#73
無理矢理に支援スキルを重ねがけし、威力を底上げしまくった攻撃を繰り出したことに対しての弊害は、制御がきかないということの他にももうひとつ。
「ねえねえ支樹。最近なにしてたの? あの子たちはだあれ? どういう関係?」
見事、反動によって動けなくなってその場に座り込んだ俺は、ちょこちょこと動き回りながらに視界の中で主張をしてくる元仲間から質問攻めに遭っていた。
「琴風。いきなり一気に聞きすぎだ。聞きたいことがあるのは僕も一緒だけど、あんまり詰め込みすぎても支樹くんが困るよ」
顔を合わせて声を交わすのは、実に数カ月ぶりとなるだろうか。以前には、毎日のように顔を合わせていたのだから、そう思うと随分と久しぶりなように感ぜられる。
「それにしても、蒼汰は相変わらずだし。なによりも琴風がいつもの調子みたいで安心したよ」
あくまで個人的な認識ではあるんだけれども。追放した相手に対して以前と同じように接する、というのは、追放した側からしてみてもやりにくいものだろうと考えていたから。
それが、こうして久しぶりに会ってみても、以前みたいに仲の良い友人のように関われるのは、嬉しく思える。
と、思っていたのだけれども。
「んーん、全然いつもどおりじゃない」
「えっ」
「支樹と再会したから、いつもみたいに戻った」
「えっ」
琴風の言葉に、頭の上に疑問符が浮かびまくる。ええっと、それはつまり?
琴風の話し方が芯を捉えないのはいつものことだ。だから、発言の意図を推測する必要がある。
俺と再会して、いつもみたいに戻った? つまり。
「……ああ、気を使わせてすまない」
追放をした相手に対して、そのことに負い目を感じさせないために、以前のように振る舞ってくれている、ということなのだろう。
「うーん、たぶんだけど、支樹くんが考えてるのは間違ってると思うよ?」
「そう、なのか?」
「うん。たぶん、だけどね」
たはは、と。困惑混じりの笑顔を浮かべる蒼汰。諸々の間に挟まることが多かった彼は、よくこういう表情をしていた覚えがある。
ああ、本当に懐かしく思えてきた。いや、メンバーはまだまだ足りないんだけれども。
「そういえば、みんな元気そうか? いや、ニュースとかで活躍は見かけてるんだけどさ」
「そう! ニュース! 私たち、すごく頑張ってる。だから、大丈夫!」
食い入るようにして、琴風がそう主張をする。
頑張っているらしいことは知っている。ただ、なにが大丈夫なのかはよくわからないが。
……いや、嘘だな。きっと、俺が少しだけ考えたくなかっただけだ。
発言が心を捉えていない琴風の言葉でも、会話の流れを汲めば推測、理解は容易い。
俺がいなくても、大丈夫だ、と。そういうことなのだろう。
やっぱり、こうして直接に突きつけられると、少しばかり寂しいものはある。
でも、それだけみんなが強くなった、ということであって。それは、やっぱり誇らしいことで。
「まあ、みんな元気か、という質問に対しては。一応は、肯定的返すことになるかな」
「微妙に煮えきらない回答だな」
蒼汰のその言葉に、俺は首を傾げる。
「とはいえ、支樹くんが心配しているようなことはないよ」
「うん。ちょっと海未がアレになってただけ」
おい海未、いったいなにがあったんだよ。
いちおう海未にだけは、阿蘇ダンジョンと渋谷マルハチで見かけていて――とは言っても、ほぼすれ違う程度だが――そのときには特段なにか変な様子はなかったように思っていたんだが。
「とにもかくにも。僕らとしては支樹くんが元気そうでよかった、という方が大きいけどね」
「まあ、今の状況だけを抜き取ると、全くもって万全とは程遠いって感じだ――っ、おい、琴風。俺の身体をツンツンするな」
人が動けなくなっていることをいいことに、琴風がくっついてきながらに身体のあちらこちらを突いてくる。
そんなことをしておきながらに無表情のままなのは、それはそれでなんでなんだよと突っ込みたくなるが。クソ、万全に身体が動かせないから、琴風のことも引き剥がせない。
「後先考えずに行動してダンジョン内で動けないようになるなんてことにならないように。支樹に、いっつも叱られてたこと」
「ぐっ」
痛いところをつかれる。事実、彼らに対して耳が痛くなるほどに言ってきたことである。ついでに、鈴音や小夜に対しても。
実際のところは、現状の俺は最低限動けるくらいではあるのだが。とはいえ、先述のとおりくっついてくる琴風になすがままにされているので、なにも言い返せない。
「でも、支樹が一気に片付けてくれたおかげで、大侵攻が起こらずに済んだ」
