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#92

「みんなー、こんしろ! 魔法少女スノーホワイトのまじかるダンジョン散歩の時間だよ!」


 宙に浮かぶカメラに向けて、明朗な声で私はそう挨拶をする。


「事前に告知をしていたことではあるんだけど、しばらくのお休みをもらっちゃってごめんね?」


〔大丈夫大丈夫!〕

〔というか、あんなことがあったあとともなれば身体と心を休めなきゃやってられないだろうしなあ〕

〔俺たちとしては帰ってきてくれただけでも万々歳だし。それこそ、あのままダンジョン配信から引退、なんて可能性もあったわけだしさ〕


 コメント欄から、そんなやり取りが帰ってくる。

 実際、ダンジョン配信者という業種が不意の引退が多い、というのも事実。

 特にエンタメ性などに注視した配信者の多くは言い方が少し悪しざまにはなってしまうが、ダンジョンを舐めている節がある。ダンジョン配信者を、容易に稼げる手段だと認識しているような手合については、殊更。

 そんな彼らが不意の瞬間に死に目にあったとき、あるいはダンジョンの理不尽さを目の前にしたとき。はたして再びダンジョンに戻ってこようかとするというと、ほとんどの場合は否であろう。


 そして、私にとってのその瞬間こそ。先日のクオーツゴーレムとの遭遇。

 文字どおり死にかけた――いや、鈴音ちゃんや月村さんが駆けつけてくれなかったなら、間違いなく死んでいたあの場面。それを経験してもなお、ダンジョンに戻ってくる人間は、少数派である。

 元がBランクであったことを加味すれば戻ってくる可能性もありはするが、それでも以前に比べて安全圏での活動に控えることが多い。

 ひいては――、


「それじゃあ、今日は前回のリベンジ! 高輪ダンジョンで、もう一度おさんぽをしていこうと思うよ!」


〔待って待って、高輪ダンジョンに行くの!?〕

〔首都圏なら他にもダンジョンあるよね?〕

〔本当に大丈夫?〕


 死に目にあったダンジョン――それも、まだ解析不十分で、自身が死にかけた要因である不確定要素が多いところ――に戻ってくる、などというのは。正直なところ、狂気の沙汰としか言えない。


「うんうん。みんなの心配ももっともだと思うの。でもね、高輪ダンジョンからずっと逃げたままじゃ、魔法少女スノーホワイトの完全復活とは、言えないままだと思うから」


 これについては、私の本心。

 ただ、これについては、というとおり。実際のところは、もう少ししてから改めて、のつもりではあった。

 こうなってしまったのは、ひとえに月村さんのせい。……いや、せい、というほどでもないんだけど。


 曰く、なんらかの事情があって月村さんたちはしばらくの間は高輪ダンジョンに挑戦し続ける予定になっているらしく。彼らに帯同して活動するとなれば、同じく高輪ダンジョンに向かう必要がある、という事情があった。

 もちろん、私の事情――特に、メンタル面やトラウマに関する配慮もあったし、無理についてくる必要はない、と言われてはいたが。しかし、いずれは挑戦しなければならない壁。それならば、と。


