魔王城の廃墟
魔王城の廃墟には図書館があった。そこに収められている本たちには異世界の記述が記されていた。
年輪の図書館を漁っていたら、入手していた本たち。それは生前の魔王のコレクションでもあった。
土地神と呼ばれた神が町を建て直していく話があった。今となっては破壊されている町だが。
とある森を舞台にした童話があった。泣き虫な狼と笑う羊が協力していく話だった。今となっては大森林と呼ばれる場所のことである。
そこの空を自由に飛んでいたことを、魔王は懐かしむように語った。
影を殺された聖女の話があった。今や聖女の影はとある魔族のものとなっている。歪な愛の果てはどうなっているのか。興味が無いからそのまま放置されている。
真夜中の図書館では悪しき影の怪物がいるという。存在するのかどうかすら分からないまま。
夢見の占い師が記した博物館の記述もあった。どこか遠い国のことらしい。生前の魔王は最後の侵略先に決めていたことを、自嘲しながら言っていた。
時計職人にまつわる記述があった。その魂はどこかの時計塔にあるという。
古き神々との戦いの果ては、魔王の死であった。侵略の恐怖は去っているのか、いないのか。それは知ることができるのだろうか。
残された魔族たちは、新たな王を立てるのか、それとも先代には及ばないと思い知らされるのか。
臆病な竜とその契約令嬢は、魔王の死後に訪れ、知ることになるだろう。実現しなかった侵略計画のことを。
新たな魔王の存在は今のところ確認されていない。しかし、この廃墟に導かれるようにして招かれたことには何かしらの意味があるのだろう。
魔王の魂は臆病な竜とその契約令嬢を招き寄せた。波長が合ったのかもしれない。魂は不滅なのか、それすら分からないのだ。
古き神々の使者である勇者の末裔である契約令嬢は笑っていた。魔王が語る言葉に。かつての世界侵略者のことは知る由もない。
ただ異世界の記述が知りたかっただけ。混沌の闇が善に傾いたからこそ、知ることができた。
魔王の気持ちは何なのか。侵略の自慢だったのか。臆病な竜と契約令嬢は知りたかった。だから招きに応じたのである。悪意は魔王の魂から感じられなかったから。
どれだけ力があったとしても、どれだけ世界を手中に納めようとしても、敗北してしまえば、そこに意味は無い。
ただ魔王としての存在理由に抗えなかったのかもしれない。魂の状態になることによって、運命から解き放たれたのかもしれないのだから。
だからかもしれない。臆病な竜と契約令嬢が、魔王の魂の招きに応じようとしたのは。魂だけとはいえ、友人になれるかもしれないのだから。
その後、異世界の知識を得た契約令嬢は住んでいる国の頂点に立つことになった。そして知る。頂点の孤独というのを。しかし、彼女は恐れない。契約した竜と魂の魔王がいるから。
人からは理解されないとしても、彼女には理解者がいる。それが彼女の救いとなっているのだから。
彼女の死後のことは誰も知らない。もしかしたら死後の世界で、魔王とダンスしているのかもしれないのだからーー。




