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85/86

#85

「この箱の中には、くじが入っているんです!」


「そうなの?」


 自慢げな鈴音ちゃんに、私がそう反応をする。

 とはいっても、それについてはある程度予想はついていた。鈴音ちゃんが箱を取り出した時点でカサカサと紙が擦れる音がしていたし。

 ただ、これは配信エンタメなのでね。こういう反応は大事。


「はい! お友達から、ランダム性を含んだ即興企画は配信者の定番であると教えていただいたので」


「なるほどね」


 たしかに、定番ではある。基本的にはソロが多い私のチャンネルではあまりやったことがないけれども。


「それで、くじにはなにが書いてあるの?」


「それは引いていただいたほうが早いかと」


 さあ、どうぞ! と。箱に開けられた穴をこちらに差し向けてくる鈴音ちゃん。

 そのキラキラとした視線に抗えず、私はそっと箱の中に手を伸ばす。……まあ、実際に見てみたほうが早いのは事実なんだけども。


「ええっと、なになに。……大剣?」


「なるほど。千癒! 大剣をお願いいたします」


「お願いしますって……えっ、ホントに大剣が出てきたんだけど!?」


〔なになに、なにが起きたんだ!?〕

〔わかんねえ〕

〔鈴音ちゃんが誰かを呼んだかと思ったら、いつの間にか大剣が現れてた〕

〔なに? 忍者でもいるんか?〕


 私が驚いていると、それ以上に困惑した様子のコメント欄。まあ、致し方ない。画面外まで見えている私には千癒さんによるものだということがわかるけど、みんなはそれもわからないわけだし。

 ちなみにいうと、正確には忍者ではなくてメイドさんなんだけど。……ホントにメイドさんなんだよね? 実は真の姿は忍者なんですって言われても私は驚かないよ?


「私も引いてっ……と。突撃槍ランスですか」


 鈴音ちゃんは紙の内容を読み上げると、いつの間にやら準備が済んでいた千癒さんから突撃槍を受け取る。これもしれっと画面外になっている。


「それでは、スノーホワイトさん! 大剣をお持ちください!」


「う、うん? うわ、ちゃんとしっかり重たいじゃんこれ」


 刃は潰れているみたいだけど、金属の重さはずっしりと感じられる。


「ええっと、鈴音ちゃん? 正直これを持たされた時点で嫌な予感かしてるんだけどさ。これで、なにをするの?」


「はい! ランダム武器での模擬戦をしようかと!」


「できれば当たってほしくなかったなあ!」


 そうでもなければ、わざわざ練習用の刃を潰した武器を持たせないだろうと思っていたけど。


〔ランダム武器でって〕

〔いやまあ、得意武器でやり始めると蹂躙が始まりかねないけど〕

〔それ、どっちがどっちに蹂躙されるんだ?〕

〔ふっ、言わせんなよ……〕


 コメント欄も好き勝手言ってくれちゃってるね。後で覚えておいてよね?


