#82
「この度は、ご心配をかけてしまったこと。本当に、申し訳ありませんでした。そして、みんなが諦めずに祈り、声をかけてくれて。繋いでくれたこと。心から、感謝を伝えさせていただきます」
〔ええんやで〕
〔というか、俺らこそなんもできてないわけだしな〕
〔感謝ならあの助けてくれた冒険者に伝えるべきでは?〕
温かなコメントが駆け巡る。
件の配信から二日。左腕も万全とまでは言わないまでも回復をして、病院から帰ることができて。
私はまず真っ先に配信を開始した。
SNSで無事は報告していたけど、あくまで文面上でしかない。やっぱりちゃんと安心してもらうためにも、早く配信をしたかった。
「ううん。みんながいてくれたからこそ。繋がったんだよ」
配信は、視聴者のみんながいてこそ成立する。
たしかに助けに来てくれたのは月村さんと鈴音ちゃんだけど。ふたりがあの場に駆けつけることができたのは配信があったから。
つまりは、みんなが繋いでくれたからである。
〔てか、あの冒険者やばかったよな。クオーツゴーレムの根性込みだってのに二発で仕留めるって〕
〔それってどれくらいやばいん?〕
〔ゴーレムは食いしばりで必ず一撃を耐えてくる→二発で倒してるってことはこれがなければワンパンしてる〕
〔やば〕
〔俺はスノーちゃんのことを守ってくれたあの女の子のことが気になりすぎて夜しか眠れない。これが、恋?〕
〔寝れてんじゃねーか〕
む。どうやら鈴音ちゃんに夢中になろうとしてるファンの子がいるみたい。それはちょっとジェラシー。
でもまあ、こればっかりは仕方がない。だってあのときの鈴音ちゃん、私もかっこいいって思っちゃったしね。
「さて。私の無事も報告できたところで。さっそく、今日の本題に入っていこう! というわけで、おいで!」
「ひ、ひゃい! えと、あの!」
〔!?〕
〔えっ!〕
〔かわいっ〕
〔誰この中学生〕
〔誰もなにも、一昨日にスノーちゃんのこと助けてくれた子だよ!〕
コメント欄が加速する。うんうん。いい反応。
「というわけで! 今日は私のことを助けてくれた方に来てもらいました!」
「私たちのことを配信で紹介?」
鈴音ちゃんが首を傾げる。
「はい! これでも私、それなりに知名度がありますので。悪いようにはならないかと」
実際、嘘ではない。
とはいえ、全部を話している、というわけでもなく。私にとっても、数字が取れそうな案件である、という見積もりはある。
さて、反応はどうだろうか、と。私が待ち構えていると。
「私は控えさせていただきます。今回の件につきましては、治療しかしていませんので」
銀髪ショートの女性、千癒さんがそう言う。
治療だってまごうことなき救助活動の一端だし、おかげさまで助かっている私がいるので、私個人としては、しか、なんてことは全くないとは思うんだけれども。
とはいえ、千癒さんの合流、そして治療は配信の終了後に行われたことなので。そういう意味では視聴者に疑問符を抱かせる原因になるというのも真っ当な意見ではある。
「私も千癒さん同じ理由で遠慮させてもらうわね。そもそも、配信はあんまり好きじゃないし」
続いて、金髪のギャルっぽい女の子、陽鞠ちゃんがそう言う。
まあ、単純にそんなに露出が好きじゃない、とかもあるだろうし。こればっかりは仕方がない。
「それじゃあ。月村さんと、それから鈴音ちゃん。ふたりはどう?」
私がそう投げかけると、鈴音ちゃんはオロオロと困ったような様子で陽鞠ちゃんや千癒さん、そして月村さんへと視線を送っていた。
「俺は出ないが、鈴音は好きにすればいい」
「好きに、と言われましても。……えっ、月村さん、出ないんですか?」
鈴音ちゃんがそう言う。私としても、クオーツゴーレムの二撃決殺を決めた月村さんにはできれば出て欲しかったんだけど。
「なにか、事情があるとかです?」
これだけ強いんだから、もしかしたらなんらかの契約上の縛りとかがあるのかもしれない。とは、思ったんだけれども。
