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#84

「それじゃ、今日はここまで。チャンネル登録と高評価、よろしくね! それじゃ、おつすのー!」


 配信を笑顔でやり遂げて。カメラが停止したことを確認した私は、そのまま力が抜けるようにして床にぺしょりと倒れ込む。

 驚いた様子です鈴音ちゃんが駆け寄って来てくれる。


 ありがとう、心配してくれて。でもこうなったのは鈴音ちゃんに三割くらい原因があるんだけどね。

 ちなみに、一割はうまく今回のことを仕込んできた陽鞠ちゃん、二割は軽い気持ちでそれに乗った私。残り四割は諸々の根源の月村さんということで。


 ただ疲れただけだということを伝えると、彼女は安心した様子で息を漏らす。本当に、他人のことをよく気にかける子だ。


「私、ちゃんとやれていましたでしょうか」


「うんうん、とってもよかったよ」


 配信自体は大成功と言っていいだろう。同接数や高評価も多いし、登録者数もかなり増えた。

 配信ネタとしても恩人が実は直近の噂の人、という強いコンセプトネタだったし。諸々が噛み合っていたとはいえ、いい配信だった。

 強いて言うならば、やりすぎ、ではあった気もする。約一名わたしが見事犠牲になった上での大成功だったからね。


 トレーニングが本当にやばかった。いや、ね? 自分で頼んだことではあるんだよ? でも、ここまでとは思わないじゃん?

 私Bランクだよ? いちおう鈴音ちゃんより上なんだよ? まあ、これのおかげもあってコメントもドン引きとツッコミを交えながらの大盛況だったわけなんだけど。


 とはいえ、高輪ダンジョンでの配信事故もあってどうなることかと思っていたところを、うまくひっくり返すことができた。

 これに関しては、間違いなく鈴音ちゃんのおかげだ。


 そんなことを思いながら話していると、ドアがガチャリと開く。


「お疲れ様」


「月村さん! 陽鞠さん!」


 身体を起こして入ってきた人物を確認するよりも先に、鈴音ちゃんの声で誰かが判明する。

 本日の配信に参加していなかった二名である。

 元々配信には映る予定もなかったふたりではあるが、どうやら冒険者協会の方でなにやら用事があったらしく、今まで出かけていた。


「初めてにしては中々よかったんじゃない?」


「えへへ、そうでしょうか。いえ、陽鞠さんがそうおっしゃるのであれば、きっとそうなのでしょうね!」


「あんたのその信頼はなんなのよ。まあ、これでいい感じに効果が出るんじゃないかしら」


 じゃれに行く鈴音ちゃんと、なんだかんだと言いながらにそれを受け入れている陽鞠ちゃん。

 うんうん。仲のいいことは美しきかな。

 陽鞠ちゃんもちょっと気の強そうなところはあるけどかわいらしい子だし、配信に参加してくれれば映えそうなんだけどねえ。……いや、よく考えたらこの子も鈴音ちゃんと同じトレーニングをしてきてたわけなんだから、民主主義たすうけつで見ると私が圧倒的な劣勢になっちゃうのか。危ない危ない。


