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#67

「……チッ、数が多いのだけが。本当にネックね」


 毒を吐きながらに、目の前の敵を行動不能にする。

 着実に聖銀会側の戦力は削いでいっているのだが、遊撃を行えているのは私だけ。

 それも、こちらはまともに銃弾は喰らえない。生存、もとい回避が優先されるということもあり、更に手数が減っている。

 しかしながら、敵はどんどんと寄り集まってきていて。状況はジリジリと不利に追い込まれている。


 ――とはいえ。つくづく、鈴音ひとりに行かせなくてよかった、と。そう思う。

 数が減らないまま、ターゲットが分散しないままに。この数が彼女に襲いかかっていたかと思うと。


「貴様らは、魔物と同じなのだ! 元か人間であろうとも!」


「いいえ、違います! 今も、昔も。そしてこれからも! 私たちは、人間です!」


 聖銀会たちの声に。しかし、鈴音がそう強く主張を返す。

 両者、一歩も譲らない。ここまでくると、半ば意地のぶつかり合いである。


「私たちはあなたたちの隣で学び、考え、律し。ただ平穏を願って暮らしているだけの隣人です!」


「言葉も解さない化け物に身を落とした分際でなにを言う。そも、魔物であろうとも考えることはする! 貴様らとなにが違うと――」


「違います!」


 食い入るようにして、鈴音は言う。


「訂正をしてください。繰り返します。私たちは、魔物ではありません。私たちは人間です。少しのことに喜び、悲しむだけの、ただの人間。自らの理想と残酷な現実の間に葛藤しながらも、倫理と秩序を重んじ、善く生きようとするだけの人間です」


 鈴音のその語気は、まるで眼前でその主張を繰り出されているかのような。距離などを思わせないほどの圧を持っていて。


「決して、化け物に身を落としてなどいません」 


 その威な、聖銀会の連中が思わず怯むほど。


 この瞬間に、少しでも――と。私が足を走らせていたそのさなか。


「――魔物だ!」


 誰かが、そう叫んだ。

 ほぼ同時。視界の端に映り込む魔物。

 広島マルロクの第一層は魔物の出現率が低いとはいえ、ダンジョンはダンジョン。当然に出てくるときは出てくる。

 しかし。サハギン種を中心に多数と、シーワームが数体。数も多ければ、その強さも明確に普段とは違っている。いわば、凶暴化状態に近い。


 こんなタイミングで、と。私は歯を噛む。


「我々には聖なる銀弾がある! 恐るることはない!」


 陣頭を執る男性が、そう息を巻き、叫ぶ。

 彼が放った銀弾は、たしかに魔物に対して効力を見せた。冒険者に対しての有効性を見せたところからも予測ができたことではあるが、魔を祓う、魔を否定する、というその言葉は、事実ではあるのだろう。

 魔力を保有していない彼らが。魔物に対抗するための力として振りかざしながら、ダンジョンという危険地帯に足を踏み入れるだけの理由ではありそうだった。


 しかし、その効力は。彼らの言う浄化と呼ぶにはあまりにも悍しい。

 銀弾が、魔物の身体に命中すると、被弾箇所を中心にその身体を維持できなくなったかのように、歪むようにして崩れていく。


 その光景に彼らは賛美し。対する私と鈴音は、思わず、息を詰まらせた。


「さあ。この聖弾で魔物共を――」


 鼓舞を振り撒いていた男性は。しかし、その言葉を完遂することはなかった。


 たしかに。魔物に対して有効な手立てを持っていた、というのは事実だろう。

 ついでに、その銀弾があれば、序盤階層の魔物程度ならば、当てることさえできれば、問題なく撃破できるというのも事実ではある。

 だが。それだけで魔物の対処ができるほど、ダンジョンは甘くはない。


 男性は、突き上げられるようにして。空中に身を投げ出される。その腹は食い破られ、血が空を舞う。


 ――そも、当然ではあるが。当てることができなければ、銀弾も意味を成さない。


 大前提、現状のダンジョンは、平時の環境ではない。

 蒼汰さんたちが対処に向かった魔物の出現により、魔力の均衡に歪みが発生。それにあてられて、周辺の魔物が凶暴化したり、本来の出現場所以外にいたりしている。シーワームなどが、その際たる例だ。こいつらは、本来下層の洞窟部に生息している。


