潤、かかし事件と“シュレーディンガーの人”を職場に広める
翌朝。広瀬潤(39)は、昨日佐伯に話した“かかし事件”を、なぜか職場の休憩室でも語り始めていた。
「いや〜昨日さ、玄関に立ってた人に荷物渡そうとしたら、かかしだったんだよ。かかしに『お荷物でーす!』って二回言っちゃってさ〜」
周囲の同僚たちは笑いながら聞いていた。
「広瀬さん、それは面白すぎる」
「玄関にかかしって何!?」
「見間違えるのは仕方ないよな〜」
潤は得意げに続けた。
「でもね、僕気づいたんだよ。かかしって、確認するまではシュレーディンガーの人なんだよ」
同僚たちは一瞬静まり——次の瞬間、爆笑した。
「なにそれ最高!」
「人かもしれないし、かかしかもしれないってこと?」
「今日から使うわそれ!」
潤は満足げだった。
◇局長・佐藤まで気に入る
そこへ局長の佐藤が通りかかった。
「なんだなんだ、楽しそうだな」
同僚が説明した。
「局長、広瀬さんが“シュレーディンガーの人”って言ったんですよ。かかしを確認するまでは人かどうかわからないって」
佐藤は吹き出した。
「それいいな!今日の会議で使おうかな」
潤は驚いた。
「えっ、会議で使うんですか?」
佐藤は満面の笑みで言った。
「使うよ。“この案件はまだシュレーディンガーの人状態だな”って」
同僚たちはさらに盛り上がった。
「局長まで気に入ってる!」
「これ完全に職場の流行語だな」
「広瀬さん発案すごい!」
◇ただひとり、佐伯だけが置いてけぼり
そのとき、佐伯が休憩室に入ってきた。
「なんか騒がしいな。どうした?」
同僚が言った。
「佐伯さん!今ね、広瀬さんの“シュレーディンガーの人”が流行ってるんですよ!」
佐伯は固まった。
「……え?あれ……昨日潤が言った変なやつだよな?」
同僚たちは笑いながら言った。
「いや〜あれ最高だよ!」
「使い勝手良すぎる!」
「今日から業務用語にするわ!」
佐伯は頭を抱えた。
「なんでだよ……なんでそれが職場に広まってるんだよ……理解が追いかないんだけど……」
潤は肩を叩いた。
「佐伯、時代は量子だよ」
佐伯は叫んだ。
「量子じゃない!!かかしだろ!!」
しかし職場の空気は完全に“シュレーディンガーの人”一色になっていた。




