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9、HYDRA CHRYSALIS ―AWAKENING― 「境界が崩れた時、世界は真実に目覚める」  作者: Nao9999


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第65話 最後の記録

死者は語らない。


だからこそ、その声が届いた時、人は現実を疑う。


だが真実とは、信じるものではない。


向き合うものだ。

ブリッジには重苦しい静寂が流れていた。


大型モニターに映る男。


榊蒼一。


誰もが知るHYDRA計画の中心人物。


そして、悠真が記録庫で見届けた人物でもある。


「……そんなはずがない。」


悠真は思わず呟いた。


「蒼一は、あそこで――。」


言葉は最後まで続かなかった。


画面の榊蒼一はゆっくりと顔を上げる。


そして静かに話し始めた。


『もし、この映像を見ている者がいるなら。』


『私はもう、この世界には存在していない。』


ブリッジの空気が張り詰める。


『これは生前に記録された、最後のメッセージである。』


澪が小さく息を吐いた。


「録画……。」


責任者も緊張した表情のまま画面を見つめる。


榊蒼一は続ける。


『人類は長い間、黒海を災厄と呼んできた。』


『だが、それは半分だけ正しい。』


『黒海は敵ではない。』


『我々が理解できなかった現象だ。』


悠真は目を閉じる。


黒海の向こう側で聞いた言葉。


――帰還。


あの存在は確かに敵意だけではなかった。


『我々は恐怖から境界を築いた。』


『しかし境界は、世界だけではなく、人の心までも分断した。』


映像の蒼一は少しだけ微笑んだ。


『だから私は、一つの希望を残した。』


『榊悠真。』


その名前に、悠真の鼓動が大きく鳴る。


『君がこの映像を見ているなら。』


『私は賭けに勝ったことになる。』


澪が悠真を見る。


責任者も何も言わない。


『君は私よりも、人を信じられる。』


『だから君に託す。』


『境界を壊すのではない。』


『繋ぎ直してくれ。』


その瞬間。


映像が大きく乱れた。


ノイズが走る。


蒼一の背後に、誰かが立っていた。


白衣姿の女性。


顔は映らない。


しかし、悠真の胸が締め付けられる。


記録庫で見た記憶。


あの女性だった。


『蒼一。』


女性が静かに呼ぶ。


『時間よ。』


蒼一は振り返り、小さく頷いた。


『分かっている。』


そして最後に、カメラへ向き直る。


『もう一つだけ。』


『HYDRA計画は、私一人では完成していない。』


『本当の設計者は――』


映像が完全に乱れた。


ザーッ……


画面が真っ黒になる。


「そこで終わりなのか!」


責任者が思わず机を叩く。


通信担当が慌てて確認する。


「データはここで途切れています!」


「破損ではありません!」


「最初から、ここまでしか……。」


悠真は画面を見つめたまま動かなかった。


本当の設計者。


榊蒼一ではない誰か。


白衣の女性。


そして、自分が断片的に見た幼い頃の記憶。


すべてが一本の線になりかけている。


その時だった。


――ドクン。


胸の奥でNOAHが脈打つ。


【NOAH LINK 3.6%】


【新規データを受信】


【発信源……不明】


悠真の視界に、一瞬だけ座標が映る。


北緯。


東経。


日本国内。


その場所を見た瞬間、悠真の表情が変わった。


「……そこなのか。」


澪が振り向く。


「悠真?」


悠真は静かにモニターを見つめた。


「榊蒼一が、本当に最後に残した場所。」


「そこに、全部の答えがある。」

第65話をお読みいただき、ありがとうございました。


榊蒼一が遺した最後のメッセージ。

そして「HYDRA計画には、もう一人の設計者がいた」という新たな真実が明かされました。


第4章では、これまで散りばめられてきた伏線が少しずつ一つへと収束していきます。


次回は、悠真たちが新たな座標へ向かい、物語は新たな局面へ突入します。


引き続き応援よろしくお願いいたします。

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