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#87

 決着の直後。私たちの組み合いが外れるとほぼ同時に千癒さんにより鈴音ちゃんが回収。即座に治療と自傷覚悟の行動に対するお説教が始まった。なかなか、こっぴどくお叱りを受けている模様。

 彼女たちの姿こそ映っていないものの、音声はハッキリとではないにせよそれなりに乗ってしまっていることや、実際にその様子を見ている私の呆れ顔などから、コメント欄でも〔まあ、そうはなるよなあ〕というような反応。残念でもなければ当然ではある。

 とはいえ、それをできるだけの胆力と決断力。彼女には、その力があって。結果、勝負の分け目を切り拓いていった。それは、間違いなく鈴音ちゃんのすごいところではある。まあ、周りのみんなに心配される、までがセットになっちゃうから。手放しには褒めにくいんだけども。


 その後は軽く雑談を交えてから、配信は無事終了……無事? まあ、無事ってことでいいでしょ。


 ダンジョンから帰る、というところで。ちょうどというタイミングで陽鞠ちゃんが鈴音ちゃんのことを迎えに来ていた。

 そのまま、彼女と別れながらに。今日のことを思い起こしながら、エゴサーチを簡単に行う。


「むう、もう。みんなったら私のことをなんだと思ってるのかな?」


 案の定というべくか、今日の私の蹂躙っぷりにSNSなどでもかなりの話題になっている。

 ちなみに、蹂躙っぷりと言っても、されるほう、である。おかしいな、私のチャンネルのはずなんだけど。


 まあ、私が鈴音ちゃんに圧されている様子が話題になっている一方で、そのほとんどはからかいつつもそこまで悪印象を持って書き込まれているという様子はない。

 一部〔BランクのくせにCランクに圧倒されてて恥ずかしくないの?〕みたいなものもありはするけど、そういったものは極少数。

 大半は〔まあ、鈴音ちゃんが相手だしなあ〕という、どちらかというと鈴音ちゃんに対する諦めや理解の放棄によるコメントが多い。


 冒険者には、ランクに固辞している人も多い。冒険者以外の人たちからすれば、ランクはわかりやすい指標だ。だからこそ、こういった様々な人が訪れる配信などでは、ランクの上下で見る人は少なくないどころか多いし、ダンジョン配信者の結果や評価に直結しやすい部分ではある。

 私自身、特にCランク以上の冒険者に関してはランク詐欺も甚だしい人間が多いということは重々理解している一方で、時折固執してしまうことがあるのはそういう理由ではある。


 でも、今回はその明確な実力の逆転が起こっていながらに私の配信や私自身の評価には荒れが起こるどころか、むしろ高評価まで見えている。


 それらは、ひとえに。みんなが鈴音ちゃんの努力を見ていたからであろう。

 いや、正確には努力の一端、を。


 あれを見た上では、私も、みんなも。認めざるを得なかった。

 鈴音ちゃんの実力を。ランクなんてすべてを置き去りにして。


 そして、そんな彼女を育てたのが――、


「よう。お疲れ様」


「月村さん、お疲れ様です。せっかくなら、月村さんも配信に出てくれたらよかったのに」


「いや、俺が出るのはいろいろとややこしいだろうし。今更って感じもあるだろう?」


 渋谷マルハチの外で少し歩いていると。元凶、もとい御本人が現れる。


 彼が出演を断っている理由については、配信活動を行う上での配慮をしてくれている。まあ、本気でそう思って言っているのか、建前として言って、その実あんまり出たくないなどの事情があるのかは不明だけど。

 ただ、正直なところとして。配慮されるべく懸案事項自体は、それはそれで事実ではある一方で。鈴音ちゃんのことを育てた謎の人物、という意味合いとしては視聴者からの興味の値は高いと思う。そういう意味では、たぶん出演に伴っての炎上とかはないと思うんだけど。

