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自分だけが『音』を『視る』事が出来たなら  作者: るる


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7/8

7話

高評価等とても励みになります。


もし良ければ高評価等よろしくお願いします

辺り一面を覆い尽くす暗闇の中。

……一体、どれほどの時間が経ったのだろうか。

 

崩落した床とともに最下層まで叩きつけられた俺は、身動き一つ取れない瓦礫の隙間で、狂ったように叫び続けていた。

 

「おーい! 誰か……っ! 誰かいないのかーー!!」

 

だが、いくら叫んだところでも意味はなく、どれだけ絶望の中で待とうとも救いの手どころか、仲間の足音さえ聞こえてくる気配はない。

 

考えてみれば、当然だ。

無線も繋がらない中、撤収命令を無視して一人で勝手に突っ走ってきたのだ。

 

誰も俺がこの廃ビルの底に埋もれているなんて知りもしない。

こっちから助けを求める「音」が見えた。

……だから、それを信じた。

 

だが、暗闇の中で俺の目の前に転がっていたのは、人の命などではなく、ただの古ぼけた、電源すら入っていない、————『壊れたボイスレコーダー』だった。

 

なぜ、こんなものの「音」が、あれほど鮮明に見えたんだ?

 

音の正体を確かめようと焦って足を滑らせ、脆くなっていた床をぶち抜いて瓦礫の下敷きになった。

それが、この俺の結末。

 

「…………呆気ねぇなぁ」

肺が圧迫され、満足に息も吸えない。

 

天才ピアニストとしての華々しい人生を諦めるしかなくなって、せめて人助けを、なんて……。

 

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……

 

……あれ? ピアニストって、何の話だっけ。

 

さっき頭を強く打ったせいで、脳が本格的に混乱しているのか。

 

それにしても、なんで電源も入っていないレコーダーから音が聞こえたんだ。

 

……はぁ。まったく、ついてない。

 

こんな惨めな終わり方をするくらいなら。

 

死ぬ間際にこんな後悔をするくらいなら、あの時、『アイツ』にあんな酷いこと、するんじゃなかったぜ……。

 

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……


……アイツって、誰のことだ?

本当に頭がおかしくなっちまったのか、俺は。

 

あんなことって……俺は、誰に、何をしたんだ?

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……

 

『僕ね! 将来は立派なピアニストになるのが夢なんだ!』

 

脳裏に、記憶にないはずの、けれど聞き覚えのある幼い少年の声が響く。

 

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……

 

……そういえば。

俺が「音」を視覚として見られるようになったのって、いつからだ。

 

そうだ、通り魔事件で死んだ『弟』の心臓を移植されてから、リハビリをして——。

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……

 

「……待て。弟、の……心臓?」

口から出た言葉に、全身の血が引いていくのを感じた。

 

兄貴じゃない?

俺の、年が離れた、ピアノの才能に溢れていた、可愛い、優しい、弟。

 

「兄貴じゃ、なくて……弟……? なんで……?」

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……

 

——思い……出した。

脳の奥底に掛けられていた頑強な錠前が、凄まじい勢いで叩き壊されていく。

 

俺はあの時。

ショパン国際ピアノコンクールの前日、弟を会場へ迎えに行ったんだ。

 

そこで、狂った通り魔にナイフを突きつけられて、襲われて。

 

死への恐怖にパニックになった俺は、咄嗟に、自分の身を守るために。

 

すぐ近くにあった『何か』を、盾にするように引き寄せたんだ。ナイフを止めるための、身代わりとして。

 

それが——。

それが、俺の服の裾を掴んで震えていた、実の弟だった。

 

「……そうだ。通り魔に腕を刺されたんじゃない……っ!」

 

弟が刺され、俺の手は無傷だった。

けれど、あまりの罪悪感と精神の崩壊から、俺は事件の直後、ビルの屋上から飛び降りて自殺を図ったんだ。

 

一命は取り留めた。

だが、その時の強烈な全身の強打によって、俺の両腕の神経はズタズタに引き裂かれ、二度とピアノが弾けない身体になった。

 

…………いや、弾けなくなったんじゃなくて弾けないと『自分自身に思い込ませる為に、そう思っていたんだ……。』


通り魔に刺されたという事実も。

医者から指が動かないと告げられた絶望も。

 

すべては、自ら弟を殺し、自ら飛び降り自殺を図ったという狂気から逃れるために、俺の脳が都合よく仕立て上げた「偽物の記憶」だったんだ。

 

そして病院のベッドの上で目が覚めたとき、脳死判定を受けた弟の心臓が、俺の胸の中で脈打っていた。

 

「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

絶叫が、暗闇の瓦礫に虚しく響き渡る。

涙と鼻血が混ざり合い、顔中を濡らしていく。

 

助けを求める「音」なんて、最初からこの世のどこにも存在しなかった。

 

あの壊れたボイスレコーダーから響いていた音は、俺の「耳鳴り(ノイズ)」そのもの。

 

胸の中の「心臓」が、この薄暗い廃ビルへ、この崩落地点へと、俺を自ら歩かせて誘い込んだのだ。

 

ザーザーザーザーザーザー【やっと】ーザーザーザーザーザーザーザー【僕の事】ザーザーザーザーザーザーザー【を】ザーザーザーザーザーザーザーザ【思い出し】ーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー【たんだね】ザーザーザーザーザーザー【この人殺し】ザーザーザーザーザーザーザーザー

 

耳の奥の砂嵐が、完全な意味を持った「音」として、脳内で鮮やかに視覚化される。

 

ずっと俺の目を狂わせていた、人助けのための音の世界。

 

ずっと俺の耳を蝕んでいた、あの不快なノイズの正体。

 

それは、俺の胸の中で生き続けていた弟が、未だに生にしがみつく俺を、この暗い地獄の底へと引きずり戻すための『呪いの音』だったんだ……。

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

————————『end』————————

ホラーエンドです。


ホラーが苦手な私が書く精一杯のホラーストーリーでした。


次回、ifルートとしてもう一つの第七話を投稿します。

良ければぜひ。

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