黒い太陽
とある国に昇る太陽はなぜか黒かった。人々は呼んだ。黒い太陽の国だと。
神獣である白狼に育てられた王女は知っていた。王家に伝えられた伝承では、先祖である王が古き神々の一柱に逆らったために、この国にだけ昇る太陽は黒いのだと。つまり、古き神々による呪いなのだ。
呪いを晴らそうと、代々の王たちはあらゆることを行なった。しかし、それは叶わなかった。
だからこそ民衆は失望していたのである。どうせ、太陽を元に戻すことはできないだろうと。
それでも王女は諦めなかった。古き神々による呪いを解いて、太陽を元に戻すのだ。そう決意していた。
あらゆる勇者を送り込んだが、誰も古き神々による呪いを解く術は見つからなかった。全部が全部裏目に出てしまったのである。
そこにホラ吹き詩人が現れる。名前を喰らって生きる怪物を倒せば、名前を忘れた竜は、名前を取り戻せるだろうと。
怪物を倒すためには、妖精の鍛冶屋が打ち鍛えた虹色の剣が必要になるのだと。
その方法までは語られなかった。しかし、白狼から言われていたことを王女は思い出した。
ある村に住んでいる村人ならば妖精を見つけることができる。幼い頃に妖精と語り合っていた村人ならば、虹色の剣を見つけることができる。何故なのかは分からない。けれども、それに賭けてみるしか、王女には方法が無かったのである。
ほどなくして、妖精と語り合っていた過去を持つ村人が現れた。今では時計職人の弟子になっていたのだが。それでも、虹色の剣が見つかるならばそれで良いと思っていた。しかし、勇者と呼ばれた者たちは、村人が持っていた虹色の剣を振るどころか、あまりの重さに持つことがやっとだったのである。村人は少し重たそうに持ってきたのに。
王女は頭を悩ませた。虹色の剣が見つかった。しかし、今度は使い手がいない。ホラ吹き詩人を待つしかない。そう思っていた矢先である。
今、王女がいる村にホラ吹き詩人がいたのである。そして、ホラ吹き詩人は語りだす。
道化師ならば、持つことも振るうこともできるだろう。彼女ならば軽々と扱い、虹色の剣を振ることができるだろう、と。
王女は影武者である自身の道化師を秘密裏に呼んだ。そして、虹色の剣を持たせた。彼女は軽々と扱い、虹色の剣を振ることができたのである。
王女は影武者である道化師に命じた。名前を食べて生きている怪物を倒しに行くようにと。ホラ吹き詩人が怪物への道案内を買って出た。影武者である道化師はホラ吹き詩人の案内のもと、怪物がいる洞窟へ向かい、見事怪物を倒したのである。
そして、名前を忘れていた竜は思い出した。自身の名前を。黒い太陽に向かって白い焔の吐息を吐き出した。黒い太陽を焼くかのようにして。古き神々による呪いを浄化するようにして。
あるいは、上塗りかもしれない。けれども、太陽は元に戻ったのである。何百年かぶりに。
王女は人々から称えられた。しかし、功績を誇ることはしなかった。真の功績は、彼女の影武者である道化師なのだから。
白狼は喜んだ。何百年かぶりに友人である竜が名前を取り戻せたのだから。眠っていた友人に再会できたことに喜んでいた。
ホラ吹き詩人はそのことを詩にして去っていった。どんな詩なのかは分からない。けれども、人々はもう言わなかった。黒き太陽の国ではない。太陽が昇る国へと言い伝えたのであるーー。




