佐伯、余暇中にかかしを見つける
休日の午後。同僚の潤もいない、完全なるオフ。佐伯は近所の公園を散歩していた。
「やっぱり休みの日は静かでいいな……職場の“シュレーディンガーの人”騒ぎから離れられるし……」
そう、あの騒ぎ。潤がかかし事件を広め、職場全体が「シュレーディンガーの人」を気に入り、局長の佐藤まで使い始めたあの混沌。
佐伯だけが置いてけぼりだった。
◇公園の片隅に“それ”はいた
ふと、公園の端に視線を向けると——
人影が立っていた。
帽子をかぶり、じっと前を向いている。
佐伯は思った。
「……あれ、誰か立ってるのか?」
近づいてみる。
動かない。
さらに近づく。
まったく動かない。
そして気づく。
「……かかしじゃん……」
佐伯は固まった。
◇思い出してしまう“あの言葉”
脳内に、職場のあの声がよみがえる。
「確認するまではシュレーディンガーの人だよ!」
「量子かかしだ!」
「局長まで使ってるぞ!」
「今日の案件はシュレーディンガーの人状態だな!」
佐伯は頭を抱えた。
「……いやいやいや……なんで俺、休日にまで思い出してるんだよ……あれは職場のノリだろ……!」
しかし目の前のかかしは、まさに“人かもしれないし、かかしかもしれない”状態だった。
佐伯は悔しさで震えた。
「……くそ……なんでこんなときに限って……あの言葉がぴったりなんだよ……!」
◇認めたくないのに、ぴったりすぎる
佐伯はかかしを見つめた。
「……いや、これは……どう見ても……シュレーディンガーの人……なんだよな……」
言ってしまった。
自分で言ってしまった。
佐伯は膝に手をついてうなだれた。
「……潤のやつ……なんでこんな言葉を流行らせたんだ……俺まで使っちゃってるじゃないか……悔しい……!」
公園の風が静かに吹いた。
かかしは何も言わない。
ただ、佐伯の敗北感だけが残った。