「うん。それは間違いないね。僕らの火力だと、間に合わなかっただろうし」
「……たしかに、相性は悪かったが。しかし、お前らが抑えてくれていたからこそ、俺が間に合った、というわけでもある」
カルキノス・ベイルが縦横無尽に暴れまわることができていたならば、大侵攻の発生はもっと早まっていたことだろう。
アルカナ連合による冒険者協会の機能停止、聖銀会による冒険者の活動の不全なども相まって、被害が甚大になっていたことも考えられる。
「ん、私たちすごい。頑張った、偉い?」
「ああ、偉い偉い」
ずもももっ、と。頭を突き出してくる琴風。これは、撫でろということである。
久しくも慣れ親しんだやり取りに俺が応じていると、彼女は「むふー」と満足げに息を漏らす。
「でも、やっぱり支樹くんがいると戦いが違うね」
「ん。それはそのとおり」
「え、なに。この流れでまさかの俺のディスが入るの?」
素直にお話がまとまっていく流れだと思っていたのに。
いやまあ、いくら急いでいたとはいえ、周りを巻き込みかねないの攻撃をぶっ放し。ついでにこうして反動で動けなくなって、と。
うん、言われても仕方がないっちゃあないんだけどさ。
「いやいや、ディスなんてそんなわけ」
「ん。蒼汰の言うとおり。むしろ足を引っ張ってるのは――」
蒼汰と琴風から、なにやら訂正の言葉が入ろうとして。
しかし、その瞬間に。全員が同じ方向へと意識を向ける。
「ふむ。今回はかなりいいところまで来ていたと思うんだけどね。やっぱり君が止めに来てしまうのか」
カルキノス・ベイルの死体のそばに。いつの間にか、女性がひとり、立っていた。
大侵攻を抑え込むことに成功して気が緩んでいた、ということについては否定はしない。
しかし、曲がりなりにもダンジョン内。最低限の探知は発動させている。しかし、何者かが接近した気配は感じ取れなかった。
俺だけではない。蒼汰も。そしてなにより、探知役である琴風までもが、彼女の接近を知覚することができなかった。
――だが、今はそれはいい。無論、どうやって接近したのかや、なぜ気取られぬように接触してきたのか、というような意図は気にするべきではあるが。しかし、なによりも。
「お前は誰だ。なにをしに来た」
「ふふふっ。随分とまあ、怖い声を出すものだね」
反動の影響で満足には動けないが、それでも最低限の行動はできる。
そしてなにより、継戦の疲労こそあれども、蒼汰と琴風のふたりもいる。
戦闘になっても、そう、負けることはないと思っているが。
「ああ、そんな戦闘態勢にならなくってもいいよ。別に、戦おうってわけじゃないし。そもそも、私はそんな戦えるような実力ないしね」
飄々とした様子で話す女性。
……なぜだろうか。聞き覚えはない声音なのだが。どこか、嫌な懐かしさがあるような気がする。
「支樹。君は今、こう疑ってるんでしょう? 今回、ここ広島マルロクを中心に起こった三つの事件。これらは、関連している、って」
「…………ああ、そうだ」
女性の言葉に、俺がそう首肯する。
隣では琴風が「三つ?」と首を傾げていた。そういえば、蒼汰と琴風はアルカナ連合の一件は知らないのか。
簡単にだけ、概要を伝えておく。ともかく、事件の詳細は本旨ではない。必要なのはアルカナ連合が関わっていることと、彼らが行使した力。
「聖銀会とアルカナ連合。いずれも、広島はおろか、中国地方を拠点に活動している派閥じゃない」
少し前に駅前なんかで主張の小競り合いをしている話を聞いたときも。そして、広島マルロクを中心とした暴動が発生したときも。「なんでこんなところで?」という疑問が発生した。
「加えて、両団体ともに過激派ではあるものの武闘派ではない。なのに、暴動という力押しの手段をとった。……それを、取れるだけの力を得た」
アルカナ連合は魔物化を可能とする手段。聖銀会では、鈴音たちからの伝聞にはなるが、魔力をかき乱す銀弾。
いずれも、一般には知れ渡っていない技術や知識だ。
もちろん、アルカナ連合や聖銀会がそういったことについての研究をしていた、という可能性もある。彼らの主義主張を鑑みるに、十分あり得る話ではある。
だが、それにしてはタイミングがあまりにも良すぎる。
全く以て関係のないはずの正反対の派閥が同時に暴動を引き起こして。
そして、そんなタイミングで。カルキノス・ベイルという、本来広島マルロクには生息しないはずの魔物が出現して。
あわや、大侵攻発生、という瀬戸際であった、など。意図を勘ぐらざるを得ない。
特に、渋谷マルハチでのことを考慮に入れるなるば、人間の魔物化と異常な魔物召喚については同一の犯人によるものである可能性が高い。
