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潤、回転ずしでも確定しない

 広瀬潤(39)は、魚屋で「スケトウダラをマコガレイだと思い込んで食べればお買い得」という謎の経済理論を構築した翌週、友人の佐伯とチェーンの回転ずしに行くことになった。


「潤、今日は落ち着いて食べるんだぞ」


「もちろんだよ。僕はもう冷静だ。ただ、カレイを見たら“確定”するだけだよ」


「それが危ないんだよ」


 ◇カレイを注文する潤


 席につくと、潤は即座にタッチパネルを操作した。


「カレイ……カレイ……あった!注文!」


「潤、チェーン店のカレイって何使ってるんだろうな」


「もちろんマコガレイだよ」


「いや、なんでそう思うんだよ」


 潤は自信満々だった。


「日本海側のチェーン店だよ?カレイと言えばマコガレイに決まってるじゃないか」


「決まってないよ」


 ◇カレイ到着


 レーンを流れてきた白身の握りを見て、潤は即断した。


「ほら佐伯、見てくれ。これはマコガレイだ」


「いや、この見た目だけじゃわからないだろ」


「この白身の輝き……この繊細な身質……これは“確定マコガレイ”だよ」


「そんな概念作るな」


 佐伯は懐疑的だった。


「潤、店員さんに聞いてみようぜ」


「いいね。確定させよう」


 ◇店員さん、まさかの回答


 店員さん(大学生らしきアルバイト)がやってきた。


「ご注文の確認でしょうか?」


 佐伯が尋ねた。


「このカレイって、何の種類ですか?」


 店員さんは一瞬固まった。


「え……えっと……カレイです」


「いや、種類は?」


「えっと……カレイです」


「マコガレイですか?」


「えっと……わかりません……」


 潤は満面の笑みになった。


「佐伯、わかったかい?」


「何がだよ」


「この状況こそ……“シュレーディンガーのカレイ”なんだよ!」


「出たよ……」


 ◇潤、理論を展開する


 潤は握りを持ち上げながら語り始めた。


「いまの状況は言い換えると……このカレイは“マコガレイであり、マコガレイでない状態”なんだ」


「いや、ただ店員さんが知らなかっただけだろ」


「つまり、確定するまでは無限の可能性を持つ……究極のシュレーディンガーのカレイなんだよ!」


「究極とか言うな」


 佐伯は頭を抱えた。


 ◇退店まで確定しない


 その後も潤はカレイを食べるたびに言った。


「これはマコガレイだ」


「いや、違うかもしれないだろ」


「違うかもしれないということは、同時にマコガレイでもあるんだよ」


「潤、もう黙って食べろ」


 結局、店員さんは誰も種類を知らず、メニューにも「カレイ」としか書かれていなかった。


 退店する頃、佐伯はもやもやしていた。


「結局、何のカレイだったんだよ……」


「佐伯、確定しないからこそ美しいんだよ」


「美しくないよ」


「今日のカレイは、永遠に“シュレーディンガーのカレイ”なんだ」


「潤、もういい帰ろう」


 潤は満足げに笑った。


 こうして潤の“カレイ哲学”は、ついに回転ずしにまで侵食したのであった。

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