 水中ないし地上戦を行うサハギン種であればまだしも、地中からの強襲を行うシーワーム相手となれば。先手を譲らざるを得ない。

 対処を知らない状態からでは、私や鈴音でも対応に困った相手だ。彼らにとっては脅威以外のなにものでもない。


 ここからの顛末は、想像に難くない。


 戦況はまさしく阿鼻叫喚。戦線の崩壊した聖銀会は、ひとりは魔物に立ち向かい、ひとりは逃げ惑い、あるいはこんな状況でも私や鈴音へと攻撃をしてきたり、と。混沌そのものと化している。


 そもそも聖銀会自体、戦うことを前提に寄り集まった集団ではない。むしろ、魔力排斥派閥の中では戦いは苦手な部類だ。

 そんな人たちが銃を手にした程度で大量の魔物を前に対処ができるかというと。その答えは現状である。


(……でも、ある意味ではチャンスなのかもしれない)


 偶然の状況とはいえ、聖銀会の連中の手が一部魔物に差し向いていて。もちろん、魔物たちにとっては私たちも聖銀会も同列なので、こちらにも被害は飛んできているものの。

 しかし、聖銀会が勝手に自滅していってくれているというのも事実。この隙に、対処を加速させれば。


「……なんて、あの性格のバカがするわけないか」


 戦々恐々とした戦場に、一筋の稲妻が奔る。

 その姿を認めた私は、彼女の居場所を引き継ぐようにして、洞窟の入口へと反転する。


「なっ――」


「繰り返し、お伝えしますが。私たちは、あなたたちのことを敵だとは認識しておりません」


 魔物たちと聖銀会の間に割り込んできた少女――鈴音は、落ち着いた声音で、そう言う。

 私個人としてはここまでされていて、敵として認識してもいいと思うんだけど。でも、彼女の言うことも理解できないわけではない。

 別に、こちらとしては戦いたいわけではない。事実、鈴音はここまで、聖銀会の人員に対して一太刀として致命的な攻撃をしていない。彼女の役割後防衛であった、ということもあるが。接近してきた手合に対しても、シールドバッシュや蹴りなど、最低限の対処で留めている。

