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#75

「それじゃ、頑張れよ」


 広島駅。新幹線搭乗口にて。俺たちは見送りに来ていた。

 武器の調整から共闘、事案の事後処理に至るまで世話になりまくった空羽。

 カルキノス・ベイルの暴走を抑えていた他にも、どうやら聞いた話では鈴音や小夜の面倒も見てくれていたらしい、蒼汰と琴風のふたり。……そういえば、このふたりがなぜ広島にいたのかは全くの不明だったが。話を聞く限り影千代のことも知らなさそうだから、その目的でもないだろうし。

 まあ、今更気にすることでもないだろう。


「支樹たちは帰らないの?」


「まあ、そうだな。俺はともかくとして鈴音も小夜も本調子じゃないからな」


 空羽からの質問に俺がそう言うと、隣にいたふたりが「えへへ、実はお見送りにも少し無理を行って出させていただいております」「別に、これくらいどうってことはないんだけど」と、二者二様の反応を見せる。

 まあ、正直療養というだけであれば星宮邸に戻ってからでも十二分にやれなくはないのだが。様々なトラブルの発生もあり、そもそもの広島に来た目的である地下洞窟型ダンジョンへの慣れについてはそれほど深くなっていないし。ついでに、弓弦さんからの連絡を聞く限りでは、まだ海未が来訪している、とのこと。


 小夜の身分についてがややあやふやになっている現状では――いや、今回の一件で少なくとも蒼汰と琴風に知れていることを考えると、実はもう会わせても大丈夫だったりするのか?


(まあ、別に急ぐことでもないだろ)


 先述のとおり、広島にいる目的は別にもある。それが終わってからでも遅くはないだろう、と。

 ……まあ、俺自身、やっぱりまだちょっと顔を合わせるのは気まずい、という理由もなくはないけれど。


「そういうことだから、向こうで誰か知り合いと会ったときにはよろしく行っておいてくれ」


「ん。よろしく。蒼汰」


「……………………琴風?」


 隣から聞こえてきた声に思わず首を傾げる。

 そこにいたのは、さも当然とばかりに、いつの間にか隣に陣取っている琴風。いや、あなたは今から蒼汰と一緒に帰るのでは?


「やだ、帰らない。支樹のところにいる」


「ええ……」


 唐突な家出宣言。……家出ではないかもしれないけど。


「こら。今回のこともあってわかっただろ? 俺たちが支樹と一緒にいたって足を引っ張るだけだってことに」


「それは、そうだけど。でも、だからって一緒にいることを諦めていいわけじゃないし。せっかく、見つけたのに」


 ……うん? 俺の聞き間違いか?

 だって。彼らが俺の足を引っ張るんじゃなくて、俺が彼らの足を引っ張ってるわけで。


「あー、そうそう。これを言い忘れてたんだけどさ」


 既に新幹線へと足を踏み入れていた空羽が「そういえば」と。半歩振り返りながらに口を開く。


「お前さんたち、たぶん、一回ちゃんと話し合ったほうがいいぞ?」


「……へ?」


 話し合う、といってもいったいなにについて……?


