風見鶏
キミはなぜ、風見鶏を見ているのかね。あの風見鶏は災いの方を向くと言い伝えがあるのだよ。
誰もいない透明人間の王国。そのなかで実体を持っているキミに私は話しかけたいと思ったのだよ。
風見鶏は今どこを向いているのだろうね。東西南北、どこへでも向く時がある。もしかしたら、竜が旋回しているのだろうね。災いの王とさえ呼ばれていたのだから。
不思議なことにこの国は皆が透明人間にさせられたのさ。それは誰の仕業だって。古き神々か、魔王の手先なのか。もはや知ることはできないのさ。何百年も国民たちは透明人間のままなのだから。
それを知らない他国の旅人たちは無人の町。無人の国と言ったけれども。キミはどう見るのかね。
仕立て屋も古本屋もパン屋も郵便局も、かつてと変わらず機能している。家の中では彫刻師が石像を彫っている。図書館も同じく。匂いは嗅ぎ取れるだろう。ただ住民が透明人間なだけで。
始まりはなんだろうね。占い師が吐いた嘘かもしれない。勇者の末裔が来た時は住民が時であることにすぐに気づいたそうだよ。使者である勇者の力の一つかもしれないね。本当のところは私でも知らないのだから。
町外れにいる墓守にでも聞いてみると良いよ。彼だけは透明人間にならずに済んでいるのだから。高齢だから反応は鈍いと思うけれども。
世界地図を広げて見たのかい。なら、この町について、国についてのメモは書かれているのかね。住民全てが透明人間になったと書かれているね。その地図は信用できるね。真実が書かれているのだから。
風見鶏が回っているね。あれは確か、雲の墓石でできているそうだよ。どんな物質だろうね。軽くて重いのだから。
この国の古本を含む全ての本は読めないのだよ。本が透明になっているせいでね。だから、彫刻師たちは石板に文字を彫ることにしたのさ。司書が語る通りに。それが風見鶏の下にある文字なのさ。興味があるなら読んでみると良い。もしかしたら、この国の真実が刻まれているのかもしれないよ。
月光が照らす夜にだけ住民たちの影は見えるそうだよ。陽光の光では見えないのに、不思議だと思わないかね。私が思うに光の強さが関係しているのではないかな。陽光の光は強いからね。影すらも覆ってしまうほど。しかし、月光ならば仄かに強い。バランスが良いのかもしれないね。
その時だけ、この国の呼び名が変わるのさ。影の国にね。しかし、一時的なもの。真の影の国ではないのだから。
真の影の国に行きたいのかい。なら、この国とは違う図書館に行くと良い。少なくとも、この国の図書館はキミの目には見えないだろう。月光に照らされれば分かるかもしれないけれども。
月光のパンを食べてみたかい。あれは美味しいね。月光の持つ光の粒を上手く生地に練り込むことができたからかもしれないよ。本当かどうかは分からないがね。
キミが探しているのは涙の画集かね。なら、墓守に聞いてみると良い。彼ならば画集のある場所を知っているはずだから。
占い師に気を付けたまえ。彼女の吐いた嘘によって、この国は変わってしまったのだからね。あるいは誰かに唆されてしまったのかもしれないけれども。
私はキミの無事を祈っているとしよう。この国に巻き込まれないためにも。風見鶏が回りだした。
どこの方角かは分からない。ゆえに気を付けたまえ。キミの旅の無事を祈っているよ。キミの目的が叶うことをーー。




