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113/117

#113

 翌朝、八時。


「出発だ」


 黒崎様率いる第三部隊案内のもと、ダンジョン災害によって壊れた街へと歩みを進めていきます。

 駐屯地の時点で外に人の生活の気配がなく、魔力を帯びた空気が漂っていたり、戦闘の痕が残っていたりと、ダンジョン外だというのに、まるでダンジョンの中にいるかのような様相を醸していましたが。

 札幌ダンジョへ向けて進むにつれ、その空気をどんどんと強めていきます。


 崩壊都市なのですから、そのとおりではあるのですが。しばらく進めば魔物と会敵。

 まだダンジョンから距離がある――魔力濃度も低い――ためか、それほど強くはなく。北鎮の方々の連携もあって、すぐさま撃退が成されます。

 とはいえ、それでも魔物の強さは確実にダンジョン三層目ほどはあって、既に危険地帯であるのは明白。


 しかし、それにしても皆さまお強いです。魔物との戦闘が定期的に挟まっているというのに、行軍のスピードが落ちていません。

 特に、隊長というだけはあってか、黒崎様の動きはとてつもなく綺麗で。まるで背中に目でもついているのかも思わさせられるほどに、全体に指示を飛ばしながら自分自身も戦ってらっしまいます。

 私も、役割的には同じような戦い方をしているのですが。ああいう姿を見せられると、まだまだなのだと自覚をさせられ――、


「鈴音ッ!」


「鈴音さん! 危ないっすよ!」


 陽鞠さんと瀬尾様の声。ふと引き戻された意識で周囲を確認すると――いつの間にか、オークがすぐそばまで迫ってきていて。握りこまれた槍がこちらへと突き出されようてしていて。

 まずい、と。慌てて盾を構えようとした、その瞬間。飛び込むようにして割り込んできた陽鞠さんが槍を蹴り砕いて。そのまま双剣を振り抜いて、オークの腕を切り飛ばしていきます。


「陽鞠さん、ありがとうございます!」


「感謝はいらない。私の仕事は鈴音の護衛だしね。それよりもボーッとしてるんじゃないわよ。ここは既に危険地帯なのよ!」


「はい! すみません!」


 陽鞠さんからの喝に、私は気を取り直して武器を構え直します。

 ダンジョン付近までは第三部隊の皆さまが主となって戦闘を代理してくださるとはいえ、完全に安全というわけではありません。陽鞠さんのおっしゃるとおり、気を抜くのはまさしく命取りでしょう。


「いやあ、まだ若いってのに強いね。助けに行こうとしたんだけど、間に合わなかったよ」


 陽鞠さんとほぼ同時に、私の危険に反応してくださっていた瀬尾様が盾をおろしながらにそうおっしゃります。


「でもまあ、いちおう基本的には俺たちに任せてくれても大丈夫だよ。いちおう、ここでの仕事は俺たちの役目だし。可能な限りダンジョン内に温存してほしいってのもあるしね。……なーんて、速度で負けてた人間に言われても信用ならないかもしれないけど」


