潤、雨に降られない奇跡の一日
朝6時。広瀬潤(39)は、玄関でレインコートを着ながら深いため息をついた。
「降水確率80%……絶対降るじゃないか……今日は一日中びしょ濡れ確定だ……」
母が声をかけた。
「潤、まだ降ってないじゃないの」
「母さん、降水確率80%は“ほぼ確定”なんだよ」
「潤、80%を確定扱いするな」
父が即答した。
◇朝から空は真っ黒
家を出ると、空はどんより。厚い積乱雲が空一面を覆い、まるで「今すぐ降るぞ」と脅してくるようだった。
潤は郵便バイクにまたがりながらつぶやいた。
「この雲……絶対に僕を狙ってる……。いや『父さんは80%は確定じゃない。降るまで確定しない“シュレーディンガーの雨”だ』と言っていたよな……降るかもしれないし、降らないかもしれない……」
言っていない。
そこに佐伯が通りかかった。
「潤、また変なこと言ってるな」
「いや、今日は本当に危険なんだよ。この雲は“積乱雲”だ」
「確かに降りそうだ。配達、気を付けような」
◇午前中:降りそうで降らない
潤は郵便を配りながら、空を何度も見上げた。
「うわ……今にも降りそう……。それも油断した瞬間に降る……」
しかし、降らない。
ポストに郵便物を入れるたびに、潤は空を睨んだ。
「雲の圧がすごい……僕の人生で一番“降りそう”な雲だ……」
しかし、降らない。
◇昼:雨雲の圧が増す
昼休憩。佐伯と合流した潤はコンビニの駐車場で空を見上げた。
「佐伯……見てくれ……雲がさっきより黒い……」
「確かに黒いけど、降ってないな」
「これは……“降る”の次のレベル、“降る降る”だよ……」
「なんて言った?」
しかし、降らない。
潤は弁当を食べながら、ずっと空を監視していた。
「今にも降る……絶対降る……僕が動いた瞬間に降る……」
しかし、降らない。
◇午後:もはや奇跡
午後の配達前。潤は叫んだ。
「佐伯!雲が厚すぎる!これはもう“積乱雲の壁”だよ!」
「確かに厚いけど、降ってはいないぞ」
「いや、これは自然界の罠だ……僕が油断した瞬間に……」
しかし、降らない。
潤はついに空に向かって言った。
「おい!もう降るなら降れ!」
しかし、降らない。
◇夜:結局一滴も降らない
夕方。潤は最後の配達を終え、バイクを停めた。
「佐伯……今日……一滴も降らなかった……」
「よかったな」
「降水確率80%なのに……積乱雲に包まれてたのに……僕は……濡れなかった……」
潤は感動していた。
「これは……奇跡だ……“シュレーディンガーの雨”は……最後に確定したんだ……」
「おう、よかったな」
潤は空を見上げた。
「今日の雲……全部マコガレイに見える……」
「潤、もう帰ろう」
◇帰宅
母が玄関で言った。
「潤、濡れてないじゃないの」
「母さん、僕は今日……自然に勝ったんだ……」
潤は満足げに笑った。
「降水確率80%でも……積乱雲に囲まれても……僕は濡れない日があるんだ……人生も……雨も……全部観測するまで“確定しない”んだよ……」
こうして潤の一日は、“降りそうで降らない奇跡の一日”として記憶に刻まれたのであった。