「それにしても、動画で見たときも思っていたが。スノーホワイトはかなり強いんだな」


 月村さんが、そう言ってくる。思わぬ言葉に私はちょっとびっくりするしつつも、純粋な褒め言葉に感謝をする。


「まあ、これでもBランクだしね。……って、Cランクの鈴音ちゃんに助けられた人間が言っても説得力がないだろうけど」


 ついでにいうと、トレーニングで蹂躙された、という実績も本日追加されてる。こんなはずじゃなかったんだけどなあ。

 まあ、数字につながってるからいいといえばいいんだけどね。

 ……いや、それにしてもすごい反響だなあ。SNSでエゴサをかけてみてるけど、ここまで反応は初めて見たかも。


 せっかくなので、鈴音ちゃんにも見せてあげる。

 元々こういうことをしていなかったこともあり、初めてのエゴサーチに、鈴音ちゃんは興味深そうにそれらを見ていた。


「ふふ、たくさん褒めていただいてありがたい限りですね」


「なになに? かわいい、すごい、強い。あと怖いって感じね。うん、だいたい合ってるんじゃない?」


「怖かったですか? 私」


「捉えようによってはそうかもね」


「むむむ、配信、難しいですね」


 横から覗き込む陽鞠ちゃんにちょっかいをかけられながらに読んでいく鈴音ちゃん。

 たぶん配信の難しさじゃないと思うよ。それは。


「また見たい、次のコラボはいつですか、といったものもありますね」


「ああ、そのあたりはそこまで気にしなくっていいよ。今回だってこっちの事情で出てもらったようなものだしね」


 配信ネタになると思ったというのも事実だが、視聴者のみんなからしてみると助けてくれた人がどんな人なのか、といったことは気になるだろうし。感謝を伝えたいという人もいただろう。実際、そういったコメントもたくさん飛び交っている。


「まあ、今回の反響を見るに。出てくれるなら私としても嬉しいところはあるけどね。かなり数字が出てるし」


 ……私が苦しんでる姿――スノ虐――に喜んでいる手合がいることについては思うところがあるけれど。次のスノ虐待ってます、ってコメントもあるし。というか、既に用語化してるのはちょっと早くない? ファンのみんな?


 とはいえ、鈴音ちゃんも学生だろうし。そこまで無理をさせるわけにはいかない、と思っていたんだけど。


「私にできる範囲であれば問題ありませんよ。正直なところ、少し楽しかったですし。それに、せっかくお知り合いになれたのですから、よければ一緒にダンジョンに行ったりもしてみたいですし!」


 なにこのいい子。純粋すぎて数字を気にしていたこっちが浄化されそう。

 横にいた陽鞠ちゃんが苦笑いをしながらに「元々こういうやつなので。そんな気にしなくてもいいんじゃないです?」と言ってくれる。

 もちろん、学業や普段の予定などに支障のない範囲にはなるけれども、という補足付きではあるけど。


「それに。こっちとしても、鈴音に周りや自分がどれだけ異常なのか自覚するいい機会になるだろうしね」


 ぽつりとこぼされる陽鞠ちゃんの言葉。あれ、もしかして。いや、もしかしなくても、一般人の標本みたいな感じで扱われてる?

 いや、それに関しては別にダメってわけじゃないんだけど。配信者かつBランク冒険者って一般人枠でいいの?






     * * *





「鈴音! 見たよ、昨日の配信!」


「とってもすごかった。いろんな意味で」


 教室にて。津々見さんと笹良さんがそうおっしゃってくださいます。

 笹良さんのいろんな意味で、というのには、スノーホワイトさんが嘔吐してしまったシーンもばっちり配信に乗ってしまったので、おそらくはそのことでしょう。


 しかし、少しだけ意外だったのは、学校や教室に到着しても即座に取り囲まれなかったということ。それどころか、最近はもはや常態化していた遠巻きからこちらの様子を伺っていたような方々もほぼ見受けられません。


 津々見さんや笹良さんが適宜人払いをしてくださってはいましたが、それでも冒険者がどうとかダンジョンがどうであるとか、そういうことを聞いてきたり、聞きたがっていた方が昨日まではかなりいらっしゃったのですが。


「あまり、配信を見に来られた方がいらっしゃらなかったのでしょうか?」


「いや、その逆でしょうね」


 私が疑問符を浮かべていると、津々見さんが首を横に振ります。


「むしろ、あれだけ話題になって、興味の的になってたんだから。ほとんどの人が見たんじゃないかしら」


「それならば、どうして?」


 スノーホワイトさんの配信に参加をしていたので。てっきり、もっとたくさん来る可能性まで覚悟をしていたのですが。


「むしろ、見たから、だとおもう。ううん、見せつけられたから、かな」


 笹良さんが言う。


「言い方悪く言うと、みんな、鈴音でも冒険者になれる。半年でCランクになれるって、そう、思ってた」


「まあ、ざっくりと言うなら。舐められてたのよ。鈴音も、それから冒険者も」


 笹良さん、そして津々見さんの言葉で理解いたします。


 私のところに押しかけてきている人々のうちの過半数は、私が冒険者であることを知って。

 半年前までは、小学生並の弱々体力だった星宮 鈴音でさえCランク冒険者になれた、ということを知ってやってきた方々です。


 その一方で、配信で繰り広げられたのは私や陽鞠さんが行っていたトレーニング。


「そんなアイツらが配信で見たのは、鈴音のトレーニングにスノーホワイト(Bランク冒険者)がぶっ倒れそうになりながらになんとかギリギリで食らいついていっているという様。言い換えれるなら惨状」


