タイトル不明の本
その図書館に納められている一冊の本は、様々だった。
透明人間の王国を舞台にした殺人事件があるページには書かれていた。
別のページでは、魔女と呼ばれた女性の遺品のカタログが書かれていた。
新しい神々のことが書かれたページもある。苦しみの中で吐き出すように紡がれていた。
ただの修理人ではない職人の半生を描いた物語もあった。
嘘つきの英雄譚も納められている。彼の最後の嘘は破られていて分からない。
死者への手紙を届ける郵便の話もあった。誰もが免れることのできない死への抗議文だったのかもしれない。
月は上った。されど、それを奪おうとする者と守る者たちの戦記がそのページにはあるだろう。
世界は災厄の手に渡っていた。なのに、村人がそれを取り戻せたのは何故だろうか。
夢を記録する機械の物語がそこにはあった。もしかしたらとある魔王の手に渡っていたのかもしれない。
一冊の本に収録されているのに、その内容は雑多である。しかし、何故か一つにまとめられていた。
透明人間の王国にどうやって行くことができるのだろうか。もしかしたら、突如として人々が消え失せてしまったあの町のことを差しているのだろうか。ただ、透明にさせられただけで、人々が今も営んでいるのかもしれない。
遺品のカタログを読もうとして、都合の悪い事実を隠そうとして、殺されてしまったのかもしれない。
古き神々の中には、相手を透明にさせる力があるという。その神々の一柱の告白を吐き出したのかもしれない。
あるいは、修理人が殺されてしまったのを書き残したのが、殺人事件なのかもしれない。
嘘つきの英雄が最後に語ったのが、もしかしたら読まれるのを恐れた人物によって、破られてしまったのかもしれない。都合の悪い真実を闇に葬るために。
死への抗議は通ったのか、それとも退けられたのか。どちらなのか誰も知らない。
月の争奪は誰が知っているのか。狼を知っているのか。吠えた時にだけ知れるだろう。
災厄によって世界は滅ぼされようとしていた。なのに、命運をただの村人が握ったのは何故なのか。
もしかしたら、世界の夢はとある魔王の手に渡っているのではないだろうか。でなければ、夢が実体を持つことはないのではないか。真相は闇の中かもしれないが。
魔女の王国を統べているのは一人の大魔法使い。彼女ならば、魔王と渡り合えるかもしれない。魔神と呼ばれた彼女ならば、魔法の全てを極めた彼女ならば。
英雄たちが頼ったのは一人の修理人。彼の手によって、あらゆる武具は本来の力を取り戻せた。
最後の勇者は獣となって、月を守っているという。古き神々との戦いを、死してなお繰り広げている。
彼の安寧はどこにあるのだろうか。
名も無いタイトル不明の本は、著者が不明の本は、図書館の一角に納められている。
最後に読まれたのは、もう何十年も前のこと。次に読まれるのは何時なのか。それは司書にも分からないーー。




