ほんの束の間の息抜き
※この小説は「古代◯ーマ風の架空の帝国」を舞台にしているので、史実とは色々相違があるかと思いますが大目に見ていただけると幸いです。
※この小説の主人公は「彼女」です。
彼女が将軍の邸宅に連れ去られてから一ヶ月が過ぎた。
彼女にとって、夜は「苦痛の時間」と化した。夕食の宴の間は相変わらずお酌係をさせられたし、宴が終わった後は度々将軍に襲われた。
しかし、そんな彼女にも安らぎの時間はあった。それは「将軍が遠征で数日間不在の時」であった。
夕食は自室で落ち着いて好きなもの(質素なスープとパン)を食べることができたし、将軍が自室に来るかもしれないという恐怖から解放されて深く眠ることができた。
農村で暮らしていた彼女にとって、日中は「仕事の時間」であったが、将軍の妾となった今は特にしたいことも思いつかず退屈な時間であった(生まれついての上流階級の女性は、こういう時に様々な趣味に興じているらしいが…)。
外ばかり眺めて手持ち無沙汰な様子の彼女を見かねて、彼女の専属の女召使いは一つの提案をした。
「編み物を、してみませんか?」
当時の編み物は現代の編み物と違って細い糸を編むという更に膨大な時間がかかる物であったが、時間を持て余した彼女にとっては魅力的な提案であった。
即座に「はい!」と返事をした。
金を出せば職人から衣服を入手できる上流階級の人々と違い、自分達で着る物を全て作らないといけない農民の女性にとって、一度手順さえ覚えれば編み物は造作もない事であった。不器用な女性であればストレスになりそうな細かい作業が彼女にとっては苦痛では無かった。編み物はすぐに"夢中になれる趣味"となった。
―――将軍が遠征から帰ってくるまで、は。
彼女は、自分の作品が将軍に見つかると良くないような予感がしたので、将軍が邸宅に居る間は編み物の道具一式と作品はベッドの下に隠していた。
それが、気が付いたら姿を消していた。
紛失した事に気付いた彼女は、青白い顔で女召使いのほうを見た。女召使いも心当たりがないようで、首を左右に振った。
アイツだ!アイツが盗ったんだ!!
…しかし、将軍を責め立てるなど、不可能であった。この邸宅において将軍に逆らうことなど誰一人としてできなかった。
世間では女性達が憧れる「将軍の妾」という立場は、彼女にとっては恨めしいものでしかなかった。
将軍のウマシカ!!!
私も物書きの端くれなので、自分のために作ったものが他人に無断で持ち去られる苦痛はめちゃ分かるつもりです。
それが自分にとって「唯一の拠り所」だとしたら…彼女の喪失感は、どれ程だったのでしょうね…
ちなみに、彼女は編み物で作ったものは自分で身に付けるために作っていました。上達したら女召使いにも贈るつもりでした。
将軍の分?コイツのために作るなんて天地がひっくり返ってもナイですな。
メイン活動(漫画)の作業のために前回からだいぶ時間が経ってしまいましたが、その間にも何人か小説を見てくれた人がいたのかビューが増えていて…嬉しいです。
読んでくださった方々全員に感謝でございます。
【追記】
女召使いは、将軍から主人公との必要最低限以外の接触及び会話を禁じられていました。なので主人公との会話はしないのではなく「したくてもできない状況」でした。編み物一式紛失の件で無言で首を振ったのも、そのためです。実は主人公に編み物を勧めた時も、内心では緊張していました。余計なマネをしたら将軍に殺されるのではないか、と。それでも、主人公の切ない横顔を黙って見ていることはできなかったのだと思います。