「別に出られない事情があるとかではないんだが。スノーホワイト、でいいのか? ダンジョン配信自体が客商売かつ人気商売なんだから、絡みには気をつけたほうがいいとは思うんだが」
「……あー」
たしかに、私自身。正直あんなものを見せられたから、という熱にあてられていた部分があったのかもしれない。
月村さんの言葉で冷静考え直してみれば、まあ、至極単純。
ブランディング、というとまあ大層なものではあるけれども。女性が人気商売で売っている関係上、異性絡みはあまり好ましくない。
しかし、そうなってくると。
「それなら、私も――」
まだ出会ってしばらくの関係性で、キチンと知り合えていると言うには程遠いけれども。とはいえ、月村さんと鈴音ちゃんの関係性については大まかに推測できる。
だからこそ、月村さんが出ない、と言えば。きっと鈴音ちゃんも――、
「鈴音は出たらいいんじゃない?」
「はへ?」
思わぬところから、そんな言葉が飛んできた。
声の主は、金髪ギャルちゃんの陽鞠ちゃん。
「ちょうど、ちょっと学校でめんどくさいことになってたしね。そこの配信者は結構知名度あるみたいだし。いい、宣伝の機会になるんじゃない?」
お互いにね、と。彼女は私の方へと視線を送りながら、そう付け加える。
うーん、どうやらこちらの思惑は察されていたみたいだね。
でも、鈴音ちゃんも、首を傾げながらにあまりわかってない様子ではありつつも「うーん、それなら?」と。前向きにはなってくれたみたいだし。オッケーかな。
……陽鞠ちゃんの思惑がなんなのかが読めていないのが、ちょっと怖いけど。
「どうやら、みんなも気になってたみたいだしね。だったら、正式にご紹介をしたいなあってことでお声がけしちゃいました」
〔お声がけしちゃいました! で呼んでいい相手じゃないだろ〕
〔でもまあ、正直気になっていたから助かる〕
〔かわいい〕
〔スノーちゃんよりかわいい〕
〔え、じゃあこの子がクオーツゴーレムをぶっ飛ばしたってこと?〕
〔いや、クオーツゴーレムをぶっ飛ばしたのはこの子の仲間の人。この子はクオーツゴーレムの攻撃を受け止めてスノーちゃんのことを守った子〕
〔それでも十分やばいんだけど〕
〔てか、一昨日は背中しか映ってなくてわからんかったけど、もしかして広島の同時多発暴動事件のときの星宮さん?〕
「お。どうやら鈴音ちゃんのことを知ってる人もいるみたいだね。私もすっごくびっくりしたんだよ。まさか助けてくれた人がそんな有名人だったなんて、って」
あと、しれっと私よりかわいいとか書いた人もいるみたい。ふぅん、そんなこと言っちゃうんだ。ふぅん。
まあいいけど。
「鈴音ちゃん。自己紹介できそう?」
私がそう尋ねると、彼女は少し緊張した声音で「は、はい!」と。うんうん、素直でいい子だ。
「えっと。魔法少女スノーホワイトのまじかるチャンネルの視聴者のみなさん。はじめまして。私、星宮 鈴音と申します」
〔ご丁寧にチャンネル名全部読み上げてる〕
〔めっちゃ礼儀正しいじゃん〕
カメラの前で一礼をする鈴音ちゃん。
これまでの応対からもわかっていたことではあるけど、所作のひとつひとつがすごくキレイ。
「冒険者としてはまだまだ駆け出しではありますが。本日はよろしくお願いします!」
〔ええ子や〕
〔いい子だ〕
〔かわいい〕
〔いや待て、駆け出し?〕
〔駆け出し(討伐指定A級の攻撃を受け止められる)〕
〔駆け出し(クオーツゴーレムの腕を弾き返せる)〕
〔そんな駆け出しがいてたまるか〕
〔そもそも高輪ダンジョンに入れてる時点でCランク以上だろ? 駆け出しなわけないじゃん〕
「うんうん。みんなもそう思うよね。私もそう思ったよ。……でも、実は鈴音ちゃんね。まだ冒険者になって半年くらいなの。それで、Cランク」
〔は?〕
〔嘘松乙〕
〔いやいや、さすがにないでしょ〕