 それに。月村さんたちが高輪ダンジョンに挑戦し続ける予定になっている、ということは。


「まあ、そんな格好をつけたことを言っておきながら、なんだけど。実は今回はソロじゃないんです! というわけで、ふたりとも。お願い!」


「はい! 魔法少女スノーホワイトのまじかるチャンネルの視聴者のみなさん、お久しぶりです! 冒険者の星宮 鈴音です!」


〔うおお、鈴音ちゃん!〕

〔ここ最近の出現頻度的にはもはや準レギュラー〕

〔お久しぶり(前回の配信以来)〕

〔まあ、しばらく配信自体がなかったしなあ〕

〔たしかに鈴音ちゃんが一緒っていうなら百人力やね〕

〔俺この子のこと初めて見るんだけどそんな強いの?〕

〔↑討伐指定A級(クオーツゴーレム)の攻撃を正面から受け止められるCランク冒険者〕

〔↑Bランク冒険者(スノーちゃん)との全力タイマンバトルでなぜか勝てるCランク冒険者〕

〔ごめんみんながなに言ってんのかわかんない〕

〔とりあえず切り抜き見てきな。いっぱいあがってるから〕

〔てか、鈴音ちゃんの登場に気を取られてたけど、ふたりって言わなかった?〕


 走るコメント欄。そのなかに、まさしくな指摘が入る。

 そう。たしかに私は、「ふたりとも、お願い!」と言った。つまり――、


「……小夜 陽鞠。そこの鈴音のチームメイト。よろしく」


〔うお、ギャルだ!?〕

〔えっ、てか。鈴音ちゃんのチームメイトって言った?〕

〔てことは冒険者なのか? 高校生くらいに見えるんだけど〕

〔いや、そもそも高輪ダンジョンに来れる時点でCランク以上の冒険者なわけで〕

〔てことは陽鞠ちゃん、だっけ? もCランク以上ってこと?〕

〔いや、どう考えても気にするべきはそこじゃないだろ〕

〔うん。鈴音ちゃんのチームメイトってことは〕


「なにを期待してるのかはわかんないけど、鈴音これみたいな規格外とは違って、いちおう平凡側だから」


「いや、陽鞠ちゃんも十分イレギュラー側だよ?」


 おそらくは、陽鞠ちゃんは鈴音ちゃんと違って歴が長いから、それを勘案すると、みたいなことを考えたんだと思うけど。

 そもそもふたりみたいな実力に行き着いている、というのが普通にイレギュラーではあって。そこに加えて鈴音ちゃんは期間までもが短いとかいう規格外が重なっているだけで、十分陽鞠ちゃんもすごいのだ。


「まあ、経緯を少しだけ話しておくと。ちょうど、お休みをもらってた間に、リハビリを兼ねて鈴音ちゃんや陽鞠ちゃんと一緒にトレーニングをさせてもらっててね」


〔あれをリハビリでやってたのか(困惑)〕

〔成り行きといえば成り行きなんだろうけどさ〕


「そういう関係もあって、今回は三人で一緒に高輪ダンジョンの方に潜っていこうと思うよ! そのほうがみんなにとっても楽しいだろうし。それに、安心できるだろうからね!」


〔まあ、否定はしない〕

〔楽しそうだし、安心できるってのは事実〕

〔今日のスノ虐会場はここですか〕

〔新メンバー陽鞠ちゃんの実力に期待〕


 要は、ふたりの存在は話のネタであると同時に、視聴者に対する安心材料でもあるのだ。


 ちなみに、月村さんと千癒さんは同時にダンジョンには潜っているものの、一緒に行動はしていない。

 なんでも、別件で調査をすることがある、とのことらしい。てっきりふたりともカメラに映らないようにするための建前なのかとも思ったけど、本当になにやら調査することがあるらしい。

 いちおう「なにかあったときにはすぐに駆けつけられる距離にいる」とは言ってくれているので、本当にヤバかったら、いちおう介入はしてくれるらしい。もっとも、そんなことにならないに越したことはないんだけれども。


「それじゃあ、早速行こうか! 基本的にはお散歩だから、気楽な感じにはなるけどね」


 しかし、月村さんたちが調べてることってなんなんだろう。






「以前に来たときはあまり周囲を観察できませんでしたが。実際に来てみると、こんな様相なんですね」


 高輪ダンジョンの第二階層。ぐるりと周囲を見回しながらに鈴音ちゃんがそうつぶやく。

 高輪ダンジョンは地下構造物型のダンジョン。遺構型とも呼ばれるだけはあり、まさしく遺跡といった様相の雰囲気を醸し出している。


 ちなみに、配信の調子については。月村さんたちが調査をしているということや、前回のクオーツゴーレムの件などもあり、ちょっぴり警戒気味に進んでいた私たちだったけれども。今のところは順調……というか、鈴音ちゃんと陽鞠ちゃんの存在の大きさが顕著ではある。


 斥候役の陽鞠ちゃんが周辺の探知サーチを行いながら敵の位置の把握。こちらから会敵したり、あるいは陽鞠ちゃんが誘導して来た上で、その相手を盾持ちの鈴音ちゃんが引き受ける。

