潤、VTuber挫折を佐伯に報告する
昼休み。広瀬潤(39)は、どこか魂が抜けたような顔で佐伯の席へ歩いてきた。
佐伯はコーヒーを飲みながら言った。
「……その顔、絶対なんかあっただろ」
潤は椅子に座るなり、深刻な声で言った。
「佐伯……僕……VTuberになろうとしたんだよ……」
佐伯は一瞬固まった。
「……は?」
◇潤、挫折の全容を語る
潤は机に突っ伏しながら語り始めた。
「昨日の休日、午後まるまる使って……VTuberの始め方を調べて……ソフト入れて……モデル作って……設定して……」
佐伯は嫌な予感がした。
「……で?」
潤は遠い目をした。
「全部……よくわからなかった……画面真っ黒のまま動かないし……モデルは僕に似てないし……設定項目が多すぎて……気力ゼロになって……布団にダイブした……」
「布団にダイブしたのかよ!!やけどパターンじゃないか!!」
潤は静かに頷いた。
「僕……VTuber向いてなかったんだよ……」
佐伯は笑いながら言った。
「まあ……潤には難しいだろうな……」
◇しかし佐伯には“秘密”があった
潤はさらに続けた。
「佐伯……VTuberって難しいんだな……僕、もう諦めたよ……」
その瞬間、佐伯の心臓が跳ねた。
(……言いたい……めちゃくちゃ言いたい……俺、VTuberやってるって……)
そう、佐伯はかねてから密かにVTuberとして活動していた。
夜な夜な配信し、登録者数もそこそこいる。だが職場には誰にも言っていない。
潤は真剣な顔で言った。
「佐伯、VTuberってさ……やっぱり才能が必要なんだよ……」
佐伯の心は揺れた。
(いや、言いたい……才能なくてもできるって言いたい……むしろ俺がやってるって言いたい……でも言えない……!)
潤はさらに追い打ちをかけた。
「VTuberやってる人たち……僕、尊敬するよ……」
佐伯の心は爆発寸前だった。
(やめろ潤!!そんなこと言うな!!言いたくなるだろ!!)
佐伯は必死に口を閉じた。
「……まあ……VTuberは……向き不向きがあるからな……」
声が震えていた。
◇最後は佐伯が耐えきる
潤はため息をついた。
「僕はもうVTuber諦めるよ……やっぱりカレイを煮つけるほうが向いてる……」
佐伯は心の中で叫んだ。
(言わなくてよかった……危なかった……潤にバレたら絶対面倒なことになる……俺の配信に“シュレーディンガーのカレイ”の話題が出てきてしまう……)
佐伯は深呼吸して落ち着いた。
「まあ……潤は潤らしく生きればいいよ」
潤は頷いた。
「ありがとう佐伯……僕、VTuberはやめるよ」
佐伯は心の中でガッツポーズした。
(よし……助かった……!)




