1-6 ナナの誕生⑥
ところが、麗亜は、意外な才能が徐々に発揮されることとなる。
それは、会場の様々なセットや、多くのテーブルや、会場全体の飾り付けなどのデザイン等の打ち合わせの時であった。コスメが、まず提案した条件は、モデル事務所としての感謝祭ということで、あまり地味にならないようにしたいが、かといって華やかな中にも上品なイメージで行きたいという、なかなか微妙な具合のところで、コスメも、自分からの提案でありながら、そんなことでは難しいと自ら感じていて、皆、その大きな壁にぶつかっていて、企画の内容がなかなか進まないでいた。
すると、ある時、コスメから、
「麗亜。」
これは、実槌麗亜が、その苗字は、とても言いにくいのと、彼女に、とても親しみを感じていたので、こう呼ぶようになっていた。
「麗亜、今日から、会議に慣れていくために、感謝祭の打ち合わせ会議に出させてあげるから、出席してね。会議の雰囲気に慣れて、そのうちに、意見をだしたり、参加もできるように、皆の意見を聞いたり、勉強になることとか、よくメモをとって頑張ってね。」
「ええっ、会議で出させてもらえるなんて、いいんですか。ありがとうございます。頑張ります。」
そう言うと、ぺこりと頭を下げた。これこれ、彼女は、本当に、とても礼儀正しくて、いつも誰からも好感を持たれる態度が、コスメは、何よりも気に入っていた。本当に、見た目が綺麗だけでなく、心も綺麗で性格も良いので、どこの現場に行っても好かれていた。
感謝祭のパーティー会場のレイアウトや飾り付け等の内容が行き詰まって、日にちが過ぎていて、だいぶ締め切りも押していて、皆、頭を抱えていた。いつも、ただ、無駄な意見ばかりだったり、華やかさを意識しすぎて、品のないデザインなどばかりが目立って進まない。本当なら、専門のデザイナーに、すべて一括して発注すれば良いのだが、それだけでも予算の10倍はかかってしまうので、それはさすがに難しかった。
「皆、もう少し、何かもっといいアイデアはないの。まあまあのアイデアは出てるけど、カラフルなのはとてもいいけど、品がなくてだめだったり、上品ばかり考えて、なんかすごい地味過ぎて今ひとつ。自分からの提案で難しいのはわかるけど、何かこう、突き抜けたようなアイデアはないかしら。全体のデザインとか、バランスは良いように思うけど、品がないのよね。」
すると、社員の1人が、
「社長、これは、もう、その条件だと、プロの専門家でないと難しいんじゃないでしょうか。」
「そうね。もう私たち、素人じゃ限界なのかもね。」
すると、会議に見学で会議室の角に立っていた麗亜が、恐る恐る手を少し上げながら、
「あのう。私も、ちょっとだけいいでしょうか、、、。」
「あら、なあに?麗亜、」
「私も発言させて頂いても、よろしいでしょうか。」
「いいわよ。何か、アイデアがあるの。」
すると、今回、この感謝祭に関わっているイベント会社の担当社員、目鯨から、
「社長、あの子は、まだ無理ですよ。」
「あら、いいじゃない。これも勉強よ。意見の内容は、もちろん大切だけど、意見を言うこと、そのものが勉強になるのよ。」
「社長は、あんな若い子には、甘いんですね。」
「それでは、正面モニターを見て頂きながら、説明させて頂いてよろしいですか。」
「もちろんよ。その方が言葉だけよりもわかりやすいからいいわね。」
すると、パソコンに座ると、それを操作しながら説明を始める麗亜。
「これは、デザインとかは、もうかなりすばらしいですよね。そして、皆さん、もっと上品にとか、逆に地味過ぎるとか、言っているのですが、実は、まず、カラフルな部分は、色の配置をまず変えてみると、、、、。」
そう言いながら、パソコンを操作して色をかえたり、色の配置を変えていく麗亜。
すると、皆、驚き始めたのだった。
皆、口々に、
「だいぶ雰囲気が変わったな。少しさっきよりも落ち着いた感じで、さっきよりはまだ良いんじゃないか。」
すると、さっき意見した目鯨から、
「だけど、これじゃ、まだ色合いがきついと思う。ただ少しいじってごまかしただけで、所詮、若い子が知識もないのに、遊び感覚でいじったに過ぎないな、ねえ、社長。」
「うーん、そうね、そこまで言うことはないと思うけど、さっきよりはいいじゃない。」
「さっきより良いのが解決したことには、ならないでしょう。多少良くすることは、これまで皆でやってきたじゃないですか。だから、できなかったんだから。」
「目鯨さん、あなた、イベント会社のプロなのは、わかるけど、それはさすがに言い過ぎじゃない。」
「私が言いたいのはですね。何十年もプロもしてやってきてる私よりも、あんな若い、それもずぶの素人に意見など聞くからですよ。正直言って、プロの私がいるのに、あんな素人の小娘になんか意見を求めるなんて、全く気がしれない。」
すると、麗亜から、
「ごめんなさい。わたしのせいで、もめないで下さい。これ、あと1つ、まだお見せすることがあったので、お願いします。」
と言うと、麗亜は、さらにパソコンを操作しながら、
「あとは、ですね。全体的に、目にはわからない程度の色なんですが、微妙に色のついた光を当てるんです。すると、、、。」
皆、どよめき始めた。
「おおおお、全体的に、色合いが落ち着いてきて、なんて品のある雰囲気なんだ。」
「ああ、その光を当てただけで、こんなに変わるとは思わなかった。しかも、その光の色そのものは、見た目にはわからない。」
すると、社長も、
「そうね、それに、余計な費用もかさまなくて、こんなに効果があるなんてすごいアイデアね。麗亜、あなた、色彩のこと、どこかで勉強したの。」
「いいえ、そんなことは、ないですけど、こういうこと、好きなんです。」
目鯨は、言葉が見当たらない。
「そうね。この若い子の意見を取り入れて、このまま立場がなくなったら、申し訳ないので、目鯨さんは、これで、もうけっこうよ、あなたもその方がいいでしょう。」
「えっ、いや、あのですね。」
「いやあ、ごめんなさいね。うちは、若い子の意見でも、良い意見は、すすんで採用しているので、あなたたちのポリシーとは合わなそうね。では、これで、お疲れ様でした。」
「いや、その、、、。わかりました。じゃ、これで失礼します。」
目鯨は、とてもバツの悪そうな顔で、会議室から出ていった。
すると、コスメは、
「よかったわ。あの人ね、何から何まで自分の言うことが、1番良いアイデアだって言うから、会議が進まなかったのよ。かといって、こちらからは、ぜんぜん良いアイデアが出ないから、ここまで言う通りにするしかなかったけど、麗亜のお陰で、見返してやれたわ。まあ、別に見返したいわけじゃなかったんだけどね。とにかく、麗亜さんのアイデアは、よかったわね。あなた、見学じゃなくて、これからも会議に参加して意見を、どんどんだしてね。やはり、良いアイデアの思いつきって、年齢じゃないわね。」
「ありがとうございます。これからも、頑張りますので、宜しくお願い致します。」
そして、深々と頭を下げて、皆、笑いながら拍手をした。