 まあ、鈴音ちゃんが出てくれるだけでも相当な数字ではあるから、そこまで高望みはしないけどさ。


「それに、今日もちょっと協会の方に用事があったからな」


「ああ、そういえば前もそんなこと言ってましたね」


 前回の配信のときも、陽鞠ちゃんと一緒に冒険者協会に呼び出されてたはず。

 様子を見る限りでは、なにか悪い意味で呼び出されているとかそういうわけではなさそうだし。やっぱり、凄い人なのだろうということを漠然と覚える。

 まあ、鈴音ちゃんの育ち方を鑑みれば、わざわざ考えるまでもなく明白なんだろうけど。


 そう。鈴音ちゃんの実力を見れば。正確には、鈴音ちゃんや陽鞠ちゃんの実力、ではあるけども。

 彼の指導によって強くなった、というのは明らか。もちろん、その裏には見えにくい事実として、彼女らふたりの血を吐くような努力があったというのも事実ではある一方で。

 最初に絵を描いて導いたのは、間違いなく彼である。


「月村さん、知ってます? 配信の雑談で鈴音ちゃんがなんて言ったか」


「前回の内容は簡単には改めたが、今回の方はまだ追えていないな」


 いちおう、ちゃんと見てあげてるんだ、なんてことを思いながらに。私はふふんと軽く鼻を鳴らしながらに言う。


「なんでも、鈴音ちゃんのやってるトレーニングは、やれば誰でも強くなれる、だそうですよ。曰く、鈴音ちゃん(私自身)がここまで強くなれたのですから! だって」


「まあ、事実強くなれるだろうな。そういう意図で鈴音たちに課しているわけだし」


「そう。それなのよね。アレをやれば。ううん、やれれば強くなれるってのが事実なだけに、誰も言い返せはしない。でも、それはそれとしてどうやって真似をしろと、と。そう言いたくなるのもまた事実なわけで」


 鈴音ちゃんたちの場合は、月村さんや千癒さんのような、筋疲労などを強引に回復させることにより効率を底上げさせることができる外的要因があったから、成長の速度が尋常ではない一方で。

 ふたりのような協力者がおらずとも、同じようにトレーニングを重ねていけば、急激とはいかずとも、確実に成長はできる。それこそ、Cランク(冒険者の一指標)に必要な実力要件は満たせるようになるだろう。


 じゃあなぜ簡単にやれないか、というと。問題はそれを実行できるかどうかという、精神性のほうが普通はついていかないということなのだけれども。


「まあ、鈴音たちに努力の素養があった、ってのは事実だと思う」


 曰く、特に鈴音ちゃんに関しては、最初はひどい泣き言を叫びながらも、それでもちゃんとトレーニングはこなして。

 なんならば、ひっそりと自主練をやったりして。それで、ちょっとオーバーワーク気味になったり、なんてこともあったくらいだったのだとか。


「でも、努力という意味合いで言うなら。スノーホワイトだって相当なものだろう?」


「え、なになに。急に私に振るじゃん」


 突然のことに私は目を丸める。


「まあ、ダンジョン配信者、それもエンタメ系にしては私は冒険者ランクもBだし。結構頑張ってる自覚はあるけどさ」


「それはたしかにそうではあるが。言いたいこたはそういうことじゃなくって」


 月村さんはそう言うと、しばらく考え込んでから。ゆっくりと口を開く。


「スノーホワイトは、魔法少女に――なりたい自分になるために、頑張ったんだろ? それも、生半可じゃないくらいに」


「――っ」


 飛び出してきた彼の言葉に、私は思わず面食らってしまう。


「へえ、それは、うん。なんでそう思ったのかを聞いてみたいね」


 つとめて笑顔を維持しようとしてみるけど、たぶん、口元がやや歪んてしまっている自覚がある。

 それくらいには、まさか指摘されるとは、思っても見なかった。私にとっての、隠していた事実。


「ああ、安心しろ。喧伝したりとか、そういうつもりは毛頭ない」


「それに関しては、別にそんな心配してないけど。……でも、バカにしないの?」


 正直なところ、他の人にこのことをバカにされたらめちゃくちゃにムカつくし、というか、過去にめちゃくちゃムカついて仲違いしたこともあるくらいだけれども。しかし、こと月村さんたちに限っては、それをするだけの権利はある。


