届いたもの
電話をかけ直したのは、三日後だった。
業者の番号は着信履歴に残っていた。呼び出し音が三回鳴って、あの男が出た。
「あの祝儀袋、送ってもらえますか」
理由は聞かれなかった。住所を伝えると、着払いで送りますと言われ、電話は切れた。なぜかけ直したのか、自分でもわからなかった。全部処分してくれと言ったはずだった。
届いたのは翌週の土曜だった。玄関で段ボールを受け取り、リビングのテーブルに置いた。テープを剥がすと、新聞紙に包まれた菓子箱が入っていた。
蓋を開けた。祝儀袋が隙間なく並んでいる。白い封筒の列が、箱の縁まで詰まっていた。
一枚手に取った。軽い膨らみがある。封を開くと、千円札が三枚、揃えて入れてあった。旧札だった。今は見かけないデザインの、折り目のない札。次の袋も同じだった。その次も。
全部で三十四枚あった。どの袋にも千円札が三枚ずつ、同じように丁寧に入っている。
菓子箱の蓋を閉じた。
日曜の朝、子供たちを呼んだ。上の子が十歳、下が七つ。二人ともリビングに来て、テーブルの上の箱を見た。
「お菓子?」と下の子が聞いた。
「違う」
蓋を開けて、祝儀袋を見せた。
「おじいちゃんが——」
言いかけて、止まった。子供たちの前で、あの人を「おじいちゃん」と呼んだことは一度もなかった。写真も見せたことがない。この二人にとって、父の父は存在しない人間だった。
「お父さんのお父さんが、この前亡くなったんだけど」と言い直した。「この人が、お前たちにお年玉を用意してたらしい」
「会ったことないよね」と上の子が言った。
「ない」
「ふうん」
祝儀袋を一枚ずつ渡した。上の子に一枚、下の子に一枚。
「開けていい?」
「いいよ」
上の子が中を出した。千円札三枚。じっと見て、首をかしげた。
「古くない? これ」
「古い。でも使える」
「ありがとう」
下の子も開けた。「同じだ。三千円」
二人はそれぞれの千円札を握って、二階に上がっていった。
テーブルの上に三十二枚の祝儀袋が残った。
彼は椅子に座ったまま、菓子箱の中を見ていた。白い封筒が整然と並んでいる。二枚抜けた隙間が、箱の端にできていた。
あの業者は「お年玉かもしれませんね」と言った。かもしれない。それを彼は「用意してたらしい」に変えて子供に渡した。
菓子箱の蓋を閉じようとして、手が止まった。開けたまま、しばらくそこに置いた。
階段を上がる足音が消えると、家は静かになった。
しばらくして、上の子が降りてきた。
「お父さん、あのお金、コンビニで使える?」
「使えるよ」
「買い物行ってくる」
玄関のドアが開いて、閉まった。
菓子箱を持ち上げた。二枚分だけ軽くなっている。ほとんど変わらない重さだった。
蓋を閉じて、そのまま持っていた。




