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潤、カレイの恩を忘れないネコに玄関をふさがれる

 広瀬潤(39)は、仕事を終えて夕暮れの住宅街を歩いていた。


「今日も疲れたな……早く家に入って横になりたい……」


 自宅の一軒家が見えてきた。玄関の前に立ったその瞬間——


 潤は固まった。


「……あれ?」


 玄関前に、ネコが2匹ちょこんと座っていた。


 ◇2匹のネコ、完全に玄関を封鎖する


 1匹は白黒のハチワレ。もう1匹は茶トラ。


 どちらも潤の家の玄関をど真ん中でふさぐ位置に座っている。


 潤は言った。


「え……なんで僕の家の前に……?」


 ネコたちは同時に潤を見上げた。


 その目は——「来たな、カレイの人」と言っているようだった。


 潤は思い出した。


「……あっ……この子たち……前に釣ったカレイをあげたネコだ……!」


 ◇ネコたち、まったく動く気がない


 潤は恐る恐る声をかけた。


「すみません……僕、ここに入りたいんですけど……」


 ハチワレはゆっくりまばたきした。茶トラはあくびした。


 どちらも動く気ゼロ。


 潤は困った。


「いやいやいや……僕の家なんだけど……?」


 ◇ネコたち、期待のまなざしを向ける


 潤が一歩近づくと、2匹は同時に顔を上げた。


 その目は明らかにこう言っている。


「今日のカレイは?」


 潤は叫んだ。


「いや、今日は釣ってないよ⁉仕事帰りだよ⁉カレイ持ってないよ⁉」


 ネコたちはじーっと潤を見る。


「じゃあ何か別のものでも?」


 そんな空気。


 潤は完全に負けそうだった。


 ◇潤、説得を試みる


「ごめんね……今日は何も持ってないんだ……だから……ちょっとだけどいてくれると……僕、家に入れるんだけど……」


 ネコたちは——


 完全に無視。


 茶トラはむしろ玄関のど真ん中で寝そべった。


 潤は叫んだ。


「なんでくつろぐの⁉そこ僕の玄関!!」


 ◇しかし、突然の変化


 そのとき、ハチワレが立ち上がり、玄関の横へ歩いていった。


 続いて茶トラも立ち上がり、ゆっくりと道を開けた。


 潤は驚いた。


「えっ……?どいてくれるの……?」


 ハチワレは潤を見上げて「ニャ」と一声。


 その声はまるで——


「今日はカレイないのね。じゃあまた来るわ」


 と言っているようだった。


 ◇ようやく玄関に入る潤


 潤は鍵を開けながらつぶやいた。


「……ネコって……カレイを忘れないんだな……」


 靴を脱ぎながら、少し笑った。


「次は……カレイじゃなくて煮干しでも置いとこうかな……」


 

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