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親友の恋を応援するたび、私は少しずつ失恋していた  作者: ちょこまろ


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3/5

第3話 親友という場所に、しがみついていた

颯太が失恋した。


それを聞いた時、紗奈は胸を痛めた。

大切な人が傷ついていることが、悲しかった。


けれど同時に、心のどこかで少しだけ期待してしまう自分もいた。


彼がひとりになったなら。

また自分の隣に戻ってきてくれるなら。

もしかしたら、今度こそ――。


そんなことを考えてしまう自分が、紗奈は嫌だった。


親友としてそばにいることは、たしかに幸せだった。

でもその場所は、いつの間にか紗奈自身を縛る場所にもなっていた。


第3話では、颯太との距離が近づいたことで、かえって自分の気持ちをごまかせなくなっていく紗奈を描きます。

 高二の春、颯太と莉央は別れた。


 理由は、はっきり聞かなかった。


 ただ、クラスの噂では、莉央が部活の先輩と近くなったとか、颯太が忙しくてすれ違ったとか、いろんな話が流れていた。


 私は颯太から直接聞くまで、何も言わないことにした。


 その夜、颯太から電話がかかってきた。


『今、話せる?』


 声がいつもより低かった。


「うん。大丈夫」


 私はベッドに座って、スマホを耳に当てた。


 しばらく沈黙があった。


 電話越しに、颯太の息遣いだけが聞こえる。


『別れた』


「……そっか」


『うん』


「大丈夫?」


『分かんない』


 颯太は小さく笑った。


『なんかさ、もっとちゃんとできたんじゃないかなって思う』


「颯太は頑張ってたよ」


『でも、足りなかったんだろうな』


 その声を聞いて、胸が痛くなった。


 颯太が傷ついている。


 悲しいはずなのに、心のどこかで、少しだけほっとしている自分がいた。


 最低だと思った。


 好きな人が失恋したことに、期待している。


 そんな自分が嫌だった。


「今は、無理に元気出さなくていいよ」


『紗奈ってさ』


「うん?」


『いつもそういうこと言ってくれるよな』


「そう?」


『うん。紗奈がいてくれてよかった』


 その一言で、私は泣きそうになった。


 嬉しい。


 苦しい。


 好き。


 言いたい。


 でも言えない。


 颯太が弱っている時に、自分の気持ちを押しつけたくなかった。今言ったら、優しさにつけ込むみたいで嫌だった。


 だから私は、また親友の声で言った。


「当たり前じゃん。親友なんだから」


 電話の向こうで、颯太が少しだけ笑った。


『だよな』


 その「だよな」が、私の胸に深く刺さった。


 親友。


 自分で選んだ言葉なのに、その言葉に傷ついていた。




     *




 颯太が莉央と別れてから、私は少しだけ期待していた。


 すぐに何かが変わるわけじゃない。


 そんな都合のいいことは起きない。


 分かっていた。


 でも、颯太は前より私といる時間が増えた。


 朝、昇降口で会うと自然に一緒に教室まで歩いた。昼休みには私の机の近くに来て、どうでもいい話をした。放課後、駅まで一緒に帰る日も増えた。


「紗奈といると楽だわ」


 ある日、颯太がそう言った。


 夕方の駅前で、信号待ちをしている時だった。


「それ、褒めてる?」


「めちゃくちゃ褒めてる」


「女子に言う言葉としては微妙」


「え、そう?」


「そう」


 私は呆れたふりをした。


 でも本当は、その一言だけで一日中浮かれていた。


 颯太といると楽。


 その言葉の中に、恋の可能性を探してしまう。


 友達としてなのか。


 それとも、少しは違う意味なのか。


 颯太の顔に答えが書いてあればいいのに、と思った。


 好きなら好きって。


 私をどう思っているのか、額にでも頬にでも書いてあればいいのに。


 でも、颯太の顔にはいつも通りの笑顔しかなかった。




     *




「紗奈、最近ちょっと期待してるでしょ」


 そう言ったのは、友達の芽衣だった。


 芽衣は高一からの友達で、私が颯太を好きなことを知っている唯一の人だった。


 昼休み、私たちは中庭のベンチに座っていた。購買で買ったサンドイッチを食べながら、芽衣は遠慮なく私の痛いところを突いてくる。


「期待って、何に」


「颯太くん」


「してない」


「嘘つき」


 芽衣は即答した。


「紗奈、颯太くんの話になると分かりやすすぎ」


「そんなことない」


「ある。目がちょっと泳ぐ」


「見ないで」


「見るよ。友達だから」


 芽衣はストローで紙パックのジュースを吸いながら、真面目な顔になった。


「ねえ、もう言ったら?」


「無理」


「なんで」


「気まずくなる」


「今のままの方がつらくない?」


 私は答えられなかった。


 芽衣は続けた。


「好きな人の恋愛相談をずっと聞くって、普通にしんどいよ。紗奈、よく耐えたと思う」


「耐えたっていうか……自分で選んだことだし」


「選んだんじゃなくて、我慢したんでしょ」


 その言葉に、胸が詰まった。


 芽衣は私の方を見ずに、前を向いたまま言った。


「紗奈はさ、親友って場所にしがみついてるだけじゃん。近くにいられるから。でもそれ、紗奈を幸せにしてる?」


 答えは分かっていた。


 幸せだった。


 颯太の隣にいられることは、確かに幸せだった。


 でも同じくらい、苦しかった。


 私は小さく息を吐いた。


「言って、失くすくらいなら、このままでいい」


「本当に?」


「……分かんない」


 芽衣はそれ以上責めなかった。


 ただ、私の肩に軽く自分の肩をぶつけた。


「紗奈が泣く時、私は味方するから」


「なにそれ」


「颯太くんにでも、紗奈自身にでも」


 その言い方がおかしくて、私は少しだけ笑った。


 でも、その日の放課後に颯太から「相談していい?」と言われて、私は笑えなくなった。




     *




 颯太の「気になる子ができたかもしれない」という言葉を最後まで聞かずに逃げた日から、私は颯太を避けた。


 朝、昇降口で見かけても、別の友達と話しているふりをした。


 昼休みに颯太がこちらへ来そうになると、芽衣を連れて購買へ行った。


 LINEの返信も、すぐには返さなかった。


『昨日どうした?』


『なんか怒ってる?』


『俺、変なこと言った?』


 画面に並ぶメッセージを見ながら、何度も返信しようとした。


 怒ってないよ。


 ごめん。


 ちょっと疲れてただけ。


 いつもの私なら、そう送っていた。


 でも、送れなかった。


 怒っているわけではなかった。


 颯太は悪くない。


 私が勝手に好きになって、勝手に期待して、勝手に傷ついているだけだ。


 でも、もう平気なふりができなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


第3話では、颯太の失恋後、紗奈がまた少しだけ期待してしまう場面を書きました。


好きな人が傷ついている時に、そばにいてあげたい。

その気持ちは本物です。


でも同時に、彼が誰かと別れたことで、自分にも可能性があるかもしれないと思ってしまう。

そんな自分を責めてしまうところが、紗奈の苦しさなのだと思います。


「親友」という場所は、颯太の一番近くにいられる場所でした。

けれど、それは紗奈が本当に欲しかった場所ではありません。


近くにいられるから離れられない。

でも近くにいるほど傷ついてしまう。


そんな中で、颯太はまた紗奈に「相談していい?」と声をかけます。


次話では、紗奈がついに、ずっと隠してきた気持ちと向き合うことになります。

よろしければ、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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