潤、婚活パーティでもカレイを確定させない
日本海側の港町で郵便配達をしている広瀬潤(39)は、最近「婚活を始める」と宣言した。その朝、実家のリビングで母が声をかけた。
「潤、今日の婚活パーティ、ちゃんと普通の話をするのよ」
「もちろんだよ。僕の“シュレーディンガーのカレイ理論”を披露する絶好の場だよ」
「やめなさい」
父が即答した。
◇婚活パーティ開始
会場はホテルのラウンジ。男女がテーブルを囲み、軽食をつまみながら自己紹介をしている。
潤は緊張しつつも、どこか自信満々だった。
「今日は絶対に僕の哲学が刺さるはずだ……」
最初に話しかけてきた女性が微笑んだ。
「広瀬さん、趣味は何ですか?」
潤は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「釣りです。そして、僕は“シュレーディンガーのカレイ”という理論を発明しました」
女性は一瞬固まった。
「え……?」
潤は勢いよく説明を始めた。
「釣り上げるまで、マコガレイかもしれないし、マガレイかもしれないし、イシガレイかもしれないし、ムシガレイかもしれないし、クロガレイかもしれない。つまり、同時に全部であり、同時に全部じゃない状態なんです」
「は、はぁ……」
女性は笑顔を保とうと必死だった。
◇潤、止まらない
別の女性が話しかけてきた。
「広瀬さん、休日は何をしてるんですか?」
「釣りです。船でもそして、魚屋でもカレイを見るたびに“これはマコガレイだ!”と言っては家族に否定されます」
「えっと……それは……楽しいんですか?」
「楽しいですよ。人生そのものが“シュレーディンガーのカレイ”なんです」
「じ、人生が……?」
女性は目を泳がせた。
◇空気が冷えていく
潤はさらに熱弁を続けた。
「婚活も同じです。出会う前は、相手がどんな人かわからない。つまり“シュレーディンガーの婚活”なんです」
「……」
「確定するまでは、可能性が無限なんですよ!」
「……あ、あの、飲み物取ってきますね」
女性はそっと席を離れた。
◇さらに冷える
別のテーブルでも潤は語り続けた。
「郵便配達も“シュレーディンガーの郵便”なんです。配達するまで中身が確定しないから」
「へ、へぇ……」
「つまり、僕の人生は“シュレーディンガーの三部作”で構成されているんです」
「三部作……?」
周囲の空気は、冬の日本海のように冷え切っていた。
◇そして伝説へ
司会者が声を張った。
「そろそろフリータイム終了です。最後に気になる方へメッセージカードを……」
潤は胸を張った。
「今日は僕の理論を確定させる日だ……!」
しかし、潤のカードは誰にも届かず、誰からも届かなかった。
司会者が優しく声をかけた。
「広瀬さん、今日は……その……独創的なお話でしたね」
「ありがとうございます。僕の理論はまだ確定していませんから」
「そ、そうですね……」
◇帰宅
家に帰ると、母が聞いた。
「潤、どうだった?」
「誰にも“確定”されなかったよ」
「そりゃそうだろうな」
父が即答した。
潤は海を見ながらつぶやいた。
「婚活も、人生も、カレイも……全部シュレーディンガーなんだよ」
「潤、もう少し普通の話を覚えなさい」
母は笑いながら肩を叩いた。
こうして潤の婚活は、初回から伝説的な方向へ進んでいくのであった。




