第64話 共鳴する継承者
世界は静かに変わり始めた。
誰にも知られない場所で。
誰にも気付かれないまま。
そして今、運命に選ばれた者たちの意識が、初めて交わろうとしていた。
調査船《蒼鯨》は、予定を変更した。
目的はただ一つ。
海底から現れた蒼い光柱の監視。
しかし、その光は一切揺らぐことなく、空へ向かって伸び続けていた。
「まるで……世界樹みたい。」
澪が呟く。
誰も否定しなかった。
その幻想的な光景とは裏腹に、世界各国は混乱へ陥っていた。
黒い水域の拡大。
原因不明の集団夢。
通信障害。
電子機器の異常。
そして各地で確認される、蒼い粒子。
ニュースは一日中、その話題ばかりだった。
悠真はブリッジを離れ、一人で甲板へ出る。
夜風が頬を撫でる。
見上げた夜空には、いつもと変わらぬ星々が瞬いていた。
「……本当に始まったんだな。」
そう呟いた瞬間。
胸の奥が熱くなる。
――ドクン。
【NOAH LINK 2.8%】
【共鳴反応 発生】
蒼い文字が浮かぶ。
同時に、視界が白く染まった。
「っ……!」
立っていられない。
膝をついた悠真の意識は、一瞬だけ別の場所へ引き込まれる。
そこは雪原だった。
吹き荒れる吹雪。
砕けた観測基地。
そして、一人の青年。
あの映像で見た青年だった。
彼は雪へ片膝をつき、苦しそうに胸を押さえている。
『聞こえるか。』
突然、その青年が顔を上げた。
まるで悠真が見えているかのように。
悠真は目を見開く。
「……俺が見えるのか?」
青年も驚いた表情を浮かべる。
『お前も……。』
言葉は最後まで続かなかった。
世界が大きく揺れる。
二人の間へ蒼い粒子が流れ込み、景色そのものが崩れ始める。
『時間がない。』
青年は立ち上がる。
『俺は北海道・北極海観測基地所属……』
通信が乱れる。
名前だけが聞き取れない。
『……継承された。』
『でも、一人じゃ抑えられない。』
その瞬間。
青年の背後で雪原が割れた。
黒い亀裂。
そこから、ゆっくりと黒い水が溢れ出す。
『来るな!』
青年が叫ぶ。
次の瞬間、巨大な黒い腕が亀裂から伸びた。
青年は蒼い粒子を纏い、その腕へ飛び込む。
激しい閃光。
そこで視界は途切れた。
悠真は甲板へ倒れ込む。
「悠真!」
澪が駆け寄る。
肩で息をする悠真の額には、大粒の汗が浮かんでいた。
「今のは……夢じゃない。」
「誰かと……繋がった。」
澪は息を呑む。
「やっぱり継承者同士は……。」
悠真はゆっくり頷く。
「互いの意識が共鳴してる。」
その時、船内放送が鳴り響く。
『緊急連絡!』
『政府対策本部より通信!』
責任者の声が甲板まで響く。
「悠真君! すぐブリッジへ!」
二人は走り出す。
ブリッジの大型モニターには、日本政府の緊急記者会見が映し出されていた。
壇上へ立った人物を見た瞬間。
悠真は息を止める。
「……そんな。」
画面に映っていたのは。
死んだはずの男だった。
榊蒼一。
その姿が、世界中へ向けて静かに語り始めようとしていた。
第64話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに継承者同士が「共鳴」し始め、世界各地の異変が一本の線で繋がり始めました。
そして物語の最後に現れた、死んだはずの榊蒼一。
彼は本当に生きているのか、それとも別の存在なのか。
次回、第65話では、第4章最初の大きな謎が動き出します。
引き続きよろしくお願いいたします。




