魔王の後悔
フェイの背に乗り、城に着くと、側近達が慌てた様子で出迎えに出てきた。
あの人間共との争いの時、近くで私達を護衛していた魔物共が余程慌てていたのだろう。
囲まれた瞬間、念話で、人間に手出しはするなと伝えていた。
だが、ユリを捕えられ、私は頭に血がのぼった。あの魔術士の奴は、聖魔術を操っていた。あれは恐らくかなりの実力者だろう。あの主犯格の人間は、強がっていたが実力は無い。先に魔術士の奴を動けぬ様にしておくべきだった。それに気付けず、油断してしまった。
怒りで、何も考えられなかった・・・ユリの言葉が無かったら・・・私はあの場で、彼奴等を皆殺しにしていたかもしれない。
私が人間を殺せば此方が不可侵条約を破ったことになり、最悪の場合、人間の国と戦になってしまうところだった。
(・・・100年の間に、随分と私の腕も鈍ってしまったものだな。)
城に帰還すると私は直ぐに、あの人間共の素性を調べさせた。奴等は元々荒くれ者で、他の冒険者達にも好かれていなかった様だ。皆Bクラス以上の実力者だったそうだが、素行にはかなり問題が有った様で、出入禁止の街も多く暴かれていない罪も多かった。
(此方の人数が二人きりだったから、脅せば金が手に入るとでも思ったんだろう。今思い出しても・・・腹立たしい・・・。)
本当は、今すぐにでも追いかけて・・・殺してやりたい。
しかし、私がそんな事をしたとユリが知れば、悲しみ、私を嫌うだろう。漸く思いが通じ合ったというのに、ユリに嫌われたら、ユリが私の元から居なくなってしまったら・・・もう、私はこの世界で生きようとも思わない。
殺す事は出来ないが・・・苦しませ、限界まで痛めつけるぐらいなら、構わぬだろうか。そうだ、殺しさえしなければ、良いのではないか?
東国の上層部にもこの旨を即刻報告し、東国からは捕縛に向かわせたと連絡が入った。彼奴等の捕縛が済んだら、直々に『挨拶』に伺うとしよう・・・特に、ユリに怪我を負わせたあの主犯格の人間。彼奴には、丁寧に『挨拶』してやる。悶絶し、一層の事殺してくれと、哭き叫ぶまで。
・・・しかし、あの魔術士は元々仲間では無く通りすがりの、異国から来た旅人だった様で、その情報を得る事は出来なかった。
あの者が持つ魔力を、私は・・・何故か読み取る事が出来なかった。彼奴は古い魔術を操っていた。光の鎖だとユリが話したら、オームには何やら思い当たる節がある様だ。この件は、後で詳しく話を聞かねば・・・。
ユリに回復薬を飲ませて貰い、思いを伝える事は出来た。だが、その余韻に浸る事も、ユリに再び口付けする事も出来なかった。聖魔術による傷は思いの外深く、私は城に戻って後処理だけを済ませると、直ぐに寝込んでしまった。
「セル様!目が覚めましたか?」
眼を開けると、ユリが心配そうな表情で、此方を覗き込んでいる。額にある手拭いが冷たく心地良い。
「・・・ああ、どの位眠っていた?」
ユリの頬に、涙の跡がある。また泣かせてしまったのか・・・手を伸ばし、ユリの頬に触れた。冷たい。
「えっと、今は夜中で、2日間くらい、です。もう目を覚まさないかと思った・・・さっきまで、オームさん達もここにいたんですよ!」
「・・・ユリは、ずっと側に居てくれたのか?」
冷たくなった手で、私の手を握りしめ、頰を染めて笑顔になる。
「もちろん!!だって・・・わたしは・・・セル様の、つ、妻!ですから・・・。」
照れている様子も可愛らしい。そうか、漸と思いが通じ合ったのだな。ユリも私を慕ってくれている。
手を伸ばし、私の身体に掛かっていた寝具を退け、ユリの手を引き、その身体を寝台に引き寄せる。己の腕の中にユリを収めると、微かな温もりが私に伝わってきた。
「セセセセ、セル様!?」
「身体が、冷たくなっている。今宵はこのまま、ここで眠れ。・・・もう少しだけ、私の側にいてくれ。」
ユリを抱き、安堵したのか私はまた眠くなる。ああ、この娘を失わず良かった・・・二度と、あの様な失態は起こすまい・・・その晩、私はユリの温もりと鼓動を感じながら、幸福な気持ちで眠りについたのだった。
後悔 こうかい 自分のしてしまったことを、あとになって失敗であったとくやむこと。




