潤、今度はトイレットペーパーに阻まれる
広瀬潤(39)は、ここ最近ずっと焼肉に振り回されていた。ホルモンに阻まれ、カレイに吸い寄せられ、ハムは在庫切れ、宝くじは200円。
「……もういい……ふるさと納税でブランド牛を頼んで、家でゆっくりカルビを焼くんだ……!」
潤はパソコンを開き、ふるさと納税ポータルサイトで“ブランド牛”のページを食い入るように見つめた。
◇ついにカルビの未来が見えた
「これだ……!A5ランク黒毛和牛カルビ1.2kg……!これなら絶対焼肉だ……ホルモンでもハムでもない……純粋な焼肉……!」
潤は申し込みボタンに手を伸ばした。
その瞬間——
「潤、ふるさと納税するならトイレットペーパーにしてちょうだい」
母の声が聞こえた。
「………………え?」
父が続ける。
「うち、最近トイレットペーパーの減りが早いんだよ。肉より紙のほうが助かる」
「いやいやいやいや……僕は今、カルビを選ぼうとしてたんだよ……紙じゃなくて肉だよ……焼肉だよ……!」
「紙のほうが実用的でしょう?肉はすぐなくなるけど、紙は残るわよ」
「それに、トイレットペーパーの返礼品って量が多いんだ。家計に優しいぞ」
(カルビも普通に買うより家計に優しいはず……だけど……)
◇しぶしぶ応じる潤
「……じゃあ……トイレットペーパーに……します……」
「助かるわ〜」
「いい選択だぞ、潤」
(僕は……A5ランク黒毛和牛カルビを……トイレットペーパーに変えた男……)
潤は震える指で“トイレットペーパー128ロール”を選択した。
◇数日後
巨大な段ボールが届いた。両親が言った。
「わあ、助かるわねえ!これでしばらく安心だわ!」
「潤、いい返礼品選んだな」
(お肉は……?)
段ボールを開けても、そこにあるのは白いロールの山。
「……僕は……焼肉を求めて……紙を手に入れたんだ……どうして……どうして僕は肉にたどり着けないんだ……?」
◇夜
佐伯からメッセージが届いた。
「潤、今日飲みに行くか?いいホルモン屋があって——」
(ホルモンの無限ループ……)
「佐伯……僕は……カルビを選ぼうとして……トイレットペーパーを手に入れた男なんだ……今日は静かにしていたい……」
「何を言ってるんだ?」
こうして潤の“焼肉への道”は、ふるさと納税の返礼品によってまた遠ざかるのであった。




