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  作者: タナベヒトシ
3/14

届いたもの

電話をかけ直したのは、三日後だった。


 業者の番号は着信履歴に残っていた。呼び出し音が三回鳴って、あの男が出た。


「あの祝儀袋、送ってもらえますか」


 理由は聞かれなかった。住所を伝えると、着払いで送りますと言われ、電話は切れた。なぜかけ直したのか、自分でもわからなかった。全部処分してくれと言ったはずだった。


 届いたのは翌週の土曜だった。玄関で段ボールを受け取り、リビングのテーブルに置いた。テープを剥がすと、新聞紙に包まれた菓子箱が入っていた。


 蓋を開けた。祝儀袋が隙間なく並んでいる。白い封筒の列が、箱の縁まで詰まっていた。


 一枚手に取った。軽い膨らみがある。封を開くと、千円札が三枚、揃えて入れてあった。旧札だった。今は見かけないデザインの、折り目のない札。次の袋も同じだった。その次も。


 全部で三十四枚あった。どの袋にも千円札が三枚ずつ、同じように丁寧に入っている。


 菓子箱の蓋を閉じた。


 日曜の朝、子供たちを呼んだ。上の子が十歳、下が七つ。二人ともリビングに来て、テーブルの上の箱を見た。


「お菓子?」と下の子が聞いた。


「違う」


 蓋を開けて、祝儀袋を見せた。


「おじいちゃんが——」


 言いかけて、止まった。子供たちの前で、あの人を「おじいちゃん」と呼んだことは一度もなかった。写真も見せたことがない。この二人にとって、父の父は存在しない人間だった。


「お父さんのお父さんが、この前亡くなったんだけど」と言い直した。「この人が、お前たちにお年玉を用意してたらしい」


「会ったことないよね」と上の子が言った。


「ない」


「ふうん」


 祝儀袋を一枚ずつ渡した。上の子に一枚、下の子に一枚。


「開けていい?」


「いいよ」


 上の子が中を出した。千円札三枚。じっと見て、首をかしげた。


「古くない? これ」


「古い。でも使える」


「ありがとう」


 下の子も開けた。「同じだ。三千円」


 二人はそれぞれの千円札を握って、二階に上がっていった。


 テーブルの上に三十二枚の祝儀袋が残った。


 彼は椅子に座ったまま、菓子箱の中を見ていた。白い封筒が整然と並んでいる。二枚抜けた隙間が、箱の端にできていた。


 あの業者は「お年玉かもしれませんね」と言った。かもしれない。それを彼は「用意してたらしい」に変えて子供に渡した。


 菓子箱の蓋を閉じようとして、手が止まった。開けたまま、しばらくそこに置いた。


 階段を上がる足音が消えると、家は静かになった。


 しばらくして、上の子が降りてきた。


「お父さん、あのお金、コンビニで使える?」


「使えるよ」


「買い物行ってくる」


 玄関のドアが開いて、閉まった。


 菓子箱を持ち上げた。二枚分だけ軽くなっている。ほとんど変わらない重さだった。


 蓋を閉じて、そのまま持っていた。


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