潤、マコガレイを求めてコンビニを巡る
ある日の夕方。広瀬潤(39)は突然、胸の奥から強烈な欲求が湧き上がった。
「……マコガレイの煮つけが食べたい……!」
仕事帰りの疲れた体に、あの優しい白身と甘じょっぱい煮汁が染み渡るイメージが浮かんだ。
「これは……今日絶対に食べないといけないやつだ……」
潤は勢いよく家を飛び出した。
◇1軒目のコンビニ
近所のコンビニに到着。潤は惣菜コーナーへ直行した。
「マコガレイ……マコガレイ……」
しかし、棚に並んでいたのは——
シャケの塩焼き サバの味噌煮
潤は固まった。
「……マコガレイが……いない……」
店員が補充をしていたので聞いてみた。
「すみません、マコガレイの煮つけってありますか?」
「えっ……マコガレイは……さすがに置いてないですね……」
潤はショックを受けた。
「シャケとサバ……どちらも美味しいけど……今日は……マコガレイじゃないとダメなんだ……」
潤は決意した。
「別のコンビニに行こう……!」
◇2軒目のコンビニ
潤はクルマで5分の別のコンビニへ。
「ここなら……あるはずだ……!」
惣菜コーナーへ向かうと——
サカナが一切置いていなかった。
潤は膝から崩れ落ちた。
「……魚が……ゼロ……?そんなことある……?」
店員に聞いてみた。
「すみません、魚の惣菜ってありますか?」
「今日は入荷がなくて……ゼロです」
「ゼロ……ゼロ……」
潤は完全に打ちひしがれた。
「マコガレイどころか……魚の影もない……」
◇再び1軒目へ
潤は戻ってきた。
「……結局ここしかない……」
惣菜コーナーを見つめる。
シャケの塩焼き サバの味噌煮
潤は深呼吸した。
「……今日は……サバの味噌煮で妥協しよう……」
サバ味噌を手に取りながら、潤はつぶやいた。
「このサバ……味が濃いから……食べてるうちに……マコガレイの煮つけだった気がしてくるかもしれない……」
◇帰宅
母が言った。
「潤、何買ってきたの?」
「サバ味噌……でも……僕の心の中ではマコガレイなんだ……」
「潤、もう寝なさい」
父が即答した。
潤は満足げに笑った。
「今日は……“マコガレイを求めてサバ味噌に落ち着く日”だったんだ……人生は……確定しない……全部……シュレーディンガーの煮つけなんだ……」
こうして潤の一日は、また奇妙な哲学とともに幕を閉じた。




