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潤、“シュレーディンガーの人”を広めようとする

 午後の配達。広瀬潤(39)は、住宅街の一軒家に荷物を届けに来ていた。


 玄関前には、帽子をかぶり、コートを着た人影が立っていた。


 潤は思った。


「……あ、家主さんかな?」


 荷物を持ち直し、声をかけた。


「こんにちは〜!お荷物でーす!」


 返事はない。


 潤はもう一度言った。


「お荷物でーす!」


 やはり返事はない。


 そのとき潤は気づいた。


「……これ……動かない……?」


 近づいてみると——それはかかしだった。


 ◇潤、誰も見ていないか確認する


 潤は固まった。


「……かかしに話しかけてた……?」


 周囲を見渡す。


 誰もいない。


「……よし、誰も見てない……このままチャイムを押せば……何事もなかったことになる……」


 潤はそっとかかしの横を通り、チャイムを押した。


 ◇家主が出てくる


 家主が玄関から出てきた。


「はーい、荷物ですね。ありがとうございます」


 潤は完璧な笑顔で言った。


「はい!こちらです!」


 家主は受け取りながら言った。


「助かります〜。暑い中ご苦労さまです」


 潤は胸を張った。


「いえいえ、配達完了です!」


 完全に“何事もなかった”雰囲気である。


 ◇しかし最後に


 家主はふと玄関前を見た。


 そして潤に向き直り、にこやかに言った。


「そういえば今……かかしに渡そうとしてましたよね?」


 潤は固まった。


「…………え?」


 家主は笑った。


「ずっと見てましたよ。かかしに『お荷物でーす!』って言ってましたよね?」


 潤は真っ赤になった。


 家主は優しく言った。


「大丈夫ですよ。あのかかし、よくできているんです」


 ◇帰り道


 潤はため息をついた。


「……見られていたのか……かかしに荷物渡そうとしてるところ……恥ずかしすぎる……」


 しかし少し笑った。


「まあ……かかしも確認するまではシュレーディンガーの人だな……」


 

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