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9、HYDRA CHRYSALIS ―AWAKENING― 「境界が崩れた時、世界は真実に目覚める」  作者: Nao9999


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第67話 最終記録室

真実は、隠されるから価値があるのではない。


誰かを守るために隠された時、

その真実は、最も重い意味を持つ。


扉の向こうで待っていたのは、

過去ではなく、未来へ託された意志だった。

重厚な隔壁が、ゆっくりと左右へ開いていく。


長い間閉ざされていたはずの最終記録室には、不思議なほど埃がなかった。


室内は円形だった。


中央には透明な円柱状の装置。


その周囲を幾重にも取り囲む演算装置は、今なお微かな駆動音を響かせている。


「……生きてる。」


澪が思わず呟いた。


三十年以上前に閉鎖された施設とは思えない。


まるで誰かが、昨日まで管理していたかのようだった。


悠真が一歩踏み出す。


その瞬間だった。


――ドクン。


胸の奥でNOAHが脈打つ。


【NOAH LINK 4.8%】


【最終記録室と同期】


【管理者権限を承認】


円柱の内部へ蒼い光が灯る。


続いて、部屋全体へ柔らかな光が広がった。


『ようこそ。』


女性の声だった。


穏やかで、どこか懐かしい。


澪が周囲を見回す。


「誰?」


姿はない。


だが声だけが、部屋全体から響いていた。


『私は榊美咲。』


『この記録は、西暦二〇四八年六月十八日に保存されました。』


悠真は息を止める。


写真の女性。


記録庫で見た女性。


その人物が、今まさに語りかけている。


蒼い粒子が集まり、一人の女性の立体映像が浮かび上がった。


白衣をまとい、穏やかな笑みを浮かべている。


『もし、この映像が再生されたのなら。』


『蒼一の願いは届いたのでしょう。』


その笑顔が、一瞬だけ寂しげに揺らぐ。


『私は研究者でした。』


『でも、本当は一人の母親でもありました。』


悠真の心臓が大きく鳴る。


「母親……?」


幼い頃から失われていた記憶。


その欠片が胸の奥で震え始める。


『悠真。』


美咲は真っ直ぐこちらを見つめる。


『あなたが、この映像を見ているのね。』


その優しい眼差しに、悠真は言葉を失った。


『あなたは実験のために生まれた子ではない。』


『誰かの代用品でもない。』


『あなたは、私たちが心から望んで生まれてきてくれた、大切な子どもよ。』


澪が静かに目を伏せる。


悠真は拳を握り締めていた。


長い間、自分はHYDRA計画のために作られた存在なのではないかという恐れがあった。


その恐れを、美咲の言葉が静かに打ち消していく。


『HYDRA計画は、人を作る計画ではありません。』


『人類が、人類であり続けるための計画でした。』


映像の背後に、巨大な青い球体が映し出される。


「これが……。」


責任者が思わず前へ出る。


『これが初代HYDRAコア。』


『すべては、この一滴の水から始まりました。』


球体の中心では、一滴の蒼い水が重力を無視するように浮かんでいた。


それは鼓動するように、ゆっくりと脈打っている。


『生命は水から生まれました。』


『そしてHYDRAは、水そのものが生命へ近づいた存在です。』


『だから敵ではない。』


『ただ、人類とは違う進化を選んだだけ。』


悠真は黒海で聞いた言葉を思い出す。


――帰りたい。


あの願いは嘘ではなかった。


突然、映像が小さく乱れる。


ノイズが走る。


美咲は少しだけ表情を曇らせた。


『……時間がないようね。』


『最後に、一つだけ伝えるわ。』


部屋全体が低く振動し始める。


責任者が無線を取る。


「外で何が起きている!」


『こちら外部班!』


『山全体で地震を観測!』


『施設の地下から巨大な反応が……!』


通信が途切れる。


同時に、美咲の映像も不安定になった。


『悠真。』


『地下へ行って。』


『そこには、私たちが最後まで封印し続けたものが眠っている。』


『でも覚えていて。』


『封印されている理由は、危険だからではない。』


『まだ、人類には早かったから。』


映像はそこで静かに途切れた。


部屋には再び静寂が戻る。


しかし、その静寂は長く続かなかった。


ゴゴゴゴゴ……


床の中央がゆっくりと左右へ開き始める。


暗闇の奥へ続く螺旋階段。


その底からは、淡い蒼い光が静かに漏れ出していた。


悠真はその光を見つめ、小さく息を吸う。


「……行こう。」


誰も反対しなかった。


すべての始まりへ向かうために。

第67話をお読みいただき、ありがとうございました。


ついに榊美咲が姿を現し、HYDRA計画の本来の目的が語られ始めました。


悠真の出生に関する大きな誤解も解け、物語はいよいよ「起源」へと迫ります。


次回は、研究棟地下に眠る封印と、HYDRA計画最大の秘密が明らかになります。


引き続き『HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH―』をよろしくお願いいたします。

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