「そんなことはありません! 頼りにしていますよ!」


 実際、陽鞠さんが相当に速かった、というだけで。決して瀬尾様が遅かったというわけではありません。

 それを言うなら、戦地で警戒を疎かにしていた私が一番情けないというお話ではあって。


「瀬尾、それから星宮さん。不毛なやり取りだから、そのあたりに収めるように」


 どちらのほうが、という責任の取り合いの入り口付近で、黒崎様からそんな言葉が飛んできます。

 実際、少なくとも今ではない、というのは事実でしょう。

 揃って「はい!」という元気のよい返事をしてから、集中して行軍に戻ります。


 進むほどに、だんだんと強まってくる魔力濃度。

 魔物の出現頻度も、強さも。次第に高まってきます。


 同時、霧もだんだんと出てきます。ボロボロの建物なども相まって、まるでゴーストタウンのような雰囲気。

 しかし、少しばかり不思議な霧です。まるで、魔力を帯びたような。


「お、気づいた? この霧」


 私が不思議そうにあたりを見回していたからか、瀬尾様がそう声をかけてきます。


「札幌ダンジョンは、別名濃霧の森と呼ばれていたくらいのダンジョンだからね。この霧は魔物や魔力と同じく、門《ゲート》から漏れ出してきてるのよ」


「なるほど」


「まあ、魔力なんかと同じく。門《ゲート》から離れれば離れるほど濃度が薄まっていくんだけど。……返して言えば、それくらいには近づいてきたってことでもある」


 彼のその言葉に、ゴクリと唾を飲み込みます。


「このあたりだな。各員、仮拠点と司令部の設営を」


 更に少し進んだ地点。周辺警戒と陣営の維持に問題がなく、かつ、可能な限り札幌ダンジョンの門《ゲート》に近づいた場所で、黒崎様がそう支持を出します。

 元もとはコンビニであったであろう廃墟――今となっては、セイ……なんとか、という名前あったということしか読み取れませんが――などを利用しながらに、そう時間も経たないうちに仮拠点が形成されます。

 その傍らでは、月村さんや海未さん、黒崎様を中心にしながら、打ち合わせ。

 大きな机の上に地図を展開しながら、ここからどうやって札幌ダンジョンに近づいていくのかが検討されます。


「私たちもここまで来ることは稀でな。すまないが、街の状況は正確に把握できていないし、この地図がどれだけ信用できるかは微妙だ」


「基本的にはこのルートを使用する前提で計画していくが。状況次第では、別ルートを使用することもも考慮しないとな」


「ある程度は、メインルート付近は警邏をしておく。魔物の発生を完全には抑制できないだろうが、高密度化して退路が塞がれる、ということは可能な限り抑える。連絡は……たしか星宮さんの固有スキルで可能なのだったな」


「は、はい! その、一方的なものにはなってしまいますが」


「十分だ。ルートの修正があった場合はその旨の連絡をしてほしいというだけだからな」


 警邏の必要になる範囲が変わるので、シンプルながらに重要な役割だろう。

 黒崎様のお言葉に、私は力いっぱいに「はい!」と答えます。

 黒崎様からはいい返事だと褒めていただきました。


「悪いが、案内はここまでだ。そのかわりにはなるが、ここに確実な安全地帯《セーフエリア》を約束しよう」


「感謝する」


 繰り返し、なんども札幌ダンジョンにアタックする都合。直接の攻略を行う私たちと同じくらい、戻る場所を維持し、バックアップをする北鎮の皆さまも重要な役割です。


「それじゃ、みんな。準備はいい?」


 海未さんが、そうおっしゃります。

 全員が、揃って肯定で返します。


「それじゃあ、出発!」


 黒崎様や瀬尾様たちのおかげで安心して進むことにできることを感謝しながら。


 ついに。崩壊都市――札幌ダンジョンへ。






 攻略は、とてつもなく地道に。

 しかし、少しずつ前へと進んでいきます。


 まずは門《ゲート》付近の魔物を一掃してから「まずは私が行くわねぇ」と優梨さんが先陣を切ります。

 後衛攻撃役である優梨さんでいいのか、と最初は思いましたが。月村さんからの説明で理由を理解いたします。


「札幌ダンジョンの中は常時大侵攻(スタンピード)発生状態だ。氾濫自体が大侵攻《スタンピード》の勢いが強すぎて門《ゲート》を乗り越えて魔物が侵攻してくる事態のことだからな」


 つまり、内部にはそれに相応するレベルの魔物がせめぎあっているわけで。

 優梨さんが門《ゲート》の中へと足を踏み入れたほぼ直後。とてつもない魔力の気配が門《ゲート》の奥で弾けて。


「よし、行こうか」


 中に入ると、壊滅的なまでの爆発の跡と、凄惨なまでの魔物の死体。

 焼けた土の上に、微笑みながら立っている優梨さんの姿は、頼もしいと同時にちょっぴり怖く思えたり。


 まあ、詰まるところが。入場直後はとてつもない魔物の量が門《ゲート》付近に予測されるために、広範囲に対する殲滅攻撃が可能な優梨さんがまず入場をし、少しばかりの安全を確保したということ。

