潤、カルビの“いまひとつ”を引きずりながら郵便を配る
前日の夜。佐伯に連れられて入った店は、遠目では焼肉屋のように見えたものの、実際はホルモン屋だった。
そして潤がずっと食べたかったカルビは——店のウリではないらしく、脂のノリも、肉の厚みも、どこか物足りなかった。
潤は誰にも言わなかった。佐伯は善意で連れてきてくれたのだ。文句を言うなんてできない。
しかし翌日。郵便配達の仕事に出た潤は、朝からどこか気力が抜けていた。
◇郵便配達中の“カルビロス”
自転車をこぎながら、潤はポストに手紙を投函する。その動作がいつもよりゆっくりしている。
(昨日のカルビ……ずっと食べたかったのに……いまひとつだった……ホルモンはうまかったけど……カルビは……カルビは……)
郵便物を配りながら、ふと焼肉屋の看板が目に入る。
(カルビ……)
しかしそこは定休日だった。
潤は静かに自転車をこぎ出した。
◇気力が抜けた配達員
マンションの郵便受けに封筒を入れながら、潤はぼんやりとつぶやいた。
(僕は……カルビを食べたかっただけなのに……どうして……どうしてこうなるんだ……)
階段を上る足取りも重い。郵便受けの扉を閉める音も弱々しい。
(カルビ……いまひとつだった……それだけで……こんなに心が沈むなんて……僕は……どれだけカルビを求めていたんだ……)
◇ちょっとした温かさ
昼前。潤は古いアパートの郵便受けに配達していた。そこに住むおばあさんが、ちょうど玄関から出てきた。
「いつもありがとうねえ。暑いのに大変でしょう」
潤は少し驚いて顔を上げた。
「……いえ……そんな……」
おばあさんは笑いながら、小さな飴玉を潤の手にそっと乗せた。
「これ、のどにいいからね。頑張りすぎないようにねえ」
潤は飴玉を見つめた。
「……ありがとうございます……」
その飴玉は、昨日のカルビの残念さで沈んでいた心に、じんわりと温かさを広げた。
(……カルビはいまひとつだったけど……こういう優しさって……なんか……沁みるな……)
潤は飴を口に入れ、ゆっくりと自転車をこぎ出した。
気力が、ほんの少し戻っていた。
◇潤の心に小さな回復
午後の配達は、朝よりも少しだけ軽い気持ちで進んだ。
(次こそ……ちゃんとしたカルビを食べよう……佐伯には言わないけど……僕は……カルビを諦めない……)
潤の心には、昨日よりも少しだけ前向きな風が吹いていた。




