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9、HYDRA CHRYSALIS ―AWAKENING― 「境界が崩れた時、世界は真実に目覚める」  作者: Nao9999


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第66話 失われた研究棟

地図に残る場所と、

人の記憶に残る場所は、必ずしも同じではない。


消された真実は、

誰かが忘れたからではない。


誰かが、忘れさせたのだ。

蒼一が遺した最後の映像。


その直後にNOAHが示した座標は、日本本土の内陸部を指していた。


調査船《蒼鯨》は一時帰港し、政府対策本部との合同調査が決定する。


「本当に行くの?」


出発前、澪が静かに尋ねた。


悠真は迷うことなく頷く。


「行かなきゃ終わらない。」


「蒼一が最後に託した場所なんだ。」


数時間後。


ヘリコプターは深い山々の上空を飛んでいた。


眼下には鬱蒼とした森林が広がり、人の気配はない。


「目的地まで残り二分。」


操縦士の声が響く。


やがて木々の隙間に、巨大なコンクリート施設が姿を現した。


「……あれか。」


施設は半ば崩壊していた。


蔦が壁を覆い、窓ガラスはほとんど割れている。


入口には錆びた看板が倒れていた。


そこにはかろうじて文字が残っている。


《中央生命工学研究所 第七研究棟》


悠真は息を止めた。


その名前に、胸の奥が反応する。


――ドクン。


【NOAH LINK 4.1%】


【登録施設を確認】


【第七研究棟】


「登録施設……?」


思わず呟く。


澪が不思議そうな顔をする。


「何か分かったの?」


「ここを……NOAHは知っている。」


責任者が周囲を警戒しながら口を開く。


「この施設は三十年以上前に閉鎖されたと記録されている。」


「火災事故で全焼したことになっているが……。」


目の前の建物は焼失していなかった。


確かに老朽化はしている。


だが、火災で焼け落ちた痕跡は見当たらない。


「記録が違う。」


悠真が静かに言う。


誰かが、事故そのものを書き換えた。


重い扉を押し開ける。


軋んだ音が静かな廊下へ響いた。


空気は冷たい。


しかし埃は少ない。


まるで、つい最近まで誰かが管理していたようだった。


壁には色褪せた写真が並んでいる。


白衣姿の研究員たち。


その中央に立つ男。


榊蒼一。


そして、その隣には一人の女性が写っていた。


長い黒髪。


穏やかな笑顔。


悠真は写真の前で立ち止まる。


「この人……。」


記録庫で見た女性だった。


幼い自分へ微笑みかけていた、あの女性。


写真の下には、小さな銘板が残されていた。


《主任研究員 榊 美咲》


「榊……美咲。」


悠真はその名前を口にする。


胸の奥に、忘れていた温もりが蘇る。


優しく頭を撫でる手。


「大丈夫。」


そう語りかける声。


だが、その記憶はそこで途切れた。


突然。


施設全体の照明が一斉に点灯する。


バチッ――


誰も触れていない。


それでも長い眠りから目覚めるように、廊下の奥まで白い光が灯っていく。


澪が小さく後ずさる。


「電気が……。」


責任者が無線を握る。


「外の班! 異常はあるか!」


返答はない。


ノイズだけが流れる。


そして、廊下の最奥。


固く閉ざされていた隔壁が、低い駆動音とともにゆっくり開き始めた。


ゴォォォ……


暗闇の向こうから、一つの声が響く。


『認証を確認。』


『継承者・榊悠真。』


『第七研究棟、最終記録室を開放します。』


悠真は静かに息を吸った。


蒼一が残した「最後の答え」は、すぐその先にあった。

第66話をお読みいただき、ありがとうございました。


悠真たちは、NOAHが示した座標の先にある「第七研究棟」へ辿り着きました。


そこで明らかになったのは、榊蒼一だけではない、もう一人の重要人物――榊美咲の存在です。


この研究棟には、HYDRA計画の起源と、悠真の過去を結ぶ真実が眠っています。


次回、第67話では「最終記録室」が開かれ、物語の核心へと踏み込んでいきます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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