……
・は? こいつら自分で全部バラしてて草
・完全に自白してるやんけ
・え、待って、じゃあ今までの告発って全部このクズどもが仕組んだ捏造だったの!?
・胸糞悪すぎて吐き気がする
・空君可哀想すぎだろ……こんな奴らにハメられてたのかよ
・警察動けよこれ!
・許せねえ……マジで許せねえぞ、この藤嶺と赤羽ってやつら
コメント欄は一瞬にして怒りの炎に包まれた。
画面の向こうで人々がどれほど激しいショックを受け、そして藤嶺たちの卑劣さに怒りを燃やしているかが、猛烈なスピードで流れる文字の量から痛いほど伝わってくる。
玲那さんはカメラを見据え、さらに言葉を続けた。
「これが、彼らの正体です。空君は、何も悪くありませんでした。皆さん、お願いです。この真実の動画を、できるだけ多くの人に広めてください。この情報を、拡散して欲しいんです」
・任せろ!!
・今すぐ拡散してやるよ!
・クズどもを社会的に絶対許さない
・俺たちが味方だ! 空君を絶対守ろうぜ!
・拡散完了! 友だち全員に送りつけたわ
・レイナちゃん、よくぞ言ってくれた!
リスナーたちは自発的に動画の切り抜きやリンクをSNSで拡散し始め、インターネット全体が大きなうねりとなって動き出した。
§
衝撃はそれだけでは終わらなかった。
この生配信が最高潮に盛り上がりを見せているまさにその時、ネットの別のルートから、さらなる決定的な爆弾が投下されたのだ。
それは、水瀬葵によるものだった。
彼女は、半グレグループとつるむ藤嶺たちの闇の宴に参加し、その内部に潜り込んだ際、自らの手で危険を冒しながら隠しカメラやボイスレコーダーにその実態を収めていた。
もしそれが発覚すれば、自分自身も報復としてどんな目に遭うか分からない──そんな恐怖や動画を流出させられるリスクをすべて覚悟の上で、水瀬はその極秘データを有名な超大手告発系インフルエンサーに匿名で送り届けていたのだ。
そして、まさにこの生配信の最中、その告発系インフルエンサーが一斉にその動画をネット上に公開した。
映し出されていたのは、街の裏通りにある会員制の地下ホール。
そこでは、藤嶺徹をはじめとする半グレグループの面々が、違法な薬物をテーブルに並べ、精神的に追い詰められ怯える若い少女たちを囲んでパーティーを開いている、目を覆いたくなるような生々しい映像だった。
ただ告発系インフルエンサーも、直接モロにアウトな映像をそのまま垂れ流したわけではなく、決定的な証拠部分(モザイク処理や音声のみの切り抜き)を巧みに組み合わせ、見る者に強烈なインパクトを与える形で告発を行った。
そして、その裏付けとして完全なフルデータのURL(パスワード付きの外部ストレージ)を限定的に提示したため、マスコミや世間の調査の手(おそらく警察も)が一気に動いたのだ。
・うわあああああ、ヤバいの出てきたぞ……!
・これ、完全にガチの犯罪じゃねえか……
・半グレとの繋がりってマジかよ
・藤嶺、お前……もう終わりだな
・薬物乱用とか完全に一発アウトだろ
・警察、早くこいつらを逮捕しろよ!
・さっきの動画と合わせたら、もう弁解の余地ゼロじゃん
・クズすぎて言葉が出ないわ……
ネットの世論は、一瞬にして完全に逆転した。
これまで半信半疑だった世間も、そして学園側や警察を欺こうとついていた嘘の数々も、この二つの決定的すぎる映像の前に完全に打ち砕かれた。
藤嶺徹は、一人の優秀な生徒を陥れた卑劣な加害者から、さらに薬物汚染と半グレ組織に関与する正真正銘の犯罪者として、一気に奈落の底へと突き落とされたのだった。
悪意の城は音を立てて崩れ去り、正義の光がようやく、俺──遠坂空の歩む道を照らし出し始めていた。