 混沌とした雰囲気の中。俺も、蒼汰も、琴風も。それぞれが疑問符を頭の上に浮かべて。

 なにかを探るように、なにかを確かめるように。あるいは、誰かが切り出すのを待つかのように、静寂が流れて。


「そういえば、聞き忘れていたのですが。蒼汰様も琴風様も。それから、海未様までもが月村さんのことをご存知の様子でしたが。……皆さんはどのようなご関係なのですか?」


 そんな中に。鈴音がそんな疑問を投げかける。

 単純な質問といえばそれまでではあったのだが。凛と透き通った彼女の声は、静まり返っていた空気感も相まって、一等際立って聞こえた。


 俺たちの関係性。そういえば、あんまり大手を振って言えるようなものでもないから、と。鈴音には結局言ってなかったな。


 そう。俺たちの関係性は――、


「元仲間だよ。俺の実力不足で追放されたけど」

「元仲間だね。僕たちが彼に頼りすぎたせいで出ていかれちゃったけど」

「元、仲間。私たちがよわよわで、見限られた」


「…………うん?」

「…………はい?」

「…………えっ?」


 キレイに、全員の疑問符が揃った。……って、今はそれはどうでもいい。


「くははっ。やっぱりそういうことか。この間に海未が来店したときに支樹のことを探してはいたけど悪し様に言ってなかったからそういうこったろうとは思ってたけどさ!」


 楽しげに笑ってみせる空羽。

 とはいえ。どうやら、俺たちは随分な勘違いとすれ違いをしていたようで。

 彼女の言うように、ちゃんと、話したほうがいいのかもしれない。


「そういうわけだから、三人分の席は私がありがたあく使わせてもらうから」


 ニシシッ、と。いたずらっぽく笑いながら、閉まる扉の前で空羽が手を振った。

 全く、彼女らしい。


 ……ちなみに。今回のは不慮とはいえ、いちおう指定席の過剰取得は違反行為だけどな。

 意図してやったことじゃないし、そうそう咎められないとは思うけど。






「……さて」


 戻ってきました、ホテルの部屋。

 絶妙にやりにくい空気感が漂う中。小夜が第一声を切ってくれる。


「なんとなく、駅でのやり取りから察してるところもあるかもしれないけど。ひとまず、お互いの主張から確かめていく……前に。鈴音(約一名)が全く以てついていけていなさそうだから、月村さんの所属……あなた的には元所属なんでしょうけど。それについて教えてもらいましょうか」


 小夜の発言に、鈴音が「……へ? もしかして他の皆様は、知っておられるのですか?」と。

 まあ、うん。そうなる。蒼汰と琴風は当然のことにして。千癒さんも小夜も知っている。

 特に、千癒さんについては、俺の素性についてを察知してもなお鈴音に伝えていなかったという経緯もあって罰の悪そうな表情を浮かべていた。

 ……ただ、千癒さんにせよ小夜にせよ、俺の事情を汲んでくれただけなので、責めるのはなしにしてあげてほしい。


「まあ、正直なところ。この状況になっている時点でほぼ答えなようなものではあるが。俺の元所属は《海月の宿》だ」


「――ッ!」


 少々の驚きと、そして、納得。目を丸めながらに、鈴音は息を呑む。


「と、いうことは。ここに蒼汰様と琴風様がいらっしゃるのは」


「うん、鈴音ちゃんの想像しているとおり。支樹くんがここにいるからだね」


「ん。私の探知サーチで頑張って探した。めちゃくちゃ頑張って探した」


 むふー、と。全力で胸を張りながら、琴風がそう言う。

 ちなみに、やり方を聞いてみたところ。琴風のドヤ顔も納得の代物だった。理屈として可能なのはわかるが、よくそんなやり方を実行したな、とも思うし、そのやり方で見つけたな、とも思う。


