時計の町
海底に沈んだ町にあるもの。それは時計の町と呼ばれていた。
その町に住んでいた一人の修理人は、壊れてしまった時計を修復することができていた。時計であれば、どんな状態であっても、ほぼ完璧に修理することができたのである。
仕立て屋にあった時計も、音楽祭のホールにある時計も、商人たちの時計も、郵便局にある時計も、灯台にある時計も、博物館にある時計も、影でできた時計も、喫茶店にある時計も、どんな時計であっても修理することができた。
何故、修理することができるのか。時計であるならば、竜の模型をしていても、修理することができたのである。
海底の町に行く方法も伝えられている。月明かりが照らす夜にだけ、灯台の小さな光に飛び込むと行けるらしい。試した者はいない。無謀なチャレンジだから。
小さな光も謎である。どれくらい小さな光なのか分からないのだから。
忘却の竜が眠る夜に行けるという言い伝えがある。その日がいつを指しているのかすら、誰も分からないのだ。
竜の影を追いかけた先にあるとも言われている。しかし、夜にだけ現れるというのだから、見つけることはできない。星明りでは影を追いかけるなんてできないのだから。
どうやったら行けるのだろうか。それは冒険者たちにも分からない。影の国の女王ならば知っているのかもしれないが。
砂漠の世界に言い伝えられているのは、雨をビンに詰めること。それが時計の町に行く一つの方法だと言われている。しかし、砂漠に降る雨をビンに詰めるとはどういうことなのか。
仕立て屋が言っていたが、どこか怪しい感じだった。何かを守りたいのだろうか。それは分からない。
なかには、鏡の世界に影を送ればいいというのもあった。どうやるのか方法は分からない。
様々な言い伝えがある。誰も一つにまとめようとしない。あるいは、図書館に行けばいいのかもしれない。そこにある一冊の本ならば、行くための真実の方法が記されているのかもしれないから。
しかし、その図書館へ行くための方法も、誰も知らない。謎である。
静かな月明かりの下で眠りにつく。起きるとそこは音楽ホールの中だった。声は出ない。隣の人が静かにと人差し指を口元に付け、ジェスチャーを送っていた。それで気づく。ここでは静かにすることがルールなのだと。
心の中に響いてくる楽曲たち。聴いていると涙があふれてくる。何故なのかは知らない。けれど、どこか懐かしい。ノスタルジーに浸るようなそんな感じだ。ふと、隣を見る。涙を流していた。懐かしさで涙があふれているのだろう。
時計が12時を差した。終わりの音が響く。音楽ホールから人がいなくなっていた。眠くなってきた。夢の中だというのに。
目が覚める。頬に涙の跡が残っている。夢だったのだろうか。けれども、懐かしい感じはまだ残っている。どうしてなのか分からないけれど。
もしかしたら、夢の場所は時計の町だったのかもしれない。けれど、話しても信じられないのだろう。ホラ吹き詩人に話してみようか。彼ならばホラ吹きのネタができたと喜んでくれそうである。記憶を失ったとしても、最後の嘘になるとしても、構わないのだからーー。




