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111/117

#111

 数日が経って。段々と冬が強まっていくさなか。

 高輪ダンジョンの一件による昇格《ランクアップ》処理が正式に行われ。ついに私と陽鞠さんはBランクになりました。

 同時、千癒もBランクにランクアップしたほか、景さんはAランクになって。


 そして。そこからそう時間も経たずに。私たちの元に届いた協力要請。

 ――北海道。崩壊都市と化した札幌ダンジョンの奪還戦。

 もちろん、断ることは可能ではありますし。マイナスな気持ちで参戦するだけならば、足を引っ張るだけでしょう。しかし。


 もし、私にできることがあるのならば。






「……なんていうか、鈴音たちはどんどんすごいところに行くね」


 教室で、津々見さんがそうおっしゃります。


 崩壊都市奪還戦は公開されている作戦ではないため、話してはいけないこともそこそこにありはするのですが。それでも、お友達である津々見さんと笹良さんに、話せる範囲で共有をいたします。


 今回の件が進むにあたり、避けられない事柄がひとつ。学業です。

 一筋縄の攻略は不可能。長期間、北海道に滞在することになります。

 冬休みは可能な限りあてがうように段取りはしておりますが。それでも到底足りるとは思えない現状。

 つまり、休学の必要性があるということで。


「じゅっ、授業のノートは、できるだけ丁寧にとっておくね!」


「あと、クラスのうるさいやつらは私と笹良で抑えておくから安心なさい」


「はえ、私も?」


 笹良さんが間の抜けた声を漏らして。対する津々見さんが「当たり前でしょう?」とでも言わんばかりに頷く。


 冒険者法による休学制度が適用される――特に今回は前回のように私事のためではなく、冒険者協会からの指名に依る――ものの、あくまでこの制度自体は休学に依る不利益を防ぐものであり、その間の勉強が除されるわけではありません。


 笹良さんの言うように、後でノートを見せていただけるのは、とーてーもー助かります。

 そして、なんだかんだで「ま、私もいつもより丁寧に書いておくよ。自分の成績にも繋がりそうだしね」とおっしゃってくださる津々見さん。

 私は、とても好いお友達に恵まれております。


「しかし、国からの指名でって。すごいわね」


「国からではありませんわ! 冒険者協会からです!」


「いや、ほぼ同じようなものでしょ」


 いちおう、体裁上の問題などもあり、国と冒険者協会は区分された組織ではあるのですが。ただ、津々見さんがおっしゃったように一般人感覚からすると同じように感じるもので。

 というか、実質的な役割としては役所みたいなものなので、機能的にはほぼ同一ではあって。


「……やっぱり、心配では、ある。もちろん、鈴音ちゃんが強いってのは、わかってるけど」


 ぽそり、と。つぶやくようにして笹良さんが言って。同時、津々見さんも少しばかり弱気な表情を見せます。


 どこでなにをするのか、ということは非公開情報のためおふたりには伝えておりません。

 しかし、実質的に国のような役割のある機関から直接に要請があった、という時点で。事が小さくないことだけは察することができます。


「ご安心ください……とは、口が裂けても言えませんが。月村さんや《海月の宿》の皆様も一緒ですし」


 本当は《海月の宿》が関わっているということも現状では非公開情報なので、伝えることはあまりよろしくはないのですが。

 しかし、なにもかもが秘密、というだけではただただ不安を煽るだけになってしまいます。


「それに、私だってそれなりに強くはなっている、はずです!」


 今回、私がおふたりにお話をしていたのは。もちろん、勉学に関わる理由もありますが、それと同時に、安心をしていただくため。

 以前、広島に向かう際。急な展開であったがために事情を十分にお伝えすることができず、心配をかけてしまったがゆえ。


「……ふふっ、そうね。それこそ、昔の私や笹良では信じられないくらいに強くなっちゃって」


 津々見さんは小さく笑って。笹良さんも、同じく笑みを浮かべて。


「絶対、生きて帰ってきなさい」


「待ってる、から!」


 そして、真剣な視線をこちらに向けます。


「はい! 必ずや!」






 しばらくは事前の準備とトレーニングを繰り返す日々。

 作戦は、十二月に決定をいたしました。

 ちなみに、奪還戦については未だに非公開のままとのこと。聞いたところによると、ただでさえ初めてかつ危険な試みである上に《海月の宿》という日本でも屈指の戦力が動いていることが知れた場合の影響を加味してとのこと。


