魔王の満悦
今日は、私とユリの披露宴だ。
私が招いた者達が一堂に会する。
本来ならば年に一度の会談でしか、会う事のないそれぞれの国の魔王達に、その妻。
私が治める魔族の各族長達とその配下が数名ずつ。
人間界からは、各国の王夫妻とその側近達が今回の披露宴の参加に賛同してくれた。
ユリがいれば、もしかしたらこの先、私達魔物が人間と歩み寄って行く事も、不可能ではないのかもしれない。
普段は静かなこの城の広間が、今日は笑いと祝福に包まれ、賑やかだ。人間も魔物も、諍う事なく。
100年近くも城を出ようとしなかった私が主催と知り、皆驚きを隠さなかった。・・・まあ、そうだろうな。
ユリは今、私室で支度をしている。私は城の主として招いた者達に一通りの挨拶を済ませたところだ。オーム達は朝から準備に走り回っている。何もせずにうたた寝しているのは・・・矢張り、お前だけか?シャン。
後で覚えておけ。
「はっ!!!殺気が!!!」
(・・・念話も使っておらぬのに、気付く様にはなったか。朝稽古の成果が出てるではないか?)
オームはこの宴の総てを仕切り、フラーは城の中を装飾し、フェイは私達の衣装を作った。
フェイが作ったのは、この世界の正式な礼装だ。勿論ユリの意見も参考にした。
しかし、ユリはその宴でどうしても、此方の世界に来る時に着てきた『制服』も着たいらしい。
昨夜も遅くまで悩んでいた。
「うーん・・・。」
「まだ決まらないか?」
ユリは、姿見の前で、もう小半時以上も悩んでいる。悩む姿を見るのも楽しい。茶とユリが焼いてくれた人参のけーきを楽しみながら、私は長椅子に腰掛け、フェイがいくつか候補にと作ったユリの衣装選びに付き合う。だが、それらを全て着てみせた後で、ユリは久し振りに『制服』を衣装箱から取り出した。
「やっぱり最初に制服かなあ・・・。これって、一応JKの礼服だし、アイデンティティだし!」
「あいでんてぃてぃとは、何だ?」
「えっ?あ、そっか。えーっと、なんか、わたしを表すものっていうか、JKの証っていうか・・・」
「成る程、ユリ自身を表す服か。ユリはその『制服』に誇りを持っている、という事か?」
「いやそんな大層なものじゃないですけど!でも、まあそんな感じですかね?ちょっと着てみます!」
ユリが着替えた『制服』は確かに、ユリによく似合っている。
だがしかし・・・
「裾が、少し短か過ぎはしないか?」
この『制服』では、ユリの脚が露わになる。二人きりの時ならば楽しめるが・・・この様に、私以外の男にも肌を見せるなど、して欲しくはない。
「えっ!?これ普通くらいですけど・・・セル様、なんでそんなに怒ってるんですか?」
「怒ってなどいない。しかし、その様に脚を露わにするなど・・・理解出来ぬ。」
「そんな!?でもこれ着たいし・・・ちょっとだけでも、ダメですか??」
ユリは愛らしい表情で見つめてくる。私はその表情に弱い。だが・・・
「私はあまり着て欲しくない。他の男に肌を見せるなど!!」
「えー!?やっぱり、怒ってるじゃないですか・・・。」
「いや、怒ってなどいないぞ。だが何故そんなに『制服』とやらが良いのだ?あいでんてぃてぃかもしれないが、その『制服』では・・・ユリの脚を見せすぎではないか!!」
「だから、これ普通なんですってば!逆に長くしちゃったらダサいんですって!JKじゃなくて、昔のスケバンになっちゃう!!」
「長くて・・・すけばん、とやらで良いではないか!私の魔術で、直ぐにでも長くしてやるぞ?」
「それだけは嫌です!!ねえ、ねえセル様、だめですか・・・??」
・・・この様な押し問答がさらに一時半ほども続き、結局最後は私が折れた。但し条件付きで。
それに無論、私はその後でユリの『あいでんてぃてぃ』とやらを充分に楽しませてもらったが。
「大変お待たせ致しました。我が王の妃の支度が整いまして御座います!どうぞ御客人の皆々様、お迎え下さいませ!」
オームが声を張り上げると、それまで談笑していた者達が皆黙り、扉の方を見る。
ユリは、少し化粧をして・・・『制服』を着て真っ直ぐに私を見つめながら、嬉しそうに広間に入ってきた。
満悦 まんえつ 心が満ち足りてよろこぶこと。