 けれど、彼は小さく頭を振る。


「だって。そのためにスノーホワイトは魔法少女に……冒険者になったんだろ? その前提を否定するのは道理が通らないだろう」


 月村さんは、柔らかな表情でそう言ってくる。


「ただまあ。その上で強いて言うならば。手立ては多く持っているに越したことはない、というくらいかな」


「鈴音ちゃんといい、月村さんといい。簡単に言ってくれるものだね」


 とはいえ、その言葉は真理であろう。単純な相性の有利不利はもちろんのこと。冒険者としての手段の多様性については、今日に鈴音ちゃんが言って、そして実演してみせたとおり。


「……ねえ、月村さん」


 でも、月村さんにだって。

 言ったのだから。その発言には責任を持ってもらう筋合いくらいはあってもいいだろう。


「鈴音ちゃんや陽鞠ちゃんにしているように。私にも教えて下さいって言ったら、教えてくれます?」


「スノーホワイトがか? わざわざ俺に師事しなくとも、十分冒険者としてやれているとは思うが」


 まあ、彼の言うことも事実ではある。Bランク冒険者というと、冒険者全体で見てもかなり成功している部類だ。でも。


「あなたの弟子である鈴音ちゃんにボコボコにされたんだもん。このままやられっぱなしってのもあんまり気には食わないのよね」


 今日の負けについては、納得はいってる。

 でも、それはそれとして。負けっぱなしを許容できるわけではない。


「それに。他の武器も扱えたほうがいいって言ったのは月村さんでしょう? まあ、鈴音ちゃんからも言われてるけど」


 とはいえ、鈴音ちゃんの言葉は実質的には月村さんの言葉でもある。さっき直接言われた分も合わせて、月村さんから言われた言葉ということでいいだろう。

 吐いた言葉には、しっかりと責任をとってもらおう。


「まあ、俺としては別に構わないが。ただ、元々が鈴音たちに教えているという都合、鈴音や小夜と一緒に行動してもらうことになるが」


「私のほうは大丈夫。むしろ、陽鞠ちゃんのほうが私と一緒で大丈夫?」


 嫌われてる、ってほどではないにせよ。あまりダンジョン配信者というものにいい印象は抱いていなさそうな彼女である。

 しかし、月村さんは首を横に振って「大丈夫だろう。知らない間柄のときはともかく、ちゃんと小夜は知り合い相手には属性ではなく個で見るから」と。


「あと、事前に言っておくこととしては。まあ、師事するのが嫌になったらいつでもやめてくれていい」


「ふふっ。根性の有無については、さっき月村さんが直接に評してくれたとおりでしょう?」


「それもそうだな」


 正直、鈴音ちゃん経由で体験しているだけでも相当なものではあるけれども。

 でも。やらなければ理想に届かないというのであれば。私は、やる。


「それじゃあ、改めて。スノーホワイト――」


雪城ゆきしろ けい


「うん?」


 遮った私の声に、月村さんが首を傾げる。


「雪城 景。私の名前。これから教えを乞うっていうのに、名前を名乗らないってのもおかしいでしょう?」


 あと、月村さんや鈴音ちゃんなんかは律儀にスノーホワイトとフルで名前を呼んでくれているけど、自分でつけた名前ながらに長いだろうと思っている。

 視聴者のみんなもスノーちゃんとか、短くして呼んでくれてるのがほとんどだし。


「なるほど。それじゃあ雪城。改めて、これからよろしく」


「こちらこそ、よろしくね。月村さん」

Tips:雪城 景

 魔法少女スノーホワイトとして活動している冒険者でありダンジョン配信者。

 ちなみに、スノーホワイトのネーミングは比較的安直だったりする。




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