第35話 ぶらっくたもと
第35話 ぶらっくたもと
「……まぁ、元々騙すつもりは無かったんだよ〜。一応、親戚の家で手伝いがあるって言ったじゃん?」
「確かに、俺達が呼ばれた理由ってそれだよな」
「うんうん、それは言ってたね」
「それがここのレストランのこと。昼間だけの手伝いだから、流石に俺もここに着いてから手伝うとは思ってなかったんだわ~」
そう言うとため息をついて、「そこだけはほんとにごめん」と頭を下げてきた。それを見て、仁都は食後のアイスコーラのストローを噛みながらニコりと笑う。
「別にいいよ〜。そういう理由なら仕方ない仕方ない!ね、すーちゃん!」
「まあ、それなら別にいいんだけど……。つーか、そういうことがあるなら先に言ってくれたってさ……」
「それを話したら二人が来てくれないんじゃないかって……そう、田本くんに止められました」
「ぶふっ!」
田本は不意をつかれたように飲んでいたコーラを吹き出して喉に詰まらせ、ゲホゲホと咳き込んでいた。余程変なところに入ったのか涙目になっている。
「ちょっ、ちょっと待って?!なんで俺が悪者みたいになってるの?!」
「俺は正直に言った方がいいんじゃないかと言ったんですが……田本は……田本は……」
と言うと、タオルを出してううっと泣く真似をし始めた。まるでドラマの取り調べ室で起こったかのように、坂田は刑事である俺たちに犯行を自白してきた。
連休中、鬼灯祭という祭りがある為観光客が増え、人手が足りなくなるからその手伝いをしてほしい。その有無を伝えてもいいのかどうか坂田は何気なく田本に聞いたらしい。
田本は、この手伝いの経験者。参考になる意見が貰えるのではないかと、思ったらしい。
すると、返ってきた返答は予想外のものだったらしい。
「ホントのこと言っちゃダメだよ!多分、仁都は祭りに面白がって来ると思うけど、雀宮くんに本当のこと言っちゃうと、行かないって言われちゃうよ?」
そう言う田本があまりにも迫真的だった、どうしてかと聞いてみるとこう言ったそうだ。
「ほら、それって結果的にウエイターするわけでしょ?雀宮くん、人見知りあるみたいだし、人と喋るのも、笑うのも苦手みたいだし……もしかしたら、俺は行かない〜って言われちゃうかもよ?」
そこで、なるほど確かにと思ったが、いや、それでも俺たちと喋れてるじゃん?と聞いたところ、
「……でも、俺ら以外と喋っているところあんまり見たことないよ。この前、教室に行った時も思ったけど、廊下とか玄関ですれ違う時もずっと一人でいるみたいだし……」
口に手を当てて真剣に悩んでいるように見えた為、じゃあ連れて行かない方がいいかと聞いてみた。
「え、なんで?連れて行こうよ」
……なんで?予想外過ぎるんだけど?
「だってもしかしたら、これで人見知り克服出来るかもしれないよ!荒療治かもしれないけど、どうせ人手不足なんし、連れて行こうよ?
