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9、HYDRA CHRYSALIS ―AWAKENING― 「境界が崩れた時、世界は真実に目覚める」  作者: Nao9999


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第82話 ORIGINの門

門とは、境界のためにある。


向こうへ行くためでも。


こちらへ帰るためでもない。


本当に恐ろしい門は、

開いた瞬間にはもう遅い。

巨大な目が開いた。


黒海の底。


海底都市の上空。


いや。


「あれは空じゃない。」


悠真は思わず呟いた。


澪が顔を上げる。


「どういうこと?」


「見られてる。」


その感覚だった。


第70話。


観測者が夜空を裂いて現れた時と同じ。


だが今回は違う。


あの目は世界の外側から見ていた。


今、目の前にある目は。


海そのものの内側から、こちらを見ている。


「……別の存在。」


神崎が低く呟く。


黒い塔——ORIGIN。


その頂上で開いた巨大な目は、瞬きすらしない。


ただ静かに。


悠真だけを見つめていた。


その時。


海の道に小さな波紋が広がる。


波紋は足元からではない。


塔の方向から伝わってくる。


一つ。


また一つ。


規則正しく。


鼓動のように。


――ドクン。


悠真の胸が同期する。


【NOAH LINK】


【6.8%】


数字が上がった。


初めて。


何の警告もなく。


自然に。


「上がった……。」


神崎の顔が変わる。


「何パーセントだ?」


「六・八。」


「そんな馬鹿な。」


神崎が端末を見る。


「通常なら適合率が上がる時は身体へ負荷が出る。」


「なのに。」


悠真は自分の手を見る。


痛くない。


苦しくない。


むしろ。


息が吸いやすかった。


「海が……。」


思わず口をつく。


「俺を拒んでない。」


その瞬間。


少年が歩き始めた。


SUBJECT 02。


彼は黒い塔へ向かっている。


振り返らない。


急がない。


まるで毎日歩いてきた道のように。


「待て!」


悠真が呼ぶ。


少年が止まる。


「そこへ行くな。」


少年は静かに首を横へ振った。


『違う。』


声は穏やかだった。


『帰るんだ。』


その一言に。


悠真の胸が締め付けられる。


帰る。


どこへ。


誰の。


「お前は誰なんだ!」


初めて。


悠真は叫んだ。


少年は少しだけ笑う。


悲しそうに。


『僕は。』


言葉が途切れる。


巨大な目が動いた。


ギギギ……


音はしない。


それでも。


世界そのものが軋むような感覚だけが伝わってくる。


少年の表情が変わる。


恐怖だった。


『来る。』


その瞬間。


ORIGINの塔の表面へ。


無数の文字が浮かび始めた。


古代文字。


いや。


文字ではない。


水流そのものが模様を描いている。


澪が息を呑む。


「あれ……読める。」


「え?」


「読める。」


自分でも驚いたように言う。


澪は塔を見つめた。


「帰還。」


一つ。


「継承。」


また一つ。


「境界。」


そして最後。


澪の声が震えた。


「母。」


悠真が振り返る。


「何?」


「最後の文字。」


澪は目を離せない。


「あれ……“母”って書いてある。」


神崎が塔を見る。


「私には模様にしか見えない。」


悠真も見えない。


読めるのは。


澪だけだった。


その時。


始原の雫から預かった記録媒体が震え始める。


カタカタ……


悠真が取り出す。


電源を入れていない。


それなのに。


画面が勝手に点灯した。


映像。


榊美咲だった。


しかし。


今までの記録映像とは違う。


こちらを見ている。


「……録画じゃない?」


澪が小さく呟く。


美咲が口を開く。


『澪さん。』


三人が固まる。


『その文字が読めるのね。』


澪の呼吸が止まる。


『なら時間がない。』


映像が乱れる。


『ORIGINは建物じゃない。』


ノイズ。


『門なの。』


悠真が息を呑む。


『開いてしまったら。』


映像が激しく揺れる。


『もう、二度と閉じられない。』


その瞬間。


巨大な目の瞳孔が開いた。


黒い塔全体が震える。


海底都市の光が。


一つ。


また一つ。


消えていく。


少年が叫んだ。


『悠真!』


初めて。


本気で叫んだ。


『目を見ちゃ駄目だ!』


遅かった。


悠真は。


巨大な目と。


完全に視線が合った。


世界が止まる。


音が消える。


光も消える。


その静寂の中で。


たった一つだけ。


声が聞こえた。


『……二人とも、見つけた。』


その声は。


観測者でも。


少年でも。


始原の雫でもなかった。


もっと古い。


もっと深い。


世界が生まれる前から。


海の底で待ち続けていた何かの声だった。

第82話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「ORIGIN」が単なる海底都市ではなく、「門」であることが示されました。


さらに澪だけが古代文字を読めるという、新たな役割も明らかになりました。


そして榊美咲の映像が、まるで現在と繋がっているかのように語りかける場面。


ここから第4章「世界胎動」は、悠真だけではなく澪にも重要な役割が生まれていきます。


最後に現れた、


『二人とも、見つけた。』


という声。


それが誰なのか。


そしてORIGINの門が本当に開いてしまうのか。


第41話から積み重ねてきた海底都市の謎が、少しずつ核心へ近づいていきます。


次回もよろしくお願いいたします。

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