〔でも、お互いに使えない武器だったらグダらんか?〕


 コメント欄に、そんな指摘が飛ぶ。


 たしかに、字面だけなら面白そうな企画ではあるのだけれども。コメントの指摘にもあるとおり、グダる可能性が高い。

 ちなみに、私も大剣はほぼ触ったことがない。

 それもそれとしてかわいいと見てくれる人もいるけれども。


「というか、鈴音ちゃんも使ってる武器は片手剣だよね?」


 実際に目の前で見たから、しっかりと覚えている。まあ、どちらかというと盾を構えていた印象のほうが強いけれども。


「はい。いつもは片手剣と盾で戦っております!」


「……いつもは?」


「ええ! だって私、冒険者ですもの! 携帯はしておりませんが、必要とあらばどんな武器でも戦えるように心得ております!」


「普通は心得てないんだよ!?」


 いったいなにを言い出すのかと思えば、本当に理解できないことを言われてしまってちょっと困惑する。

 たしかに複数武器を使えるように練習してる人は冒険者には少なくないし、Cランク以上ともなればサブ武器を持っていることも多いけれども。


〔えっ、なに? じゃあランダムで引いたどの武器でも扱えるってこと?〕

〔まあ、鈴音ちゃんが持ってきたくじだし、自分が使えるやつだけ持ってきたってことじゃないんか?〕

〔いや、それはそれで理不尽でしょ?〕


 鈴音ちゃんの名誉のためにも、私はカメラを動かして、さっきから画面外にあった大量の武器の存在を映しておく。大方、メジャーどころの武器はしっかりと揃ってる。

 ついでにいうと、くじの紙もかなりの数があった。たぶん、みんなが心配してるような不正は、ない。逆にあってくれたほうが、私にとっては却って安心ではあったんだけど。


 私やコメントの反応に、きょとんと首を傾げた鈴音ちゃん。


「だって、ダンジョンってなにが起こるかわからないでしょう? 熟練エキスパートとまでは言わずとも、最低限扱えたほうが、いざという場面に困らないと思うのですが」


〔うーん、否定は、できない〕

〔それ正論? 私正論嫌いなのよね〕

〔そういえば、この子、鈴音ちゃんだったわ〕

〔そこまで仕込まれてんのか、エグ〕

〔あの鍛錬方法を見せられりゃ、全武器使えるくらいじゃある意味驚かねえわ〕

〔さすが、休憩時間にまで勉強をしてた(させられてた)やつの面構えは違うなあ〕


 おまけとばかりに投下してくれた特大の爆弾。おかげさまでコメント欄も大盛況。


「私。師匠から、派手な戦い方は教えられないけれども、なにがなんでも生きて帰る術は教えられる、と。そういって教えていただいていますので。いざとなったら小石を使おうが木の幹を使おうが、なんとか退路を確保するために戦えるようにと言われておりますの!」


 わあ、すごい。いやほんとにすごい。

 今のCランクの子ってこうなの? いや、絶対にこの子がイレギュラーなだけだと思うけど。そうだと信じたい。


「……ねえ、これって私が間違ってるのかな」


〔正直なところ、理想として正しいと現実として正しいの正しさの違いでしかないかな〕

〔ただ、その理想論を現実にしてるやべーのが目の前にいるから混乱してしまうんだよなあ〕

〔安心してくれ。ワイらはスノーちゃんの味方や〕

〔それはそれとしてスノ虐は期待するが〕


 私の方が先輩の冒険者のはずなんだけど。鈴音ちゃんたちと出会ってから、今までの常識が全部覆されて行っている気がする。

 それでいて、悲しいかな。彼女の主張に反論できるような理屈が私の手元にはありそうにない。


「もし武器に不慣れであれば言ってくださいませ。私が教えられる範囲のみになりますが、扱いのお手伝いをいたしますので!」


「……ちなみに、その後は?」


「もちろん、模擬戦(メインディッシュ)です!」


 これは、なかなかに長い配信になりそうだね。

 時間が、というよりかは、精神的な意味合いで。






「さすが、スノーホワイトさん。お強いですね!」


「ボコボコにされた身でそれを言われると、ちょっと複雑なんだけど」


 模擬戦の決着については、詳しく語るまでもないだろう。


「ふふっ。私なんて初めてのときはまともに立ち回れてすらおりませんでしたから。それなのに、スノーホワイトさんは慣れない武器とのことでしたのに、私なんかとは比べ物にならないくらい立ち回れていたものですから!」


「……ちなみに、いつ頃の話をしてるの?」


「ええっと、初めてのダンジョンの少し前ですから。夏休みのはじめ頃ですね」


〔本人的には本当に心から褒めてるんだろうけどさあ〕

〔実質的には経験の差を、始めたての人間と比べられてもなあというお話であって〕

〔そして、現状すでに技量がひっくり返ってるところを見せつけられたら〕

〔まあ、泣くわな。ワイは泣いてる〕

〔涙吹けよ。なぜかこのハンカチ濡れてるけど〕

〔お前も泣いとるやんけ〕


 なにこの子。いやもう、正直なところ、よっぽどのことじゃないと驚くつもりはなかったんだけど。

 繰り返し何度か模擬戦を行ったが、くじの中にはしっかりメジャー武器がひととおり入っていたし。彼女自身にも得手不得手はあるらしく多少の練度の差こそあれども、それなりに、あるいは下手な使い手よりよっぽど上手い動きで戦っていた。