 しかし、確保できるのも少しだけ。しばらく、なんていうほどの暇もなく、ダンジョン奥地からは魔物が溢れ出してきます。


「さあ、行くよみんな!」


 けれども、そこは《海月の宿》。わざわざ歓迎(げいげき)をされずとも、こちらから攻め込んでいきます。

 月村さんの支援《バフ》もあり、巨大な魔物の波を押し止め、押し返していきます。


 しかし。それだけで攻略できるのなら、崩壊都市にはなっていません。魔物の圧もとてつもない勢いで。量が多いことはもちろんのこと、出現している魔物も討伐指定A級が多く、下を見てもB級。


 私たちに手出しができる……わけもなく。討ち漏らしが攻撃してきたときに自衛をするので精一杯。

 一撃ごとがとてつもなく重たく。少しすれば《海月の宿》の皆さまがカバーに入ってくださいますが。本当に、場違いなところに来ているのだというかことを思い知らされます。


 遅々とした歩みではあるものの、少しずつ攻略を進めていき。可能な限り最新の地図など、現状存在している札幌ダンジョンの情報を元にしながら、改訂や追記を繰り返し、新たに組み替えていきます。


「……おそらく、こっちのほうが嵐の中心だね。ただ、そこに至るまでに、相当に障害はある」


 地図に現状を照らしながら、影千代さんがそうおっしゃります。

 いわゆる、フロアボス。それらも、崩壊都市化の影響で尋常ではない強さへと昇格している。

 そして、その先にいるであろう、元凶。


「とにかく、今は少しずつ攻略をしていくしかない」


 しばらく進んだのち、計画のとおり、撤退。

 魔物の討伐状態が少し戻ってしまうのは惜しくはあるが、後方に再出現《リポップ》されて挟撃されるリスクや、私たちの疲労を考えるとそうせざるを得ない。

 第三部隊の方々が維持してくださっている仮拠点まで戻ると、食事などの用意がされていました。


「大したものじゃないけどな!」


 瀬尾様がそうおっしゃりますが、とーっても、ありがたいです。

 食事をいただき、しばらくの休憩ののちに、再度出撃。


 また、しばらくの進撃をして、撤退。


 これを何度も繰り返して。途中、フロアボスとの戦闘があったり。補給の兼ね合いで、駐屯地まで引き返してきて、再度仕切り直したりして。


 歩みこそ、極めて遅くはありますし。それぞれ、疲労は確実に積み上がっていきながらも。

 しかし、確実に進んでいくこと、第十層。

 とはいっても、崩壊都市化の影響で、周辺魔力濃度だけでいうと、第十五層相当になっていますし、敵の強さはそれ以上。


 そして。


「……崩壊都市になる前の情報から、変わってないとすると」


 しばらく進むと、妙な感覚がします。

 進んでいるはずなのに、進んでいない。


 たしかに真っ直ぐ進んだはずなのに、なぜか元の場所に戻ってきていて。

 無論。私たちが、前後不覚になった、というわけではありません。

 たしかに、深い霧が立ち込めていることもあって、周囲の様子は伺いにくいです。霧に含まれる魔力相まって、探知《サーチ》にもブレが発生します。


 しかし、それだけでは説明ができない――まるで、狐につままれたかのような。


「どうやら、崩壊都市化の影響で。相当に強くなっているらしい」


 ギャーッ、ギャーッと。威嚇するような、強い鳴き声が聞こえてきます。

 まるで、ここは自らの縄張りであることを主張するかのような。

 近づくものを、惑わせて――いえ。


「空間ごと捻じ曲げて、無理矢理に迷わせてくるとは。どうやら、影千代《おまえ》みたいなことをしてくるやつがいたみたいだぞ」


「あんな畜生と同列に扱わないでほしいね」


 現れたのは、複数の尾を持つ白色の獣。


 タマモノビメ。札幌ダンジョン、第十層のフロアボスである狐の魔物。

 その、凶暴化個体が。私たちの前に立ち塞がります。

Tips:札幌ダンジョン

 日本で七番目に出現したダンジョン。

 濃霧の森の別名を持つようにダンジョン内部は深い霧が立ち込めていて十分な視界が利かない。

 加えて、霧に魔力が含まれている都合で探知《サーチ》の精度が落ちやすく、探索が困難。高難易度であり、人気がないダンジョンだった。

 その結果、冒険者の立ち入りが少なくなり、魔力が強く溜まった結果、世界初の崩壊都市を引き起こすまでの大侵攻《スタンピード》が発生するに至った。



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