事実を言わなきゃいいだけなんだし、言わなきゃきっと雀宮くんはNOとは言わないから大丈夫大丈夫」
と言うと、極めつけにとっておきの笑顔で
「つまり、言わなきゃいいだけであって、連れては行かない義務はないと思うよ?」
そう言って彼は坂田にこうアドバイスしたのだと言う……。
一通り全ての話を聞いたあと、俺は心の底からドン引きして田本を見た。もうそりゃあ、田本の体を目線で突き刺すように目を細くして。
うっうっ、と泣き真似をする坂田の横で「うわー、久しぶりに出たー。ブラックそうくんだ〜」と仁都はニヤニヤと笑っている。今にも堪えきれないか吹き出しそうな勢いだ。
そんな俺達の反応に田本容疑者は全力で否定した。
「ちょ、ほんとちょっと待って!違うんだって!言い方に悪意ありすぎるよ!俺は雀宮くんのことを考えてね?!」
「今更悪あがきしたって真実は変わらないのよ……!しくしく……」
「ちょっと坂田は黙ってて!ってかしくしくって自分で言う?!」
「お、珍しい。そうくんのツッコミだ」
「いいんだよ、田本。別にいいんだ。それは事実なんだし、俺そこまでショック受けてないし……」
「あれ、すーちゃん、声が震えてるよ?」
「あー、田本くんが女子泣かした〜!サイテー!」
「分かった!わかったからああもう!!頼むから弁解の余地を与えてくれよ!」
そう叫ぶ悲痛の声は、全世界に広がったことであろう(大嘘)。田本宗吾というイケメンの鏡がガラスのようにパラパラと砕け散ったのである。
落ち着いたところで話を聞けば、俺がクラスメイトと話してるところを見たことがないらしく、昼休みも放課後も一人でいる姿をよく目撃していたらしい。
そのため、人と関わることが苦手又は一人でいることが好きなのかと思い込んでしまっていたらしい。
「……言い方変わったけど中身は変わってないよ、そうくん」
「確かに。そこを仁都に指摘されたら終わりだな〜」
「いや、でも坂田の言い方は明らかにおかしいって」
「俺は一字一句間違えた記憶はありませんと神に誓います」
「も〜、さーかーたー!」
「はいはい!喧嘩しないの!食後のデザート持ってきたから仲良く食べな!」
坂田と田本の乱闘が開始されそうになるのを美由さんが止めてくれた。食後のデザートは紅茶のシフォンケーキだった。
ミントの乗った生クリームが添えられている素朴で可愛らしいものだった。プレートの柄ともあっていて女の子受けしそうなものだった。
スッとフォークが入る。程よくふわりとした弾力と、甘すぎない生クリームの相性が口の中で最高に溶け合う。お好みでブルーベリーとマーマレードのジャムをと言われ、つけてみるとこれがまた違った感じで味わい深い。
甘いものが好きな仁都は3皿程余裕でおかわりしていた。遠慮というものを知らないというか、甘いものには目がないというか……。
食事が終わると、「食器は私が洗うから、次は民宿の方の手伝いをしてきてくれる?」と言われ、休む間もなく俺達は民宿へと向かった……。
結果的に、俺達がなんでこんなことをしているかって言うと……坂田の親戚が経営するレストランと民宿を手伝う為だ。
駅に着いて、坂田に連れられるまま最初に来たのがこの民宿だった。
坂田の親戚、つまり、叔母である美由さんと叔父さんの京志さんが経営するこの民宿の名前は『汐風』。
海の香りを感じられるようにと京志さんが名付けたらしい。趣きのある綺麗な建物で木目が新しいコテージのような民宿だった。三階建てで、部屋数は九部屋とちょっと少ないが、その代わり一つ一つの部屋が大きいので家族で利用される方が多いのだとか。
暑かったでしょう?遠くなかった?などと聞かれながら、俺達は泊まる部屋へと案内された。ベッドが四つある四人部屋だ。ふかふかのシーツに枕。斑模様の絨毯にはシミがひとつもない。檜でできた洗面台やシャワールームも豪華な作りで、少し洋風な作りの部屋だった。
部屋にある窓から見える景色はまさに絶景だった。海がすぐそこに見え、潮風感じる心地よさだった。
そんな立派な部屋を堪能していると、「じゃあ、これ着てお願いね」と美由さんが紙袋を坂田に渡していた。「おっけー」と坂田が合図すると、美由さんは両手を叩いて言った。
「さあ!休んだことだし、レストランの方、手伝ってもらっちゃおうかな?」
「「「へ?」」」
……ということで現在に至る。
上手いこと騙されたとしか言いようが無い。完全に主犯は坂田である。うまい具合にやられたなあとため息をついても遅く、現実はそうそう変わらない。
民宿に着くと、頭に白いタオルを巻き付けた細身の男性がいた。細身と言えど、木材をしっかりと片腕で持ち上げる程の力は持っている。美由さんの旦那さん、京志さんである。顔はなかなかにイケメンで男らしい。少しだけ日に焼けた肌に、太陽に負けないほどの眩しい笑顔が特徴的だ。性格は穏やかで優しく、美由さんに尻を敷かれてるようなそんなタイプだった。
「おかえり。レストランの方はもういいのかい?」
首にかけたタオルで汗を拭いながら京志さんはそう尋ねてきた。
終わりましたよー、と代表して坂田が言うと「お疲れ様。じゃあ、早速だけどやって欲しいことがあるんだ」と言われ、俺達はそれぞれ、二人ずつに分かれて頼まれた仕事をすることにした。
もうしばらくしたら大きなお知らせがあります。