 ……もしかすると《海月の宿》が一緒だということを津々見さんと笹良さんに伝えたのはよろしくなかったのかも、とは思いましたが。曰く「まあ、あのふたりなら大丈夫だろう」とのこと。


 そうして、準備とトレーニングを行っているうちに。まだまだ時間があるようで。しかしすぐに訪れた十二月。


「ここが、北海道」


 札幌、千歳、新千歳空港が使用不可になったことに伴い、整備された日高空港に降り立ちます。


 初めての北海道。吐く息が白く凍ります。


「それにしても寒いわね。真冬だから当たり前といえば当たり前なんだけど」


 隣で、陽鞠さんがそうつぶやかれます。


 しかし、東京とは大違いな気候なのは間違いありません。なんせ、現在気温も氷点下付近とのことで。

 風が吹くと、寒いというよりかは痛いという感覚が走るほどです。


 私と陽鞠さんが防寒着をぎゅっと抱きこむようにして凍えているその一方、少し離れたところで景さんがとても元気そうな様子で撮影をされています。

 今回の奪還戦には、景さんも同行をしてきただけるとのことで。その撮影をしているのでしょう。

 もちろん、情報統制がかかっているため、普段のような配信はできませんが。直談判の末に、撮影と録画を用いた動画投稿であれば、冒険者協会の検閲の上で公開が認められたとのこと。

 まあ、景さん……もといスノードロップさんの私的な益云々もありはしますが。その一方で崩壊都市内部という環境自体のデータが少なく、それらを得られるのであればという冒険者協会側の事情もあったのでしょう。