「とりあえず月村さんの素性を全員が把握したところで。ひとまず、月村さんの主張から聞きましょうか」


「主張、と言われても。ただ単に《海月の宿》の中で力不足だった俺が足手まといになるから、その前に出ていくべきだろうとそう思ったわけで」


 小夜に振られるままに俺がそう答えると。しかし、その場にいた全員が首を傾げる。


「月村さんが、力不足?」


 鈴音が言う。よくわからないものを見せられた猫のように虚空を眺める彼女。

 鈴音も実際に《海月の宿》のメンツと一緒にいたらわかるって、みんなヤバいんだから。

 鈴音だって海未の実力は見たことあるだろうし。


「カルキノス・ベイルを一刀両断するような支樹くんが?」


「……無い。瞬間火力だけなら、海未リーダーに迫るのに」


 蒼汰と琴風もそう続く。

 そうは言ってもあくまで瞬間火力だけだし、反動も酷い。ついでに制御なんてあったものじゃないから、あれを実力に数えるのは違うと思うんだが。


「そもそも、海未が言ってただろ? 俺と距離を置くべきだって」


「そんなこと言ってな――」


 即座に反論してこようとした琴風だが、しかし、その言葉を詰まらせる。

 そして、その表情に焦りを募らせていって。


「うん、言ってはいた、ね」


 琴風より少しばかり冷静になるのが早かった蒼汰が、そう答える。


「まさか、聞かれていたとは。……そう考えると、あの会議の翌朝に支樹くんがいなくなってる。タイミングとしても、合致するのか」


 どうやら、なにか合点がいったらしい。


「とはいえ、俺と距離を置くべきだってのはそうだったんだろう? それなら」


「違うの、支樹。私たちは、そういうわけじゃなくって――」


 慌てた様子でなにかを弁明しようとしていた琴風。

 明らかに冷静じゃない彼女の言葉を、小夜がパンパンと軽く手を打ち鳴らすと「ひとまず、月村さんも琴風さんも落ち着いて」と一旦制す。


「とりあえず、月村さんが《海月の宿》から出ていった理由はこれでわかったと思う。だから、次は《海月の宿》のおふたりの主張」


 一旦一息を置いたことで、少しばかり琴風は落ち着いた様子。とはいえ、それでもまだ完全に冷静とは言えない彼女の代わりに「ここは僕が」と、蒼汰が口火を切る。


「たしかに、支樹くんが聞いたように、僕らが彼と距離を置くべきだと認識していたのは事実だ」


「なら――」


 言葉を挟もうとしたところ、小夜に制される。……たしかに、今は彼らの発言を聞くターンだ。


「ただ、逆なんだ。さっき、支樹くんが言ったこととは」


「私たちは、支樹に頼りすぎてた。そう、思ったからこそ。支樹に頼りすぎないように、負担になりすぎないようにしないと、って」


「……へ?」


 頼り、すぎていた? 俺の立場から話すなら、俺に負担がかかりすぎていたから……?

 いったい、なんの話をしてるんだ?


「支樹くんが出ていって、痛く思い知ったよ。いや、元々そうなってしまっている、という実感はあったけどね」


「支樹の支援バフがあるとないとじゃ、やっぱり天地の差がある」


「いやいやいやいや、なにを言ってるんだよ。俺が出ていって即座に始祖ダンジョンの階層突破だってしてただろ? アレは(お荷物)がいなくなって戦いやすくなったからってわけなんじゃ――」


支援役バッファーがいなくなって、戦いやすくなるわけ、ない」


 琴風が、バッサリとそう言い切る。

 それは、たしかにそうだけどさ! ただ、守る労力とか。


「支樹はそのへんの支援役バッファーと違って自衛できる。邪魔になんて、ならない」


 それは……たしかにそうか。


「……なるほどね。僕らとしては支樹くんに対して、君に頼りすぎなくても大丈夫ってことを伝えるために頑張っていたことが、逆に、君が不要であるかように写ってしまっていた、ということか」


 どうやら納得したらしい蒼汰と琴風。


「ちなみに、海未リーダーはめちゃくちゃに泣いてるし、年甲斐もなく地面に寝っ転がりながら駄々をこねてる」


「……あまりにも想像に難くない」


 想像できてほしくはなかったが。特に、そこに鈴音ファンがいるのだから、なおのこと。


 なお、我らが海未リーダーに憧れている鈴音ファンはというと。


「ええっと、つまり。どういうことですの?」


 完全に置いてけぼりを食らっていた彼女は首を傾げながらに尋ねる。

 そんな彼女に、小夜は「そんなに難しい話ってわけでもないわよ」とそう言うと。チラリとこちらを一瞥してから。


「圧倒的に会話が足りてなかった最強おばかさんたちが、互いが互いに自分のせいだと思い込みながら。勝手に追放されたと思いこんでいたり、棄てられたって思い込んだりしながら、意味不明なまでにすれ違ってたってだけよ」


 ねえ? 月村さん? と。呆れの混じった表情を浮かべながらに小夜がそう言ってくる。


 ――ここまで言われて、察しないほど俺も間抜けというわけではない。

 ただ、なんというか、その。正論、ではあるんだけれども。


「改めて言葉にされると、なかなか複雑なものだな」


 自分自身がその阿呆をやっていた立場である、ということも相まって。

Tips:月村 支樹

 《海月の宿》の設立時メンバーにしてリーダーである海未の幼馴染。

 《海月の宿》のメンバーのことはもちろん、海未のことなら言葉を交わさずともわかってる。……と思っていた。


Tips:夏色 海未

 支樹の幼馴染。

 昔からずっと一緒だった支樹のことならなんでもわかってる……と思い込んでいた。


Tips:小夜 陽鞠

 なんとなく両側の事情を把握していたために、間に挟まれて説明役を担うことになってしまったかわいそうな子。他に理解していそうな人物として空羽と千癒がいたが、空羽はとっとと帰ってしまったし、千癒からはなんらかの事情があるのか支樹のことを言おうとしないので結果的に彼女がやることになった。

 そんな彼女からひとこと。

「お前らちゃんと顔を突き合わせて本音で話せ」

 とのことです。




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