〔マジだとしたら三年目にしてやっとDランクになったワイが悲しみに沈むんやが〕
「私もそう思ったんだけどね。冒険者としての経歴を見せてもらったらね。……目を疑ったよね」
〔マジなのかよ〕
〔R.I.P三年目Dランクニキ〕
〔別にショック受けてるのはワイだけやないやろ〕
〔それは、そう〕
〔ドッキリとかじゃなくて?〕
〔というか、中学生じゃないの?〕
〔冒険者になれるのが高校生からだから中学生じゃないな〕
〔正確には十五歳からだから、中学生でもなれなくはないけど〕
ちなみに、もうCランクなのか、という一方で。まだCランクなのか、という評価もできてしまう。
個人的な感覚としては、クオーツゴーレムの攻撃を――防御に注力していたとはいえ――防ぎ、あまつさえ弾き返せるCランクがいてたまるか、というように感じてしまう。
そもそも、討伐指定A級の意味自体がAランクの冒険者単独ないし複数人のパーティでの討伐が推奨されているという意味であって。これを鑑みればいかに異常化が伺える。たとえ、防御という一点のみだとしても。
ちなみに、私はできない。これでもBランクではあるんだけれども。できる気がしない。
なんなら、できなかったからこその、あの惨状だったわけではある。もちろん、使っていた武器の違いはあるけれども。
まあ、実際のところでいえば。Dランク未満の上げるだけ恩恵が大きいランク帯とは違い、Cランク以上は応召義務なんかの制約もあってわざと上げていない人たちも多い。だから、ランク詐欺の実力の人も多い。
とはいえ、時期的なことを考えるならば、鈴音ちゃんはCランクに上がったばっかりってことを考えると、やっぱりいろいろとおかしい気が……いいや、あんまり考えないでおこう。
「冒険者ランクと強さは単純比例しないとはいえ、実力がないとこんな駆け上がりは不可能でしょう! ということで、今回は鈴音ちゃんの強さに迫るべく、どうやって強くなったのかについて教えて貰おうと思います! よろしくね、鈴音ちゃん!」
「はい! とは言っても、私も先生から教えていただいていることそのままにはなってしまいますが」
「それで大丈夫! ……あ、ちなみに彼女の師匠の方からはそのやり方を教えてもらうことについては許可もらってるから! そこは安心してね!」
〔いらない心配すぎる〕
〔いやまあ、いちおう、ね? コンプラ的にね?〕
〔というか、師匠ってもしかしてクオーツゴーレムを二発でぶっ飛ばしてた人?〕
〔食いしばりで耐えられただけだから、実質ワンパンなんだよなあ〕
〔ああ、納得(白目)〕
〔そりゃ半年でここまで化けますわ〕
〔つまり、同じやり方をやれば俺らも強くなれる?〕
視聴者のみんなもかなり興味を持ってくれている。
ちなみにこれ。実は鈴音ちゃんたちからの――より正確には陽鞠ちゃんからの提案だったりする。
ちょうど、私もリハビリっていうわけでもないけれども、また動けるようにトレーニングしていかないといけないと思っていたし。配信事故のこともそうだし、死にかけちゃったことも含めて。なんだかんだと今回のことは深く受け止めている。
強くならないといけないと、そう思っていたし。そういう意味では、渡りに船ではある。
陽鞠ちゃんは、こちらの思惑に気づいた上で、互いの利を強調しながらに鈴音ちゃんに共演を勧めてくれたところもあって。なにか仕込みがあるんじゃないかな、と。ちょっぴり警戒していたんだけれども。
そういう意味では少しだけ拍子抜けしちゃったな、なんて。
そんなことを、考えていた。
……このときは、まだ。
Tips:討伐指定A級
Aランクの冒険者単独ないし複数人のパーティでの討伐が冒険者協会から推奨されている魔物。
本来であれば、決してCランクの冒険者が立ち向かっていいような相手ではない。同伴にSランクやSSランクがいたとしても。
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