「ついでにいうと。お前が首謀者なんじゃないか、とも疑っているが」
「ふふふっ。根拠もなにもない随分な疑いだね」
「この状況で現れて、意味深長な物言いをしておきながらに、疑わないでくださいってのは筋が通らねえだろ」
「ま、それもそうか」
女性は軽い口調でパッとそう言ってみせると。くるりと身を翻してみせながらに俺たちの方へと振り向いて。
「うん、そうだよ。支樹たちの言うところの犯人は私。アルカナ連合に魔物化の方法を教えて、聖銀会に破魔の銀弾を渡して、暴動が起こるように誘導して。そして、カルキノス・ベイルを召喚した」
「……あっさりと、認めるんだな」
「まあね。実際、支樹がさっき言ったように、わざわざこうして姿を見せている時点で疑われるのは前提だったし」
まるで、いたずらのネタバラシをする子供のような声音で、女性は楽しげに、あるいは挑発をするかのように言ってみせる。
「さっき、戦っても勝てないって言ってたのに。いいのか? 捕まるとかは気にしないのか?」
「大丈夫大丈夫。いやあ、敵のことまで心配してくれるなんて、支樹は相変わらずだねぇ」
いや、心配というよりかは、単純に彼女の行動に疑問を抱いているだけではあるんだが。
それに、敵は敵なんだろうけれど、敵意がないというか。
どちらかというと、害意はないが性根からがクソなだけという気配がしているというか。
「むう、さっきからあなた、支樹のなにのつもり。あたかも自分は支樹のこと詳しいですよ、みたいな態度、ムカつく」
「琴風? それはそれで争点が絶対に違うと思うぞ?」
変なスイッチの入った琴風がガルルルルッ、と威嚇をする。
俺にひっついたまんまで。おかげさまで、全然威圧感がない。
「でも、琴風の言うとおり。少し気になるところではあるね。あなたが支樹くんとどういう関係なのかは」
そうは言われても、俺の方も身に覚えがない、というか。
「まあ、君たちふたりよりかは彼のことを知っているとは思うよ?」
「はあ?」
思わず声をあげてしまった。
彼女の発言に、蒼汰と琴風が勢いよくこちらを振り返ってくる。
「……どこで唾つけてきたの。あんまり増やすと、そのうち刺される。特にアイツは執着深そう」
「いやいやいや、ほんとに知らないって、あんな根っからのクソみたいな……やつ…………っ!」
まさか、と。立ち上がろうとしてみたが、がっちりと琴風がへばりついている上に反動でまともに動かない身体も相まって変な痛みが身体に走るだけだった。
「やっと思い出してくれたみたいだね。まあ、本当の私で相手をしてなかった私が悪いんだけどさ?」
そう言う彼女の声音、立ち姿、顔貌。それらはまるでモーフィングをしていくかのように徐々にその縁取りを変えていく。
おそらくは初めて見たのであろうその光景に、蒼汰と琴風は目を丸める。
いつの間にかそこに居たという事実。どこか感じていた懐かしさ、そして性根からのクソさ加減。
そこで、気づくべきだった。なんせ、あいつには声も見た目も、なんならば、性別すらも関係がない。
「……水瀬 影千代」
「ふふっ、大正解。でも、フルネームじゃなくって名前で読んでくれたらバッチリ満点だったかな?」
知っている顔、知っている声に変わった彼女―影千代が、そう言ってくる。
「さて。私も確かめたいことについては十分確かめられたし。このあたりでお暇しようかな?」
そう言って手を振る影千代。蒼汰と、それからさっきまで俺にくっついていた琴風は一瞬で切り替えて彼女に向けて駆け出すが。
「それじゃあ、またね。支樹」
――たしかに、彼女では戦ったところで俺たちには勝てないだろう。
しかし。逃げる、追いかけるという意味合いでは。この上なく、俺たちに不利がある。
彼女が、そう言ったとほぼ同時。
そこにいたはずの彼女は。まるで幻であったかのように、蒼汰と琴風の手は空のみを切る。
――《悪戯妖精》。
自分自身の存在を歪ませる、という理を捨て去ったそのスキルは。姿形や声を変えることなどわけもなく。
その場から、いなくなるという。擬似的なワープすらも可能にする。
足取りを断つという一点に於いては、この上なくふざけた性能をした影千代の固有スキルだ。
Tips:《悪戯妖精》
姿の偽装、声の偽装。そして、擬似的ではあるものの瞬間移動、と。
撹乱と逃走に於いてはこの上ない強さを誇る固有スキル。
絶対に持ってはいけないやつが持ってしまっている。
よろしければ、感想やリアクション、ブックマークや評価などで応援していただけますと嬉しいです!




