潤、マコガレイを脳内で確定させる
大型の魚屋で値札に負け、マコガレイ→カラスガレイに切り替えた広瀬潤(39)。
潤は佐伯を家に呼び、台所でカラスガレイを煮つけにしていた。
「ふふ……煮つけにすれば……ほぼマコガレイになるはずだ……」
つぶやきながら鍋を見つめる。
「潤、ほんとにそれでいいのか」
「いいんだよ。煮つけは“たれの味が勝つ”から、魚の違いなんてほぼ消えるんだよ」
「いや、そんなことないだろ」
◇カラスガレイ煮つけ、完成
潤は湯気の立つ煮つけを前にして、箸をそっと入れた。
「……うん……柔らかい……」
「どうだ?」
「……白身が……ほろっとして……」
「どうだ?」
「……これは……マコガレイだ……」
「いや、カラスガレイだよ」
潤は満足げに頷いた。
「佐伯……僕は天才だ」
「嫌な予感しかしない」
◇潤、衝撃の事実に気づく
「そもそも僕……マコガレイの煮つけを食べたことがないんだよ」
「えっ」
「だから……カラスガレイの煮つけをマコガレイだと思い込むのは……めちゃくちゃ簡単なんだよ!」
「いや、それただの未経験だろ」
潤はさらに続けた。
「つまり、僕の脳内の“マコガレイの煮つけ”は……想像上の味なんだよ」
「それはそうだろ」
「だから、カラスガレイの煮つけを食べれば……その想像に自動的に一致するんだよ!」
「潤、それはただの思い込みだよ」
潤は胸を張った。
◇潤、自己納得の極みへ
「佐伯、僕は新しい理論を発明した」
「またかよ」
潤は真剣な顔で言った。
「“未経験の味は、何を食べても一致する理論”だ!」
「そうか」
「つまり、僕が食べたカラスガレイの煮つけは……僕の脳内のマコガレイの煮つけと一致したんだよ!」
「潤、それは一致じゃなくて脳内が空白なんだよ」
潤は満足げに笑った。
◇両親の反応
母が台所に来た。
「潤、いい匂いね。何の煮つけ?」
「カラスガレイ……でも僕の脳内ではマコガレイなんだ」
「潤、もう寝なさい」
父が即答した。
潤は鍋を見つめながらつぶやいた。
「今日の煮つけは……“食べたことのないマコガレイを脳内で確定させる日”だったんだ……人生は……シュレーディンガーのカレイなんだ……」
こうして潤の一日は、また奇妙な哲学とともに幕を閉じた。




