【ifルート】 新7話
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ルート分岐
4話にて
・幼馴染の好感度が一定以上ある。
・幼馴染が『弟』に謝らなきゃダメだと主人公に声をかける。
・何を言っているだと思いつつも、謝らなきゃダメな気がして再び墓に訪れる。
・急激に強くなったノイズに脳を焼かれながらも必死に謝る。
上記全達成で生存ifルートへ
—— if 7話 ——
辺り一面を覆い尽くす暗闇の中。
……一体、どれほどの時間が経ったのだろうか。
崩落した床とともに最下層まで叩きつけられた俺は、身動き一つ取れない瓦礫の隙間で、狂ったように叫び続けていた。
「おーい! 誰か……っ! 誰かいないのかーー!!」
だが、いくら叫んだところでも意味はなく、どれだけ絶望の中で待とうとも救いの手どころか、仲間の足音さえ聞こえてくる気配はない。
考えてみれば、当然だ。
無線も繋がらない中、撤収命令を無視して一人で勝手に突っ走ってきたのだ。
誰も俺がこの廃ビルの底に埋もれているなんて知りもしない。
こっちから助けを求める「音」が見えた。
……だから、それを信じた。
だが、暗闇の中で俺の目の前に転がっていたのは、人の命などではなく、ただの古ぼけた、電源すら入っていない、————『壊れたボイスレコーダー』だった。
なぜ、こんなものの「音」が、あれほど鮮明に『視え』たんだ?
音の正体を確かめようと焦って足を滑らせ、脆くなっていた床をぶち抜いて瓦礫の下敷きになった。
それが、この俺の結末。
「…………呆気ねぇなぁ」
肺が圧迫され、満足に息も吸えない。
天才ピアニストとしての華々しい人生を諦めるしかなくなって、せめて人助けを、なんて……。
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
……あれ? ピアニストって、何の話だっけ。
さっき頭を強く打ったせいで、脳が本格的に混乱しているのか。
それにしても、なんで電源も入っていないレコーダーから音が聞こえたんだ。
……はぁ。まったく、ついてない。
こんな惨めな終わり方をするくらいなら。
死ぬ間際にこんな後悔をするくらいなら、あの時、『アイツ』にあんな酷いこと、するんじゃなかったぜ……。
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
……アイツって、誰のことだ?
本当に頭がおかしくなっちまったのか、俺は。
あんなことって……俺は、誰に、何をしたんだ?
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
『僕ね! 将来は立派なピアニストになるのが夢なんだ!』
脳裏に、記憶にないはずの、けれど聞き覚えのある幼い少年の声が響く。
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
……そういえば。
俺が「音」を視覚として見られるようになったのって、いつからだ。
そうだ、通り魔事件で死んだ『弟』の心臓を移植されてから、リハビリをして——。
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
「……待て。弟、の……心臓?」
口から出た言葉に、全身の血が引いていくのを感じた。
兄貴じゃない?
俺の、年が離れた、ピアノの才能に溢れていた、可愛い、優しい、弟。
「兄貴じゃ、なくて……弟……? なんで……?」
ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー……
——思い……出した。
脳の奥底に掛けられていた頑強な錠前が、凄まじい勢いで叩き壊されていく。
俺はあの時。
ショパン国際ピアノコンクールの前日、弟を会場へ迎えに行ったんだ。
そこで、狂った通り魔にナイフを突きつけられて、襲われて。
死への恐怖にパニックになった俺は、咄嗟に、自分の身を守るために。
すぐ近くにあった『何か』を、盾にするように引き寄せたんだ。ナイフを止めるための、身代わりとして。
それが——。
それが、俺の服の裾を掴んで震えていた、実の弟だった。
「……そうだ。通り魔に腕を刺されたんじゃない……っ!」
弟が刺され、俺の手は無傷だった。
けれど、あまりの罪悪感と精神の崩壊から、俺は事件の直後、ビルの屋上から飛び降りて自殺を図ったんだ。
一命は取り留めた。
だが、その時の強烈な全身の強打によって、俺の両腕の神経はズタズタに引き裂かれ、二度とピアノが弾けない身体になった。
…………いや、弾けなくなったんじゃなくて弾けないと『自分自身に思い込ませる為に、そう思っていたんだ……。』
通り魔に刺されたという事実も。
医者から指が動かないと告げられた絶望も。
すべては、自ら弟を殺し、自ら飛び降り自殺を図ったという狂気から逃れるために、俺の脳が都合よく仕立て上げた「偽物の記憶」だったんだ。
そして病院のベッドの上で目が覚めたとき、脳死判定を受けた弟の心臓が、俺の胸の中で脈打っていた。
「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
絶叫が、暗闇の瓦礫に虚しく響き渡る。
涙と鼻血が混ざり合い、顔中を濡らしていく。
助けを求める「音」なんて、最初からこの世のどこにも存在しなかった。
あの壊れたボイスレコーダーから響いていた音は、俺の「耳鳴り(ノイズ)」そのもの。
胸の中の「心臓」が、この薄暗い廃ビルへ、この崩落地点へと、俺を自ら歩かせて誘い込んだのだ。
ザーザーザーザーザーザー
【やっと】
【僕の事】
【を、思い出して】
【くれたんだね】
【お兄ちゃん】
ザーザーザーザーザーザー
耳の奥の砂嵐が、完全な意味を持った「音」として、脳内で鮮やかに視覚化される。
「ナオト……なのか?」
自分の心臓を抑え死んだはずの『弟』の名前を呼ぶ。
【……うん。】
その言葉が『視え』た瞬間、涙が込み上げてくる。
今まで俺は逃げていただけだった。
自分の犯した罪から、
……いや、弟を『殺してしまった』罪悪感から。
ずっと、ずっと逃げていた。
意識が朦朧としてくる。
それでも、俺は引きちぎれそうな声を絞り出した。
「俺が、俺が殺した……ッ! お前を盾にした……! 悪かった、本当にごめん、ナオト……ッ!!」
瓦礫に挟まれ、身動きの取れない体を無理やり少し動かし地面に頭を擦り付けて泣き叫ぶ。
pーーーー
【もう……いいんだ、よ……お兄ちゃん】
ppーーーー
【最後に思い出して欲しかっただけなんだ】
pーーーー
【大好きなお兄ちゃんに忘れられたままは辛かったから】
ppーーーー
ザーザーと鳴り響いていたノイズは、いつしか美しいピアノの旋律へと変わっていた。
弟が最後に弾くはずだった、俺が『聞くのが』大好きなあの曲に……。
その美しい音の波紋に包まれながら、俺の意識は深い眠りへと落ちていった……。
次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
いつも目を覚ますと『視え』ていた『音』はもう見えなくなっていた。
ふと横を見ると傍らでボロボロになって泣いている幼馴染と目が合う。
俺は動かないはずの指で、その手を微かに握り返した。
俺は……『また』弟に助けられたらしい。
「今度はもう、間違わないから……」
胸の心臓は、静かに、優しく、生きるための音を刻んでいく。
これからもずっと。
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【バイバイ、お兄ちゃん】ーー
————————『end』————————
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これにて夏のホラーイベント作品は完結となります。
おっかなビックリなホラーは私自身が苦手な為、このようなホラーになりました。
もし、続きがあるとしたら『弟による視える音』と共に数々の事件を解決していく形が面白そうとか思いながらも
これで終わりたいと思います。
感想やご意見があれば是非。
別作品である、シリアスな世界なのに主人公の存在がギャグの作品をメインで連載中ですのでそちらの方も是非お願いします。




