潤の父、突如そば打ちに目覚めて暴走する
ある休日の朝。広瀬家のリビングに、妙に張り切った父の声が響いた。
「よし……今日から俺はそば打ち職人になる!」
潤と母は同時に固まった。
「……え?」
「……そば?」
父は胸を張った。
「昨日テレビで見たんだ。そば打ちって……ロマンがあるだろ!」
◇父、そば打ち教室に通い始める
翌週。父は本当にそば打ち教室に通い始めた。
帰宅するたびにテンションが高い。
「見てくれ潤! 今日の俺の“こね”は先生に褒められた!」
「母さん!俺の“のし”はもうプロ級だ!」
母は苦笑いしながら言った。
「はいはい、すごいわね……」
潤は心の中で思った。
(父さん……そばに人生を賭け始めてる……)
◇初めての手打ちそばを振る舞う父
そしてついに、父の初作品が食卓に並んだ。
「どうだ! 俺の手打ちそばだ!」
潤と母は恐る恐る箸を伸ばす。
……おいしい。
潤は驚いた。
「父さん……これ本当においしいよ……」
母も頷いた。
「コシがあるし、香りもいいわね……」
父は目を輝かせた。
「だろ⁉俺はそばの才能があるんだ!!」
その日、父は一日中ご機嫌だった。
◇そして暴走が始まる
翌日。
「今日もそば打ったぞ!」
2日目。
「昨日よりコシが強いぞ!」
3日目。
「そば粉の配合を変えてみたぞ!」
4日目。
「今日は“十割そば”だ!」
5日目。
「見ろ! これが俺の集大成だ!!」
潤と母は、毎日そばを食べ続けていた。
◇さすがにうんざりする母と潤
6日目の夜。食卓にまたそばが置かれた。
父は満面の笑み。
「さあ、今日のそばはどうだ!」
潤はそばを見つめた。
(……僕、そば好きだけど……さすがに6日連続は……)
母はついに言った。
「お父さん……そばはおいしいけど……そろそろ……違うものも食べたいわ……」
潤も静かに頷いた。
「僕も……そば以外のものを……」
父はショックを受けた。
「えっ……そば……飽きた……?」
母は優しく言った。
「飽きたというか……そば以外の料理も恋しいのよ……」
潤も続けた。
「父さんのそばは本当においしいんだけど……そろそろ……」
父はしばらく沈黙した。
そして小さくつぶやいた。
「……そば職人の道は……険しいな……」




