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9、HYDRA CHRYSALIS ―AWAKENING― 「境界が崩れた時、世界は真実に目覚める」  作者: Nao9999


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第69話 ECLIPSE

世界を救う者は、一つではない。


同じ未来を願っていても、

辿り着こうとする答えは、それぞれ違う。


正義は、いつも一つとは限らない。

研究棟全体へ警報が鳴り響く。


赤い警告灯が地下施設を照らし、静寂だった空間は一瞬で緊張に包まれた。


『警戒レベル・Ω。』


『外周防衛システム、起動。』


施設の天井から複数の防壁が展開される。


しかし、次の瞬間だった。


ドォンッ!


激しい衝撃が地下まで伝わる。


天井から細かな砂埃が舞い落ちた。


「もう侵入されたのか……!」


責任者が歯を食いしばる。


モニターへ外部映像が映し出される。


完全武装した部隊が整然と前進していた。


無駄な動きは一切ない。


まるで、この施設の構造を最初から知っているかのようだった。


「内部情報を持っている……。」


澪が顔を強張らせる。


その時。


施設内スピーカーから、低く落ち着いた男性の声が響いた。


『榊悠真。』


悠真は顔を上げる。


『君とは戦いたくない。』


『HYDRAコアを我々へ引き渡してほしい。』


静かな口調だった。


威圧ではない。


まるで交渉を望んでいるようだった。


悠真は施設内マイクへ近づく。


「あなたは誰だ。」


数秒の沈黙。


『私は特別対策機関《ECLIPSE》統括責任者――神崎零司。』


「ECLIPSE……。」


初めて聞く組織名だった。


しかし責任者だけは表情を変えた。


「まさか……まだ存在していたのか。」


悠真が振り返る。


「知っているんですか?」


責任者はゆっくり頷く。


「都市伝説だと思っていた。」


「政府にも属さない。」


「どこの国にも存在記録がない。」


「だが世界中の超常現象へ密かに介入していると言われる組織……。」


神崎の声が再び響く。


『誤解があるようだ。』


『我々は世界を支配したいわけではない。』


『世界を生かしたいだけだ。』


その言葉に、始原の雫が小さく波打つ。


『……また同じ過ちを繰り返すのか。』


誰にも聞こえないほど小さな声。


だが悠真だけは確かに聞いた。


「同じ過ち?」


問い掛けようとした、その瞬間。


ズガァァン!!


地下施設の隔壁が爆発した。


白煙が立ち込める。


そこから一人の男がゆっくり歩いてくる。


黒い戦闘服。


胸には銀色の三日月を模した紋章。


年齢は四十代半ばほど。


鋭い眼差しを持ちながらも、その瞳には悲しみが宿っていた。


「……神崎。」


責任者が呟く。


神崎零司は悠真を見つめる。


「初めまして、榊悠真。」


「君を迎えに来た。」


武器を構える様子はない。


敵意も感じられなかった。


だが、その後ろでは武装部隊が静かに展開している。


「迎えに?」


悠真は警戒を解かない。


神崎は静かに頷いた。


「榊蒼一とは、一度だけ約束を交わした。」


その言葉に、空気が変わる。


「蒼一を知っているのか!」


神崎はゆっくりと目を閉じる。


「ああ。」


「親友だった。」


その一言は、誰の予想も超えていた。


澪も責任者も言葉を失う。


神崎は始原の雫へ視線を向ける。


「だが彼は最後、私の選択を否定した。」


「だから私はECLIPSEを作った。」


悠真は静かに問い掛ける。


「何のために。」


神崎は迷いなく答えた。


「人類を生き残らせるためだ。」


「たとえ世界を切り捨てることになっても。」


その言葉と同時に。


始原の雫が、これまでで最も大きく揺れた。


『……始まる。』


『二つの未来が。』


悠真は神崎を見つめる。


ようやく理解した。


ここから先は、怪物との戦いではない。


未来を懸けた、人間同士の選択が始まるのだ。

第69話をお読みいただき、ありがとうございました。


新たな組織《ECLIPSE》、そしてその統括責任者・神崎零司が姿を現しました。


彼は敵なのか、それとももう一人の救世主なのか。


第4章では、単純な善悪では語れない「思想の対立」が物語の中心となっていきます。


次回は、榊蒼一と神崎零司の過去、そして二人が決別した本当の理由が明かされます。


引き続き『HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH―』をよろしくお願いいたします。

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