 話題を聞いてか。やってきたのは陽鞠さん。


「惨状、とまで言いますか……」


 私はそう返しますが。でも、よくよく思い返してみれば嘔吐とかもありましたし。たしかに惨状だったかもしれません。


「曲がりなりにも実力者が死にそうになりながらにやってる姿を見れば、いくらバカでもどれだけキツイことをやってるかがわかるでしょ?」


 いたずらっぽく笑って、陽鞠さんがそう言います。

 なるほど。だからこそ、陽鞠さんは私に配信に出るように進めて、あの場をセッティングした、というわけですか。


 その効果については、現状を見たとおりでしょう。


「ま、アイツらもバカみたいに舐めて冒険者になって死ななくてよし。私たちは厄介な絡みを振り払えてよし。スノーホワイトは数字が取れてよし。三方よしでよかったんじゃない?」


 なるほど。たしかにそうかもしれません。


「約一名が地獄を見てるけどね」


 津々見さんがそうツッコみます。

 あはは、それは。まあ。

 でも、次もぜひにとおっしゃってくださってましたし。悪くはなかった、はずです。ええ。


「それじゃあ、また共演コラボするんだ」


「はい! とはいっても、まだなにをするかとかいつするかとかは決めてないんですが」


 なので、機会があれば、という方が正しいかもしれません。


「私も鈴音も、こういうのは詳しくないからね。やらせたいことの案はあるんだけど」


 そのままやっても配信として面白くなさそうでしょ? と。陽鞠さんがそう言います。

 前回は不意打ち的に私が参戦したことなどもあってあれだけの盛り上がりがあった一方で。次は事前の告知もありで、私のことも視聴者のみなさんがしっている状態からのスタート。

 陽鞠さん曰く、もう少しエンタメ性が欲しいところなんだけど、とのこと。


「ちなみに、どんなことをしようと思ってるの?」


 津々見さんがそう尋ねると、陽鞠さんがおふたりにスマホのメモアプリを見せます。

 なるほどねえ、とつぶやく津々見さんの隣で、笹良さんが少し考え込んだかと思うと。


「あの、それなら。こういうのはどう? 冒険者の配信じゃないんだけど、似たような企画を見たことがあって」


 少し不安そうな表情で、そう手を上げた。



 



     * * *






「実はですね。今日、配信をするということをお友達と話していたんですけど。そのお友達から、こういうのはどうかと教えていただいたんです!」


 パチンと手を打ち鳴らしながらに鈴音ちゃんはそう言うと。じゃーん、という効果音を楽しげに口ずさんで、カバンから箱を取り出す。


 ちなみに、お友達というのは学校の友達と、それから陽鞠ちゃんとのこと。

 事前にどんなものなのかを陽鞠ちゃんに聞いてみてたんだけども教えてくれなかった。嫌な予感しかしない。前回みたいな配信事故はたぶん起こらないって言ってたけど。不安しかない。


 ちなみにコメント欄では既に〔スノ虐か?〕というコメント。奇遇だね。私も同じな気がするよ。

 ついでに、それに歓喜する手合も。君たち、私のファンだよね? いや、ファンだからか。


「それで、なにをするのか教えてもらってもいいかな?」


「はい! お任せください!」


 友達と一緒にたくさん考えてきたとのことで、うきうきの鈴音ちゃん。

 とっても自信たっぷりの企画らしい。うん、そっちの心配は私もしてない。実際鈴音ちゃんとのコラボというだけで、既にかなりの同接があるし。

 ……別の心配は、めちゃくちゃあるけど。

Tips:星宮 鈴音

 自称普通の駆け出し冒険者。

 ちなみに、駆け出し冒険者は半年でCランクにならないし、普通の冒険者はあんなトレーニングをしない。

 いろいろと間違ってるし、本人がその間違いを自覚してないしできる自覚環境にいない。




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