 それでいて、教えるのもしっかりとうまい。私が使い方を知らない武器は事前に練習の時間を設けて教えてくれてたんだけど。コメント欄のみんなが〔ここだけで見る価値がある〕というくらいにはしっかりとしていた。


 それほどに、各武器に対してしっかりと真摯に向き合ってきたのだろう。


 彼女が最初に宣言したとおり、いざとなったときになにがなんでも生きて帰れるだけの術と言えるだろう。

 模擬戦でも、身体強化以外の魔力使用の原則禁止というルールでやったけど。武器での攻撃だけじゃなくて、体術なんかも組み合わせて来ていたあたり、本当に泥臭く、目的を果たすための訓練を積んできたのだろうということがわかる。


 繰り返しにはなるけど、これで冒険者歴半年である。そういう戦い方をしている、ということも。それができるようになっている、ということも。正直、驚きしかない。


「でも、やっぱり視聴者のみなさんがおっしゃるように少し不公平――私に有利なルールではあったかもしれませんね」


 ぽつり、と。鈴音ちゃんがそう言う。武器としてはランダムだったし、たしかに、元々習熟度のある鈴音ちゃんと私とでは、たとえ事前に練習の時間があったにしても、試合の結果は見るまでもなかったというのは事実だろう。


 しかし、それ以上に。


「スノーホワイトさんは、魔法少女ですものね。身体強化以外の魔力使用禁止では、十全には戦えなかったでしょう」


 魔法少女。私が自称するそれは、カテゴリとしては冒険者としてはいわゆる術師などと称されたりする、スキルによる遠隔攻撃を中心として戦う後衛攻撃役だ。人によってはスキルのことを魔法や魔術と呼んだりするために、魔法使いや魔術師と言ったりすることもある。

 そして、私はその中でも。魔法少女を自称している。


〔せや、スノーちゃんは魔法少女なんやから。魔法解禁すればきっと鈴音ちゃんにも勝てるはず!〕

〔ああ、俺たちのスノーちゃんなら多分!〕

〔おそらく、勝ってくれるはずだ!〕


 コメント欄のみんなも、そう言ってくれる。

 言ってくれるのは、嬉しいんだけど。なんでだろうね。みんな、どこか言葉にひと押しが足りていない。


「ですので。最後にエキシビションとして。なんでもあり、で一線をやりませんか。都合、場所はダンジョンの入り口付近になりますけれど」


 撮影用の環境も、それなりに動けるようにはなっているけれども。さすがに魔力全開でやり合えるほどの場所じゃない。というか、さっきまでほ模擬戦ですら、かなりギリギリだった。

 だってさ、そこまでの内容だって想定するわけ無いじゃん? いくら前回のトレーニングがめちゃくちゃにキツかったからといってさ? 曲がりなりにも平均以上ではある冒険者が全力で食らいつかないといけない、食らいついたとしても蹂躙されるようなことが起こるとは思わないじゃん?


 とまあ、言い訳はさておき。申し出自体は悪いことじゃない。移動の時間は必要だけど、配信ネタとしても盛り上がりそうだし。

 負けっぱなしってのも、やっぱり、ちょっと気に食わないし。


「いいよ、やろっか」


「やった! 動画の方を拝見させていただいて、スノーホワイトさんの魔法を間近で見せていただきたいと思っていたんです! とてもキレイだなあって!」


 真っ直ぐな瞳で、そう言ってくる。

 分け隔てなく、こういうことを言うのだろう。視線から、毒気を感じない。


「ふふっ、それじゃあ。とびっきりの銀景色を見せてあげなきゃね」

Tips:星宮 鈴音

 配信での視聴者の反応から、もしかしたら自分がイレギュラーなのかもしれないと自覚し始めた。

 そうだよ。




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