潤と佐伯、回らない寿司屋で震える
仕事終わりの夕方。広瀬潤(39)と同僚の佐伯は、今日は奮発して回らない寿司屋へ来ていた。
「いや〜、たまには贅沢しないとな」
「だな。今日はカレイ食べたい気分だわ」
「カレイの握り、絶対うまいよな……!」
ふたりは期待に胸を膨らませていた。
◇カレイ、まさかの品切れ
大将が笑顔で言った。
「いらっしゃい。今日は何にします?」
潤は即答した。
「カレイください!」
大将は申し訳なさそうに言った。
「すまんなぁ……今日はカレイ、品切れなんだ」
潤は固まった。
「えっ……カレイが……?」
佐伯は肩を叩いた。
「まあまあ、他にもあるだろ。いわしとかひらめとか」
潤は気を取り直した。
「じゃあ、いわしお願いします!」
大将は言った。
「いわしも今日は終わっちゃってねぇ」
潤は目を丸くした。
「えっ……じゃあひらめは?」
「ひらめも終わり」
「つぶがいは?」
「終わり」
「いかは?」
「終わり」
「まぐろの赤身は?」
「終わり」
潤はテーブルに突っ伏した。
「終わりすぎじゃないですか……?」
佐伯も困惑していた。
「なんでこんなに終わってるんだ……?」
◇何があるのか聞いてみた
潤は恐る恐る聞いた。
「……あの……逆に……何がありますか……?」
大将は元気よく答えた。
「かっぱ巻き!かんぴょう巻き!いなり寿司!」
潤と佐伯は顔を見合わせた。
大将は続けた。
「それと……時価のウニ!大トロ!のどぐろ!」
ふたりは固まった。
そして潤は震えながら言った。
「え……その……中間の……普通のネタは……?」
大将は笑った。
「今日はないんだよ!」
佐伯は頭を抱えた。
「極端すぎるだろ……!」
◇ふたりの選択肢が地獄の二択になる
潤は悩んだ。
「かっぱ巻き……かんぴょう巻き……いなり……それか……時価のウニ……大トロ……のどぐろ……」
佐伯は財布を見た。
「時価は怖い……でも巻物だけってのも……」
潤は震えた。
「僕……カレイ食べに来たんだよ……なんで“かっぱ巻きor時価の大トロ”なんだよ……選択肢の幅が狭すぎる……!」
佐伯はため息をついた。
「潤……今日はもう巻物でいこう……時価は命がけだ……」
潤は静かに頷いた。
「……かっぱ巻きください……」
佐伯も言った。
「……いなりで……」
大将は元気よく返事した。
「はいよ!かっぱといなりね!」
◇帰り道
店を出たふたりは、夜風に当たりながら歩いた。
潤はつぶやいた。
「……僕ら、回らない寿司屋で……かっぱ巻きといなりだけ食べて帰ったんだよね……?」
佐伯は遠い目をした。
「……次は普通のネタがある日に行こう……」
潤は深く頷いた。
「うん……次こそカレイを……」