 陽鞠ちゃんの遊撃や鈴音ちゃんの反撃なども交えながらに魔物の体力を削り。そして、私が大火力の魔法で斃す。

 流れとしては、かなり理想的な動きができている。

 いちおう、鈴音ちゃんと陽鞠ちゃんは元々組んでいたため純粋な即興ではないにせよ、全体のパーティ構成としては今回が初の即席パーティではある。

 それなのに、たった三人でここまでやれている、というのは。正直驚異的としか言えない。


〔俺、あんまり詳しくないからわかんないんだけど、今の魔物ってこんなキレイな流れで倒せるもんなの?〕

〔理論上は可能〕

〔つまり実現できるとは言ってない〕

〔連携になれた熟練冒険者三人ならできるかもね(白目)〕

〔なお、現実〕


 コメント欄の、もはや呆れすら混じったその判断。しかし、そう思ってしまうのも致し方はない。


(立ち回りの訓練をしていたことは、聞いていたけども)


 特に鈴音ちゃんについては、以前より月村さんのから。直近では蒼汰さんから、位置取りや立ち回りの訓練を受けていた。

 そういう視点では、下積みのあった上での今、というのはそうなのだけれども。

 しかし、それと同時に。実戦としては――特に火力担当アタッカーを交えての戦いは――ほぼ初めてと言っていい現在。


(驚くほど、戦いやすい)


 それを、ここまでスムーズになし得ているのは。ひとえに、鈴音ちゃんの立ち回りであろう。

 位置取り、私たちへの指示飛ばし、魔物の視線誘導。敵視管理。

 私や陽鞠ちゃんも十分に意識しながら立ち回っている。けれども、それ以上に盤面を視て、戦場を支配しているのは。間違いなく鈴音ちゃん。

 そして、それを可能にしているのは彼女の目の良さ、であろう。無論、ただの視力の良さの話ではなく。戦況を俯瞰して観察して、次を視る、という、その力。


 あたかも、この場に指揮官がいるかのような、そんな、戦いやすさ。

 いや、比喩でもなんでもない。いるのだ。

 星宮 鈴音という、指揮官が。


 もちろん、経験の浅さもあってまだまだ見落とすところがないとな言わない。しかし、そこは私や陽鞠ちゃんが余裕を持ってカバーできる程度。

 その結果が、現在の連携である。


 理屈と感覚の両側面からの場況読みという、鈴音ちゃんの元の素養に。月村さんや蒼汰さんの手解きにより開花した、才能。

 本人は、まだ自覚していないようだけれども。動かされている私や陽鞠ちゃんからしてみると、その強力さが顕著に感じられる。


 もちろん、月村さんが言っていたように。今回のチームアップには、鈴音ちゃんや陽鞠ちゃんの連携の練習、という意味合いもある。

 しかし、おそらくは。鈴音ちゃんの戦術指揮の訓練も兼ねられているのだろうと、今ならば理解できる。


 いったい、どこまで見ていて。どこを目指させているのだろうかと。その底の深さに戦慄をする。


 ただ。


(その指揮官が、白兵戦をしてるのよね……)


 白兵指揮、というもの自体は実際に存在する戦術ではある。

 とはいえ、戦術面で見たときに指揮官が広報に詰めていることが多いように。白兵指揮にはリスクも多い。戦線の維持には、指揮官のたしかな戦闘力と、より広い範囲を見る視界が必要。


 本当に。いったいどこを目指しているのだろうか。無論、いい意味で、ではあるけれども。

 元々の鈴音ちゃんが、小学生並みと言われていたという話を聞いたくらいには、素の身体能力が低かった、ということを踏まえれば、なおのこと。


 あまりにも強力すぎる先達により。魔改造と言って差し支えない育成を施された彼女の行く末が、はたしてどうなっていくのだろう、と。

 楽しみなような。……もしかして、自分も同じようになっていくのだろうかと、ちょっぴり怖いような。

 そんな、綯交ぜになった複雑な感情に、私はちょっぴり苦笑いをした。

Tips:星宮 鈴音

 元々鈴音には、粘り強い思考力や適切にリソースを割り振る判断力、広い視点で観察し状況を読む把握力など、後方指揮の才能が秘められていた。ただし、持ち前の素直さが邪魔をして、全然活用されていなかった。

 支樹や蒼汰をはじめとする人物の指導により、前線での白兵指揮の才能が開花した。

 どうしてこうなった。




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