 ……私はまあ、結構斬ってはいるけど。でも、それも腕や脚などの行動不能を目的としたもので、命まで取る攻撃はしていない。


「そして、ここまでの主張はたしかに食い違っておりましたが。今、ただひとつ共通する認識は。私たちにとって、魔物が敵である、ということ」


 ここまで、冒険者のことを魔物と同様である、などと随分とほざいてくれた彼らではあるが。しかし、一貫して敵視していたのは魔を有す存在。魔物もその一端。

 そして、私たち冒険者にとっても、当然に魔物は敵である。


「この場は、私たち冒険者(専門家)に任せてください。そうすれば、この場の安全はお約束いたします」


 入口側からの援軍も、聖銀会バカどもが暴れ散らかしたせいで、行政機能が一時機能停止している可能性もあり、いつ来るかわからない。

 つまり。現状をこの場にいる人員だけで切り拓かないといかない。


 正直、あの量の魔物を鈴音ひとりで、というのはかなり厳しい。平時の魔物であればともかく、凶暴化しているという現状では難易度も跳ね上がってしまっている。

 しかし、聖銀会の連中が逃げるだけの時間であれば――彼女の努力がそんな時間に充てられしまうのは非常に業腹だが――稼ぐことは可能だろう。

 私たちとしても、彼らがこの場を引いてくれるというのであれば、洞窟内で安静にしている冒険者たちという憂いが軽くなる。

 互いにとって、益のある提案だ。


 聖銀会の連中も、魔物の凶暴性や事実として鈴音に助けられたという現状もあり、迷っている様子。

 とはいえ、その迷いの時間もったいない。こちらとしては、さっさと逃げてくれれば楽なのだけれども。


 おおよそ、疑いの感情などがあったのだろう。なんせ、さっきまで敵対していた存在だ。

 鈴音からの反撃はたしかにほとんどなかったとはいえ、聖銀会からは殺意とも取れる銃弾の雨をぶつけていた相手だ。そんな相手から、はたして助けの手が伸びるのか、と。


 しかし、そんな彼らの不安をよそに。鈴音は動き出した。ただひとつの迷いなく。斃すべき存在を見定めて。

 そんな彼女の姿に。疑問をいだきながらも、聖銀会の連中がひとりふたり、三人と。この場から引いてくれる。

 ただ、全員ではない。まだこちらのことを疑っているのか、私と睨み合いをしながらに洞窟の奥を狙っている手合もまたいて。

 できるならば、私も早いうちに鈴音の方へと介入をしたいのに――、


 タンッ、と。発砲音が鳴る。

 それ自体は、この戦場に繰り返し起こっていた事象でしかない。

 しかし。


「う、ぐっ……」


「鈴音ッ!」


 鈴音の頬に赤い線が一筋走る。同時、鈴音が苦悶の表情を浮かべる。


「あんた、なにをっ――」


 鈴音に向けて銃を構えていた男に私が喰らいつこうとするが。しかし、別の聖銀会のせいで足を止めざるを得ない。


「貴様らこそ、なにか勘違いしているようだ」


 嫌に落ち着いた声音で。男は言葉を紡ぐ。


「言葉を解さない貴様らがなんと言い、なんと考えようが勝手だが」


 わかり合えない。そんなことは、百も承知。もしかしたら、なんて。そんな甘いことは、起こり得ない。


「依然として、我々の敵は貴様らであり、そして、魔物。敵が勝手に同士討ちを始めたのみ。なぜ、手を止める必要がある」






     * * *






 頬を走る痛みを精神で押さえつけながら。ともかく、至近の魔物の無力化だけを優先します。


 ――背後から迫る妙な気配に咄嗟に振り向きつつ対処をいたしましたが、結果としては掠ってしまって。


 先の男性の声もあり、一瞬戸惑いが発生していた攻撃は、虚しくも再開をしてしまいました。


 痛み自体は我慢ならないほど強いわけではありませんが。しかし、訴えかけてくる感覚の異質さに、思わず歯を食いしばります。

 負傷箇所を中心に、魔力の統制が乱れています。

 おそらく、彼らの言う銀弾の性質がこれなのでしょう。奇しくも身を持って体感したからこそ、間違いなく理解をいたします。


 この魔力の乱れが、冒険者たちのスキルによる治癒が阻害されていたり、あるいは先刻の魔物が崩れるようにして斃れたその要因なのでしょう。


 これは、よくない。今の一撃は掠っただけなので影響は薄いですが、身体強化などの魔力を使用しての強化などにも僅かに効力が及んでいます。まともに喰らえば、おそらく身体強化の維持ができなくなるでしょう。むしろ、かき乱れる魔力に影響されてまともに行動すらできなくなるかもしれません。

 冒険者の方々が、銃弾のみでまともに抵抗できなくなり、地に伏せるしかなかったのはこの影響でしょう。


 そして、身体の大半に魔力が深く影響している魔物にとっては、この乱れが致命に至る。


「……本当に、よくありませんね」


 余計に当たれない。当たらせてはいけなくなってしまいました。

 しかし。魔物と聖銀会の板挟みにある現状。思考すべき項目が大量にあって。とにもかくにもひとつひとつをこなしているものの、どんどんと間に合わなくなってしまいます。


 とはいえ、対処が間に合わずに銀弾を食らうことがあれば本末転倒。


「はしたないかもしれませんが、勘弁してくださいませ!」


 手が足りないのなら、足を使う。剣も、盾も、蹴りも。使えるものならなんでも使う。

 とにかく、魔物を退けながらに、聖銀会からの攻撃をいなす。

 とにかく、躱して、防いで、魔物を斃して。


 次は、次は――、


「鈴音、後ろッ!」


 陽鞠さんの声。おかげさまで気づくことはできました。

 気づくことは。

Tips:サハギン種

 海を始めとする水中及び水辺に棲んでいる亜人の魔物。半人半魚のいわゆる魚人のような見た目をしている。

 陸上での活動も可能だが、本領は水中にいるとき。

 ただし、賢くない個体がほとんどなので、陸上への誘導は容易。




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