 ……それにしても、元気そうですね。景さん。

 適性の氷系統スキルを使用する関係上、寒さに耐性があるのでしょうか。


「そろそろ北鎮《ほくちん》が迎えに来ると思うんだが」


 月村さんがそんなことを言いながらロータリーで待っていると。エンジン音が遠くから聞こえてきて。

 さらにしばらくすると、大型の車両――装甲車のような外装をした――の姿が見えてきます。


「どうも《海月の宿》の皆さん!」


 ロータリーに横付けした車。その運転席から二十代くらいの男性がそう声をかけてきます。


「残念ながら俺たちは《海月の宿》じゃねえな。アイツらはもう少しだけ遅れてくる。俺たちは協力者の方だ」


「そうなんすね! 俺は北海道氾濫鎮圧部隊の瀬尾《せお》 健二《けんじ》っす!」


「月村だ、よろしく頼む。それからこっちにいるのが――」


「星宮 鈴音です! 瀬尾様、よろしくお願いいたします!」


「小夜 陽鞠。……よろしく」


「魔法少女のスノーホワイトだよ! よろしくね!」


「鈴音お嬢様の従者をしております、千癒と申します」


「うんうん、元気そうでなによりだね!」


 陽鞠さんと千癒については果たして元気な返事といえるか微妙でしたが、楽しげな声で瀬尾様がそうおっしゃられます。

 そうして私たちをひとしきり見ていった瀬尾様は。しかし、その最後で首をかしげます。


「あれ? そっちの人は?」


「ああ、影千代――まあ、アイツはなんだ。いちおう、今回の件の協力者だ」


 瀬尾様に対して、全くと言っていいほど興味を示していない影千代さんに、月村さんが苦い顔を浮かべながらにそうおっしゃいます。


「なるほどなるほど。まあとりあえず、俺は皆さんを前線までお連れするように言われてるので。どうぞとうぞ、乗ってください!」


 言われるままに車に乗り込んで。全員が着席したことを見て、瀬尾様が出発いたします。

 雪道とは思えないくらいにはスピードを出して走る車に、大丈夫なのかと少しばかり不安にはなりますが「これくらい慣れっこなんで大丈夫っすよ。安心してください!」と。

 なら安心……いえ、やっぱりちょっとばかし怖いです。


「それにしても、鈴音ちゃんたちは。学生さん?」


「はい! 高校一年生です!」


「ひゃあ、マジか。それなのに今回の件に参加するってことは。随分と優秀なんだねえ」


 口笛を吹きながらに瀬尾様がそうおっしゃられます。


「言っても、私は海未さんたちのお手伝いでしかありませんが」


「それでもさ。協力者だろうが実力がなければ入れないのが、ここから先の崩壊都市《ばしょ》だからね」


「それを言うなら、瀬尾もだろう。北鎮の所属が弱いわけがない」


 北鎮――北海道氾濫鎮圧部隊は、その名のとおり北海道に於ける氾濫の鎮圧を主たる業務とする部隊。つまり、崩壊都市である札幌ダンジョンから溢れてきた魔物たちを相手取り、生存圏を賭けて最前線で戦う人たちです。


「はっはっはっ。そう言ってもらえるのはありがたいっすけど、さすがに《海月の宿》のお手伝いをするような方々と比べられるとさすがに困っちゃうなあ。隊長とかならまだしも、俺は給料(実入り)につられて所属してるような人間ですし。実際、こうやって足役(雑用)をしてますしねぇ」


 軽い口ぶりで言う瀬尾様。


「まあ、俺の仕事ももうしばらくでおしまいになっちゃうかもなんですけどね」


「困るか?」


「いんや、むしろ助かりますよ。おかげさまでお金はたっぷり溜まってるんですけど、どうにも娯楽が少なくて、使い道に困ってるんですよねぇ」


 ケラケラと軽い笑い声とともに、瀬尾様がそうおっしゃいます。


 崩壊以前の北海道であれば、それこそ日本でも有数の観光地であったり繁華街があったりと。少なくとも札幌付近であれば娯楽に困るような場所ではなかったのでしょうが。しかし。

 窓の外にある、断絶した線路や割れ砕けたまま最低限の修補しかされていないアスファルトなどを見て。現状がどうなのかは察するに余りあります。


「さっきも言ったように、使い道がなかったんでね。貯金はそれなりにあるから、適当にそれを食いつぶしながらゆっくり次でも探しますよ」


 運転中ということもあり、その表情は見ることができませんが。とはいえ、どんな表情をしているのかは、おおかた想像ができます。


「そういうわけで、皆さんにはすっごく期待してるんで。ぜひ、頑張ってください!」


「はい! 私にできることにはなりますが、可能な限りの尽力をすると誓います!」


「はっはっはっ。鈴音ちゃん、いい返事をありがとう!」


 私の答えに、うんうんと頷く景さんと、やれやれといった様子の陽鞠さん。

 でも、呆れているというよりかは、仕方ないわね、という感じで。やっぱり陽鞠さんは優しい方です。


「元気なのはいいことだが、本番は札幌だからな。北海道はでっかいどう、なんて洒落があるくらいにはバカでかいから、ここから北鎮の駐屯地までまだまだ時間がかかる。しばらくゆっくりしておいてくれ。寝てても大丈夫だ」


「瀬尾様、ありがとうございます」


「気にしなくっていいさ、俺もこれが仕事だからね。それに、さっきも言ったけど、君たちが札幌ダンジョンを制圧してくれるのを期待してるんだし。それに比べたらこれくらい安いもんさ」


 そうやって、相変わらずな明るい声音で話される瀬尾様。

 しかし、ちょうど会話と会話の狭間。少しばかりの、その瞬間。

 おどけるようなその口ぶりとは対象的な。小さく、真剣な口調で。


「俺の今の実力じゃ、札幌ダンジョンに入ることすらままならないからね」


 ぽつり、と。そう、つぶやかれます。

Tips:北海道氾濫鎮圧部隊

 札幌ダンジョンの大侵攻《スタンピード》、もとい都市崩壊をきっかけに編成された部隊。通称北鎮。

 崩壊都市の侵食を食い止める最前線で戦っている部隊であり、実力がなければ所属できない。

 なお、給料は高いがそれ以上に危険性が高く。実力等の募集要件の難しさもあってあまり人気ではない。




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